【迫り来る滞在期限】過渡期に直面する林業の外国人技能実習生の現実

人口減少に伴い、林業の現場でも働き手の確保が課題となっています。そんな中、期待されているのが外国人技能実習生です。2024年には外国人労働者の制度に大きな転換がありました。しかし、制度の転換期であるがゆえに林業の技能実習生はある問題に直面しています。(サタデーステーション取材・松本茉子) ■「森林率」全国1位の高知県が抱える問題 高知県は森林率が84%で全国1位。しかし、人口が減少している中、林業の働き手の確保が課題となっています。森林の整備を怠ると、地球温暖化が加速し、土砂災害が発生しやすくなります。このような状況の中、今後重要な戦力として期待されているのが外国人です。 高知県にある丸和林業株式会社では2022年から7人のベトナム人技能実習生を受け入れてきました。 丸和林業 奈半利事業所 代表取締役 北岡幸一社長 「現状維持が精一杯の中で、外国人の方々と共に活用させていただきたいという思いが強くなったのが、最初の技能実習生の受け入れのスタートとなります」 ■林業の担い手に欠かせない外国人 2024年の2月にベトナムから来日したクックさん(32)。 現在、丸和林業の奈半利事業所では、日本人の大戸さんと毎年配属される技能実習生が山林現場での作業を担っています。2024年度は大戸さんとクックさんの2人でした。 大戸さんとのコミュニケーションはすべて日本語で行われており、道中の車内でもクイズ形式で簡単な単語を勉強しています。危険が伴う仕事であるため、いざという時に意思疎通ができるようにする必要があるといいます。 丸和林業 技能実習生 クックさん 「ベトナムで林業の経験があるから日本でもやりやすいです」 丸和林業 奈半利事業所 大戸一哉主任 「一緒に働いていて、彼は非常に真面目です。彼はこの仕事を好きみたいですし、私にとってもすごくやりやすいパートナーになっていると思います」 ■長期滞在望むが滞在期間はたった「1年」 “日本で長く働きたい” 理由は仕事だけではありません。 妻のナーさんの存在です。ナーさんもベトナム人。2023年から愛媛県で介護士として働いていています。 実はクックさんの就職先を見つけたのはナーさん。クックさんのためにビデオ電話で日本語を教えたり、日本語の教材を用意したりするなど、遠距離ながらサポートをしています。 いずれは一緒に日本で働きながら暮らすことを目指しています。 ナーさんの在留資格は「特定技能1号」と呼ばれるもので、人手不足解消のために一定の専門性や技能を有した「即戦力となる外国人」を受け入れる制度で5年間働くことができます。 一方、林業の技能実習生のクックさんは、1年しか働くことが出来ず、大きな違いがあります。 ■技能実習制度を廃止、育成就労制度へ 2024年6月に政府は現行の技能実習制度を大転換することを決めました。これまでの「技能実習制度」に代わり、新たに「育成就労制度」を創設します。 この新制度の目的は特定技能1号を見据えて、外国人を3年間で育成し、長期間、産業を支える人材を確保することです。 特定技能1号と合わせると8年以上滞在できるようになります。 ■背景にある問題の1つが「技能実習生の失踪」 実はクックさんには、1人同期入社の技能実習生がいました。しかし、来日からわずか2カ月で突然失踪。 丸和林業では来日費用を負担するなど、技能実習生に対して手厚い支援をしてきましたが、それが安く入国できる手段として使われてしまったとみられています。 出入国在留管理庁によると、2023年度に失踪した技能実習生は年間9700人余りで過去最多です。 丸和林業では、これまでに4人が失踪しています。この4人のうち2人は、技能実習生の任期を満了した後、帰国直前に失踪したそうです。継続して日本で働きたいがために失踪してしまったとみられます。 ■制度の大転換の中、クックさんが直面した問題 2027年をめどに施行される予定の「育成就労制度」。 それに先立ち、林業の分野でも2024年9月末に始まったのが「技能実習2号・3号」の枠組みです。これによりこれまで1年だった技能実習生の滞在期間を3年以上に延ばすことができます。 丸和林業 奈半利事業所 代表取締役 北岡幸一社長 「2号3号で延びたことによって、失踪の問題というのを解決に向かってくるという風に思ってますので、より良い環境を提供しながら引き続き2号3号を活用しながら外国人と一緒にやっていきたいなという風に思います」 クックさんもこの制度を使い、技能実習2号の試験に合格することで滞在期間を延ばす算段でした。しかし、ここで大きな問題が。 クックさんが日本にいられるのは1月末までですが、技能実習2号の試験日が2月以降に設定されてしまったのです。そのため、ベトナムに帰らざるを得ない状況になってしまいました。 ■技能実習2号の試験受けるにも困難が 一方でこの技能実習2号の移行試験を受ける技能実習生も厳しい状況にあります。 四万十町にある株式会社はまさきで働くルアンさんとニャットさん。合格すれば2025年度も継続して働けるようになります。 しかし、制度が発表されてから試験までわずか6ケ月。試験日も1回しか設けられていないため、その一度の試験に合格できなければ帰国しなくてはなりません。 そのために日本人の従業員も一丸となって彼らをサポートします。 株式会社はまさき 濱崎康子取締役 「2号になることで、彼らが1年で帰らないといけなかった予定が3年になり、その先も期待できるということはすごくありがたいこと。彼らにとっても私たちにとっても本当に待ち望んだ形ではあるのですごく楽しみにはしています」 クックさんは「技能実習2号」の試験を受けられないため、日本で働くには“より高い日本語能力”が求められる「特定技能1号」の試験に合格しなければなりません。 そのために今後も日本語の勉強を続けるといいます。 日本の森林を守る担い手として欠かせない外国人。真面目に働く外国人が長く働ける環境になるのか。今後の新制度の動きに注目です。 ■取材後記 滞在期間がどうなるかという状況の中で、日本で長く働きたいという想いを抱えている技能実習生がいることを知り、2024年7月と11月の2回にわたり林業に携わる技能実習生を取材しました。7月に取材した時点では、林業には技能実習1号しかなく、就労期間は1年のみでした。年内には1年以上働ける新たな制度が制定される見込みとの情報があったものの、技能実習生たちはただ待つことしかできない状況でした。 その後、9月末に林業の技能実習2号・3号が制定され、11月に再取材を行った際には、当初予定していた状況とは変わり、試験日が滞在期限後の2月以降になるとのことでした。そのため、クックさんの2号への移行が厳しい状況であることを知りました。 失踪者も出ている中で、クックさんのように仕事に真面目で、日本に住むことを希望している外国人は貴重な人材だと思います。こうした方々がより長く滞在できるようになり、働きやすい環境へと日本社会が変わっていく必要があると感じます。 技能実習生に関する報道では、失踪や虐待、劣悪な労働環境といったネガティブな内容が多く見受けられますが、この取材先の方々のように、受け入れる企業側も真剣に外国人技能実習生の採用に取り組んでおり、真面目に働く外国人技能実習生がいるのも事実です。 2027年に施行予定の育成就労制度が双方にとってメリットのある制度となることを願うとともに、あらゆる問題が解消に繋がることを期待しています。 (サタデーステーション取材 松本茉子)

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