ファンが激怒する「上沢移籍問題」と「不透明な人的保障」 日本球界の“変なルール”は早急に見直すべきだ

 まもなく春季キャンプがスタートするプロ野球。このオフに最も物議を醸したのが、ソフトバンクが元日本ハムの上沢直之を獲得したことだろう。上沢は、2023年オフにメジャー移籍を目指して、ポスティングシステムを申請して、レイズとマイナー契約。開幕前にはレッドソックスに移籍し、昨年5月にメジャーデビューを果たすも、シーズンの大半をマイナー・リーグで過ごした。今季は、古巣の日本ハムではなく、ソフトバンクで日本球界への復帰を選んだ。上沢の決断に対して、多くの野球ファンや球界OBから疑問の声が噴出している。【西尾典文/野球ライター】  *** 【写真を見る】日ハム・新庄監督の秘蔵ギャラリー 恩師「ノムさん」とハイタッチ、伝説の「敬遠サヨナラ」、「新婚時代」も 「ルールの抜け穴になっている」  そもそも、ポスティングシステムを利用したメジャー移籍は、日本ハムの理解を得なければ、実現しなかった。それに加えて、前述したように上沢はマイナー契約で、契約金は2万5000ドル。日本ハムに支払われる譲渡金は6250ドル、日本円に換算すると100万円に満たない。 ソフトバンクの入団会見に臨む上沢直之投手(2024年12月)  日本ハムとしては、主力投手を失ったうえ、譲渡金もわずか。さらに、今季からパ・リーグのライバル球団に上沢が戦力に加わってしまう。これでは、日本ハムの関係者やファンが激怒するのも無理はない。  今回の騒動について、ある球団の編成担当者はこう話す。 「上沢もソフトバンクもルールに反したことはしていません。ただ、自分の要望を押し通して、(日本ハムに)ポスティングシステムを認めてもらった。それにもかかわらず、わずか1年で日本に戻って他の球団に行くとなれば、心情的に納得がいかないというのも当然でしょう。ファンだけでなく、球界関係者も同じように思っている人は多いと思います。『条件が良い球団を選ぶ』。これは選手にとって当然のことですが、上沢はFA権を取得していたわけではありませんから、ちょっとルールの抜け穴になっている感は否めないです」  このような形での移籍が騒ぎとなったケースは、これが初めてではない。日本ハムのエースだった、有原航平も2020年オフにポスティングシステムを利用してメジャーに移籍したが、2年間で3勝と結果を残せず、2023年からはソフトバンクで日本球界に復帰した。 新庄監督がルール設置を提言  1月20日に行われた12球団の監督会議では、日本ハムの新庄剛志監督が、ポスティングシステムを利用してメジャーに移籍した場合は、最低でも古巣の球団で1年プレーすることを義務付けるようなルールを設けることを訴えた。  ちなみに、韓国のプロ野球「KBO」ではポスティングシステムを利用してメジャーに移籍した選手が韓国球界に復帰する場合、古巣の球団としか契約できず、復帰後4年間は、その球団が選手の保有権を持つルールがある。どのような形に改めるか、日本球界で議論が必要だが、現行のままで良いと考えている球界関係者やファンは少ないだろう。  これ以外にも見直すべきルールは存在している。FA移籍に伴う人的補償の運用だ。2023年オフ、西武からソフトバンクにFAで移籍した山川穂高の人的補償について、西武が和田毅を指名すると大々的に報じられながら、和田ではなく、甲斐野央が移籍して大きな騒動となった。  詳細は公にはならなかったが、大ベテランで功労者でもある和田の指名をソフトバンクが拒否。当初、プロテクトされていた甲斐野を譲渡することで話をまとめたと言われている。  FAの人的補償については、28人をプロテクトしてそれ以外の選手のリストを提出し、その中から獲得する選手を選ぶルールがある。しかしながら、実際のルールの運用はそこまで厳正なものではなかったという。 「不透明な人的保障」がファンの野球離れに繋がる恐れも  過去、FAでの移籍時に編成に関わっていた担当者は、以下のように話す。 「私はFAで選手を獲得して、人的補償のプロテクトを考える側でした。ただ、実際は何もない状態からリスト作るわけではなく、相手球団から要望する選手を事前に聞いており、いわゆる“下交渉”をしていました。これは相手側と関係性があったからできたことで、球団によって異なります。ただ、確実に言えることは、そこまで厳格な運用がされているというわけではない。当初、プロテクトしていた選手が変わることも当然あると思いますね」  プロテクト対象の28人を除いたリストについては、当該球団が直接やり取りしており、NPBが、それをチェックしているようなことはないという。そのため、「和田から甲斐野に代わった」と指摘されているように、“後出しじゃんけん”が可能となっているのだ。  過去にも、FAの人的補償で似たような騒動があった。2017年オフ、大野奨太が日本ハムから中日に移籍した際にも、日本ハムが人的補償で、大ベテランの岩瀬仁紀を指名したものの、最終的には金銭補償で落ち着いたと言われている。 「上沢移籍問題」と「不透明な人的保障」。いずれも一度、問題が浮上したにもかかわらず、同様の事例が起こっている。多くの野球ファンが疑問を感じているルールや運用をそのまま放置することは健全ではない。ファンの野球離れにつながる危険性を帯びていると言っても過言ではない。NPBは、早急にルールや運用の見直しを進めていく必要があるのではないか。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部

もっと
Recommendations

「こどもの日」健やかな成長を願い 加茂川で500匹の“鯉のぼり” 県内の子どもの数は過去最少に《新潟》 

5月5日は子どもの健やかな成長を願う「こどもの日」です。加茂市の加…

拉致被害者家族 アメリカから帰国 横田代表「今こそ本気度、覚悟が試されている」

アメリカで政府高官らと面会した拉致被害者の家族が4日に帰国し、日本…

【小学生4人死傷事故】「一生をかけて償っていきたい」運転手の男性が遺族に謝罪(浜松市)

3月、浜松市で小学生4人が軽トラックにはねられ死傷した事故で、当時…

3月聴取で…逮捕の男“別れてから岡崎さんに複数回、会いに行った” 川崎女性遺体遺棄

神奈川・川崎市で20歳の女性の遺体が見つかった事件で、逮捕された元…

こどもの日 親子でよろい身に付け“武士気分”味わう 小3の男の子は8キロのよろいに「重たかったけどかっこいい」 愛知・田原城跡

きょうは「こどもの日」。愛知県の田原市博物館では子どもたちがよろ…

行方不明後もメッセージ 友人「不審な点あった」 川崎20歳女性遺棄 逮捕の白井秀征容疑者(27)が“なりすまし”か 偽装工作はかった可能性含め捜査

川崎市で20歳の女性が遺体で見つかり、元交際相手の男が逮捕された事…

宮城県東松島市に青いこいのぼり600匹、震災で亡くした家族の思い出を祭りに「誰かの希望になるように」

東日本大震災で犠牲になった子どもたちを追悼する青いこいのぼりが…

倉田真由美氏 米の高騰より“選択的夫婦別姓を”と息巻く政治家に「国民の生活なんかどうでもいいと」

漫画家の倉田真由美氏が5日までに「X」(旧ツイッター)を更新。…

梅ソフトに長い行列が!! ピクニックに旭山動物園 GW後半4連休で道内行楽地賑わう 北海道

ゴールデンウイーク後半の4連休は5月5日で折り返し。…

【 内田理央 】 「いつも大切なことに気づかせてくれる場所」 TDL訪問を報告 「何のアトラクション乗ったのかなー」「ウキウキしてるのが伝わってくる」 ファン反響

俳優の内田理央さんが、自身のインスタグラムを更新。東京ディズニー…

loading...