石破首相は東南アジアのベトナム・フィリピンの2か国訪問を終え、30日夜、日本へ帰国する。ベトナムとフィリピンは様々な点で共通点と相違点が目立つ2つの国だった。同行記者が報告する。 (同行記者:日本テレビ・前野全範) ■ベトナム 突然の打ち上げ花火…いったい何が? 今回の首相同行取材、最初の訪問国・ベトナムで目に付いたのが、街中の至るところにあふれる「1975」と書かれ、戦車や軍人が描かれたポスターやサイネージだった。恥ずかしながら到着後に知ったが、ベトナムは石破首相訪問直後の4月30日、ベトナム戦争でのサイゴン陥落から50年を迎えるため、国を挙げてお祝いムードに包まれていた。それを一番実感したのが首脳会談後、夕食会を終え、石破首相が滞在先のホテルに戻ってきた時。 首相を歓迎しているにしては余りにも騒がしいので、窓から外を見てみると、ホテルと目と鼻の先で打ち上げ花火が次々と上がっている。さらに、どこからともなく若い人たちが通りに出てきて、ホテルの目の前の道が、いつの間にか歩行者天国状態に…。これもベトナム戦争から50年を祝うものだとのことで、騒がしい宴は深夜まで続いた。 ■ベトナムとフィリピンの共通点 中国の海洋進出、若さ、1億人 今回、石破首相が訪問したベトナムとフィリピンの共通点として、“いの一番”に挙げられるのが、南シナ海や東シナ海で中国による覇権主義的な海洋進出に直面しているという点。 ともに、中国との間で領有権を争う島々があり、日本でも起きたような中国船舶による衝突事案が頻繁に起きている。石破首相も、中国を念頭に、安全保障面で両国との連携を強化するのが訪問の目的の一つだった。 もう一つ、両国の共通点として挙げられるのが、およそ1億人の人口と国民の若さだ。両国は人口だけでなく、GDP(=国内総生産)の規模もほぼ同じで、今も高い経済成長率を誇っている。少子高齢化が進む日本に慣れてしまっているからかもしれないが、ベトナム、フィリピンですれ違う人々の年齢は、日本よりも明らかに若く感じた。ベトナムの平均年齢はおよそ32歳で、49歳の日本とは、かなりの差がある(2023年国連推計値)ことに妙な納得感があった。 ■ベトナムとフィリピンの違いは…政治体制、街中の宣伝広告 一方で、ベトナムとフィリピンの違いという面で一番大きいのが、政治体制の違いだ。 ベトナムは1975年にアメリカ軍を撤退に追い込んだ後、現在に至るまで市場経済システムは導入したものの、共産党による一党支配と集団指導体制が続いている。他方、フィリピンはピープルパワーによる政権交代などで知られる民主主義国家。 両国の政治体制の違いが如実に現れているのが、街にあふれる宣伝広告の内容だ。 ベトナムでは通常の広告に交じって時折、戦車や軍人、ホー・チ・ミンの似顔絵が描かれた広告があるのが特徴的。街中でも軍人や警察官、共産圏独特の深緑色の服を着た政府当局者の姿が目に付く。 一方、フィリピンの街中で目を引くのはタレントが笑顔を見せる様々な商品の広告。さらに、国政選挙や地方選挙で候補者への投票を呼びかける巨大な党首や、候補者の顔写真入りのポスターも多く見かける。当然と言えば当然だが、共産党一党独裁のベトナムでは、選挙ポスターの類いは一切見られなかった。 また、今、国際社会を騒がせているいわゆるトランプ関税に関しても2つの国には違いがある。 ベトナムは中国による迂回(うかい)輸出の拠点として警戒され、46%の相互関税を発表されているのに対し、アメリカとの軍事同盟国であるフィリピンは相互関税は17%にとどまっているのだ。 ■意外な共通点…渋滞とクラクション 一方、意外な点でベトナムとフィリピン両国で共通していたのが、交通渋滞がひどいこと。 特に日本と比べオートバイの交通量が極端に多く、車を圧倒する台数が、わが物顔で走り回っている。 信号無視も日常茶飯事で、交通マナーも悪く、車やバイクが通っていても、お構いなしで歩行者が道路を横断するため、移動の車中で事故が起こらないかヒヤヒヤすることが何度もあった。 そして、交通渋滞がひどいため、中心部ではひっきりなしにクラクションの音が聞こえていた。 今回、4日間という、ごく短期間の首相同行取材だったが、ベトナムとフィリピンという対照的な2か国の訪問は、東南アジアの多様性や、一筋縄では行かない外交の難しさを感じさせるには十分だった。