TBS「キャスター」が視聴率苦戦中 「阿部寛」奮闘も…脚本に感じる「最大の難点」とは

 阿部寛(60)主演の日曜劇場「キャスター」(TBS)の視聴者離れが止まらない。初回の視聴率は14・2%と春ドラマのトップを独走したが、第2話で11・7%、第3話で10・9%にまで落ちたのはなぜなのか(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)。辛口コラムニストの林操氏に聞いた。  *** 【写真を見る】キャスター出演中の永野芽郁 騒動となった田中圭との貴重なツーショット写真  阿部寛といえばTBSの看板ドラマ枠である日曜劇場の顔と言っても過言ではない。これまで「新参者」(2010年4月期)や「下町ロケット」(15年10月期、18年10月期)、「ドラゴン桜」(21年4月期)などで主演を務め、「キャスター」は日曜劇場としては6作目となる主演ドラマだ。 阿部寛  かつては“報道のJBN”と呼ばれた民放テレビ局の老舗ニュース番組「ニュースゲート」。そのテコ入れのため公共放送から引き抜かれて新キャスターに就任した進藤(阿部)が次々とスクープをものにしていくというストーリーだ。ちなみに、番組内の「ニュースゲート」の初回視聴率は8・4%(速報値)だったが、第2話では局内に「世帯12・0% 個人7・2%」とデカデカと張られていた。ドラマスタッフも右肩上がりを期待したのだろうが、裏目に出た格好だ。阿部のファンを公言してきた林操氏はどう見ているのだろう。 林:阿部さんにはこれまでもハズレと思われる作品がありましたが、それでも「ああ、なるほど」と思わせるシーンはありました。しかし、ファンとしてはこれまでで一番、残念度が高いドラマだと思います。 ——何がいけないのだろう。 のんの起用は評価するが 林:やはり、脚本に難がある。もちろん「VIVANT」(2023年7月期)のように、物語の整合性や納得度は捨てて場面場面の面白さでつないでいく、見せ場さえ続けばいいというようなドラマなら話は別です。もしくは、池井戸潤氏の原作モノのような大仰な芝居や、阿部さんの出世作となった「TRICK」(テレビ朝日・00〜14年)のようなコント的な笑いも「キャスター」にはない。1話完結のストーリーには最終的なスクープへと続くどんでん返しも入れ込まれているわけですが、それもどんでん返しのためのどんでん返しのように見えてしまう。 ——ちなみに初回では、心臓の持病で倒れた政治家(北大路欣也)が一般人の手術に予定されていた希少な血液型(RhマイナスAB型)の血液を横取りしたのではないかという疑惑を追及した。第2話はバレーボール日本代表選手のトレーナーがオンライン賭博に関わっていたというもので、メジャーリーガーの大谷翔平選手と通訳の水原一平氏を思い起こさせる内容だった。第3話は若手研究員(のん)が作り出した万能細胞「iL細胞」には不正があった、つまり小保方晴子氏のSTAP細胞騒動を元にしたストーリーだった。 林:第3話にのんを起用したのは評価します。しかし、最終的にのんは、先にIPS細胞と思しきIda細胞でノーベル賞を受賞した利重剛と共同研究することでiL細胞を成功させるのですが、利重はその権利を100億円で米国に売ってしまったというオチ。まず、再生医療に一大革命を起こすという世紀の大発明を、たった100億円で売ってしまっていいのか。ドル換算で7000万ドル程度です。しかも、最初からiL細胞に疑問を持っていた利重は、匿名でネット上に疑惑を呈し、最終的には権利を売っ払ってしまうという人格が破綻しているような教授でした。 ——しかも、iL細胞成功のきっかけを作ったのは、研究室にいたキャスター・阿部の一言だった。 フラスコのフタがアルミホイル 林:昔なら「マンガじゃん!」と言われてバカにされるパターンですが、今ではあり得ない展開です。iL細胞が完成した証拠が青く光るというのもどうでしょう。論理が成り立ちません。そして台詞も、日本語として薄い。“科学の真理”とか“私利私欲”なんて中学生の青年の主張のような台詞を平然と阿部さんに喋らせている。あれほど建前を嫌い、毎日がエイプリルフールというようなジャーナリストが、真顔で綺麗事の台詞を話す。言葉の使い方に再考が必要だと思います。 ——再考が必要なのは小道具にも……。 林:利重の研究室では科学誌「セオリー」のコピーを机に置いて研究者たちがiL細胞を再現しようとしているのですが、今の時代、紙なんか配りませんよ。みんなタブレット端末でしょう。また、のんの研究室は古くて汚い。iL細胞を培養する三角フラスコにアルミホイルでふたをしていました。農業高校の培養じゃないんですよ。非現実的すぎます。 ——阿部がキャスターを務める「ニュースゲート」の報道も非現実的だ。 林:のんの独占インタビューを放送した直後に彼女のデータを告発するVTRを流してスタッフたちが大慌てになるわけですが、これまで第1話、第2話で散々揉めてきた新キャスターの阿部さんが勝手に持ってきたVTRを誰もチェックせずに放送するなんてあり得ないでしょう。 ——だから心配だというのだ。 TBS報道局は怒らないのか 林:かつて“報道のTBS”といわれたTBSのドラマなわけです。TBSの報道の信頼にも関わってくるかもしれません。 ——阿部にとっては黒歴史になりかねない。 林:阿部さんがいなければ成り立たないドラマですが、もったいないことが多すぎます。まず、阿部さんとコンビを組むことになる永野芽郁。バラエティ班から左遷されて報道に来たという総合演出なのですが、そもそも20代で報道番組の総合演出という立場に無理があります。それに、総合演出的なことは全くやっておらず、プロデューサーとキャスターの間に立って右往左往するディレクターに過ぎません。ヒロインとして魅力を感じません。これまで阿部さんと若手女優のコンビには成功のセオリーがありました。「TRICK」の仲間由紀恵、「ドラゴン桜」なら長澤まさみ、映画「テルマエ・ロマエ」なら上戸彩といったように、阿部さんと組むことで成長した、あるいはスターになった例があったわけです。もっとも、いずれの作品もコメディでしたが。 ——もったいないキャスティングは彼女だけではない。 コメディにするべきだった 林:報道局長役の岡部たかしもそうです。「エルピス—希望、あるいは災い—」(フジテレビ/カンテレ制作)のチーフプロデューサー役で名を上げたのに、局は違えど報道局長にまで出世したのに見せ場がありません。また、初回の冒頭に阿部さんの父親役で登場した映画「侍タイムスリッパー」の山口馬木也は、今後ドラマのバックグラウンドに大切な登場人物となるのでしょう。しかし、そこまで見ている人がいるかどうか。これももったいない。 ——「キャスター」はどうすれば良かったのだろう。 林:コメディ方向に振り切ったなら、もっと見られる代物になったと思います。アメリカには「TVキャスター マーフィー・ブラウン」やブラック極まりない映画「ネットワーク」のようにテレビを笑う、ニュースで笑うコメディの成功例がいくらでもありますが、日本ではテレビモノ、報道モノはシリアスに作ってはコケてを繰り返してきました。いや、ありました。TBSには田村正和・主演の「パパはニュースキャスター」(1987年)という稀有な成功例がありました。せっかく阿部さんを呼んだのですから、そっちに走ったほうが良かったかもしれません。 ——これまで阿部はシリアスなドラマでも成功してきた。 林:日曜劇場でいえば「新参者」にせよ「下町ロケット」にせよ、ベストセラー小説というリアリティがあって、きっちり組み上げられたストーリーのある作品ばかりです。オリジナル脚本の「キャスター」とはそこが大きく異なります。もし阿部さんにエグい芝居をやらせてみたいという意図があるのなら、それならますますストーリーに一貫性がないとキャラクターは分裂分散するばかり。「キャスター」ではまさにそれが起こっているということになります。 林操(はやし・みさお) コラムニスト。1999〜2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。 デイリー新潮編集部

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