「権力の祭典、万博を潰せ!」55年前の大阪万博で「太陽の塔」に籠城1週間 「赤軍」ヘルメットの青年はどうなったのか

 4月13日、「EXPO 2025 大阪・関西万博」がついに開幕した。大胆なデザインのマスコットや校外学習での参加をめぐる議論、パビリオン建設の遅れなど、開催前から物議を醸し、「万博不要論」を唱える向きも目立つなかでのスタートだ。昭和45(1970)年の大阪万博は大成功に終わっているものの、当時も同様の論調は存在していた。  その象徴の1つとされた事件が「アイジャック事件」またの名を「目玉男事件」。万博の一部として建設された「太陽の塔」に上り、最上部にある顏の“目”の部分で一週間にわたって籠城したという仰天事件だ。その逮捕日は1970年5月3日だった。まずは、事件発生の16年後に当時を振り返った「週刊新潮」の記事を見てみよう。 現在の入館は前日までの予約制  *** (「週刊新潮」1986年3月6日号「万博『太陽の塔』に籠城した青年」をもとに再構成しました) 【写真】大盛況すぎる55年前の「大阪万博」に現れた「赤軍」ヘルメットの青年 籠城は1週間続いた  大阪万国博が開催されたのは昭和45(1970)年。この万博で各国のパビリオンやイベント以上に忘れることが出来ないのが、1人の青年の存在である。佐藤英夫、当時25歳。万博会場を飾った岡本太郎画伯の手になる「太陽の塔」を占拠し、右目の部分に居座り、籠城を続けたのが、この佐藤青年だったのである。  籠城を始めたのは、4月26日のことだった。赤いヘルメットには「赤軍」と黒マジックで書きこまれており、大阪府警は機動隊100人を動員。入場者2000人が遠巻きに見物するという騒動になった。  青年は警察官の説得もきかず居座りを続け、「バンパクを粉砕するまで降りないぞ」と叫んでみたり、かと思うと大笑いをしてみせたり、時には読書に耽ってみたり……籠城は1週間続いたが、結局、説得に応じて自ら塔を降り逮捕されたのである。  この籠城青年には活動家としての“前歴”があった。そもそもは旭川市の洋品店の息子で、昭和38(1963)年に道立旭川工業高校を卒業、東京のビニール加工会社に就職したが翌年には退職。旭川市役所でアルバイトをして本採用にもなったが、ここも一年足らずで辞めている。  一方、道庁国旗焼き打ち事件、帯広畜産大学闘争などに参加し逮捕されたこともあった。昭和44(1969)年、広島大学で起こった活動家学生による大学封鎖事件の際にも、他の活動家学生と共に警察につかまっている。ともかく“反逆的人生”を送る青年だったのである。 懲役8カ月の実刑  逮捕容疑は威力業務妨害と建造物侵入現行犯。もちろん起訴になり、その裁判が続いていた昭和46、47年当時、保釈の身にあったこの龍城青年は、大阪・釜ヶ崎の1泊250円のドヤに転がりこみ、沖仲仕(おきなかし)として働き日当は2300円といった生活をしていた。そして、自ら、 「万博の前年、ボクは旭川のベ平連の代表で、大阪の反万博集会に参加した。ところが、こんなデモなんか機動隊にたちまち蹴ちらかされて、全く無力なことに気づいた。国家権力に対抗するためには、もっと思い切った手段を取るべきだと思ったし、いろいろ考えた末にあの戦術を取ったんだ」(編集部注=「ベ平連」ベトナム反戦を掲げた市民運動団体)  と、“確信犯”としての信念を弁じたて、「1、2年先にはアメリカへ行く。あそこには自由がある」なんて言っていたものだった。  裁判は昭和47(1972)年2月、一審で懲役8カ月の実刑になり、最高裁にまで持ちこんだが棄却され、刑務所暮らし。そしてアメリカ行きは果たせず、郷里の親元へ帰っていたのである。  青年の母親によると、「息子は、あの事件後、旭川に戻ってきました。しばらく問屋で修業してから、家業の洋品店を手伝い始め、今も一生懸命働いてくれています」 (「週刊新潮」1986年3月6日号「万博『太陽の塔』に籠城した青年」より)  *** 「僕がやるしかないと思った」  旭川に戻った佐藤さんは、この事件について何度かメディアで語っている。1996年、51歳のとき受けた北海道新聞のインタビューでは、当時の心境をこう明かした。 「学生でも労働者でもない。地位、身分がないのは僕だけ。僕がやるしかないと思った」(北海道新聞 1996年3月5日夕刊)  太陽の塔は高さ70メートル、目玉の部分は62メートル。記事によれば、職員用のらせん階段を使って上り、途中で1カ所の鍵を壊した。警備はかなり手薄だったという。目の部分に到着したのは午後5時すぎで、第一声は「権力の祭典、万博を潰せ!」。塔の上では説得に来た人物から受け取った水だけで過ごしたため、トイレを探す必要はなかった。籠城をやめた理由は寒さ、旭川に戻った理由は父の体調だったという。  2003年には、現代美術家・ヤノベケンジ氏によるドキュメンタリー「誇大妄想の都へ〜ヤノベケンジEXPO'03〜」(MBS「映像25」・2003年8月17日放送)に出演した。出演時間は長くないものの、毎朝7時頃になると万博に出展していたソ連館の職員が塔の下に来て、挨拶のようなものを叫んでいたいうエピソードなどが語られている。 「僕から見れば、あんなのは偽善の塊みたいなものだったね。要するにさ、国家権力と大企業の見栄の張り合いであってね、あんなところに『進歩と調和』なんかあるわけないと僕は思うね」(「誇大妄想の都へ〜ヤノベケンジEXPO'03〜」より)  事件から55年、混乱が続く世界情勢を受け、大阪万博の警備には全国から派遣された警察官を含む約1万人を動員。日本で開催される万博では過去最大となった。 デイリー新潮編集部

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