こどもの日特集 日本大学・末冨芳教授 米高騰に物価高…子育て世帯への支援 何が必要か

米の高騰や物価高が続く中、子育て世帯の苦しさはさらに深刻になっています。高校では授業料以外の制服やタブレット代、修学旅行費などが高い現実があり、給食無償化で実は給食の質が下がる可能性がある…。教育財政学などが専門で、子どもの貧困にも詳しい日本大学教授の末冨芳(すえとみ かおり)さんに聞きました。 こども家庭庁の集計によると、日本の子供の貧困率は11.5%ですが、その上に子育て世帯の5割程度の「準貧困層」と呼ばれる人たちがいるんです。つまり貧困ではないという層はおよそ3、4割のみ。子育て世帯の実態はそれほど厳しい。物価高の影響は深刻ですし。 一方で、ひとり保護者=貧困というイメージはもはや過去のものなんです。ひとり保護者の中でも収入がある人とそうではない人の格差がある。主な政府調査のデータからも、「ひとり保護者」というだけで経済的に困難とはなっていない。もちろん、日本のひとり保護者の貧困率は先進国中最悪で、こども家庭庁も真剣に改善のための施策に取り組んでいます。私はそのことを高く評価しています。 一方で、ひとり保護者への貧困対策が優先されている中で、むしろ「二人保護者」世帯の貧困がいわば見捨てられてきたのが課題だと思っています。あたりまえですが、こどもが多いほうが生活が苦しくなります。二人保護者であっても、多子世帯、あるいは低所得の世帯への支援も重要な政策課題なのです。 それから私が科研費で成人を対象に調査した結果では、収入面でみると、保護者の月収が10万円なら「支援しよう」という意識が高いのに対し、月収20万円となると「支援しよう」という意識が下がるんですが、そもそも月収20万円ではひとり保護者も二人保護者も厳しい生活状況であること、物価高の中で、今一層、困難な状況になっているということは、日本社会に広く知られるべき子育て世帯の実態です。 ■児童手当を物価に連動させる必要がある 児童手当(0歳から高校生相当までの子を養育する人に支給)は、年金と違って物価に連動していません。ですから、その価値が物価高で目減りしています。 例えば、1か月に1万円の児童手当を受けとるとして、それで買えるお米の量が減っていますよね。物価に連動する仕組みを検討すべきと考えます。児童手当の額でいうと、第三子以降は現在ひと月3万円ですが、これが5万円になると、かなり楽になるという感覚があるとは思います。 しかし、特に低所得世帯(資産のある高齢者も含む)に対する現金給付が、国民から疑念も持たれている今、広く年少扶養控除の復活・拡充を基盤とする支援策のほうが、これから子どもを産み育てたい若者や家計への効果が大きいとも捉えています。 ■給食無償化 食材高騰の中、質が落ちる恐れがある 給食費については、全体の約14%は就学援助世帯としてこれまでも無償化されていましたが、86%の子どもの保護者は、平均して年間4万円程度の給食費を納めていましたから、全国で無償になるのは家計への恩恵は大きいと思います。同時に、学校が給食費を徴収する事務で大変だったので、それからの解放という面も大きいです。さらに日本では給食は学校の教育活動として実施されてきて、強制性が高い仕組みなのに無償化されていなかった。やっと義務教育の実態と無償の制度の整合性が取れたという状態です。 無償化をうけて、大事なのは給食の質の維持です。韓国では給食無償化で自治体が設定した学校給食費の補助単価が低かったために、質が落ちて問題になり、その後改善されました。日本でも保護者から給食費を集める場合、学校給食の質の維持のため給食費を値上げしていたかもしれませんが、無償化で給食費が一定額で決まると、食材の値段が上がる中、給食の質が落ちていくことが懸念されます。例えば米が値上がりしたから、その分野菜や肉を減らすなど。それを防ぐには、国の交付金などによる上積みが必要で、その場合、財政が苦しい市区町村だけに補助すると、財政力の低い自治体が財政改善努力をしなくなって、仕組みとしてゆがむので、国が自治体に補助するなら、子どもを育む学校給食の質改善のために一律に補助する形がよいと思います。 ■高校では授業料以外に必要な費用が高い 補助の拡充を 所得制限なしの高校授業料無償化(公立分の全高校生への授業料無償化は2025年度から実施、私立高校無償化は2026年度から実施、支援上限あり)の一方で、授業料以外の費用が高い問題は残っています。所得が低い世帯で、授業料以外の部分に充てられる支援金があるんですけど、その拡充が非常に重要だと思います。入学金や制服代、教科書も有料ですし、タブレットを1人1台決まったものを買わなきゃいけないとか、修学旅行といった学校行事代など、そうしたお金の負担がきついという声があります。 高校授業料無償化の所得制限撤廃前のデータですが、文科省の子どもの学習費調査だと、2023年度調査では、公立高校で1年生から3年生まで平均で年間35万円ほど、私立高校だとその倍以上です。ただ、補助対象を決める場合の所得制限は分断をうむので、線引きがとても難しいんです。 ですから、例えば旧制度で高校授業料無償化の対象となっていた年収約910万円未満の世帯は、授業料以外の費用への補助の対象にするというような、世論の納得が得やすく、格差の拡大も防ぐ方策が必須です。その場合、所得が低い世帯が不利にならないように、低所得層ほど階段状に補助額を増やしていく制度がいいのですが、日本はそういうきめ細かい制度ができないんですよ。欧州は、授業料以外の学校に要する経費も含めた完全無償化か、そうでない場合、保護者所得に応じたきめ細かい階段状の補助制度があり、仮に所得が増えた場合も支援が簡単に打ち切られないので、保護者は就労意欲を保てるわけです。 日本でも大学の給付型奨学金は保護者の所得に応じて今、4段階になっていて、大学でできるんだったら高校でもできるでしょとは思っているんですけど。保護者が頑張って働いて手取りが増えた途端に、支援ががくんと減る「所得制限の崖」から保護者を突き落とす現象を起こさない制度設計が極めて大事です。今までも例えばひとり親保護者で頑張って働いて、年収590万円の壁を超えたら一気に授業料無償化支援が約40万円から約12万円になるんです。「それなら、働かなきゃよかった」とやる気をなくす方もいました。だからこそ、例えば補助額を40万円、35万円、30万円というように保護者所得に応じた階段状の支援に移行する制度設計が重要です。 ■保育の質 1人の保育士がみる子どもの数を減らすべき 無償化が注目され、置き去りにされがちなのが保育・教育の質です。例えば保育の質も大きな課題で、保育士の配置基準(保育士1人がみるこどもの数)は4、5歳児だと1対25ですが、他の先進国と同様1対15に改めるといった基本的な質保証を急いで実施すべきです。こんなに多い人数を1人で見てくれている保育士さんたちが本当に大変で、その給与をさらに上げることももちろん必要、そして保育士養成課程で、子どもの権利条約やこども基本法、こども性暴力防止法を学んでいないのも問題なので、これらを必修化し、こどもの権利をしっかり知り、守ることが重要です。 小中高校の教員も、子どもの権利条約やこども基本法、こども性暴力防止法をあまり学んでおらず、だから子どもへの不適切指導や性暴力が後を絶たない。保育士について専門職にふさわしい処遇改善をし、配置基準も改善し、不適切保育も性暴力も起きない安全・安心な環境の中で質の高い保育をうけると、小学校以降の課題もかなり抑えられると考えられます。国として、今後は質の部分に投資する世の中を作る、それが子どもたちの育ちや社会全体にとってもすごく大事です。 ■若者の声を聴いて政策に反映を 無償化施策は今子育て中の人たちにしか恩恵がなく、少子化対策という意味でいうと、若者の声にも耳を傾けないといけない。若い人たちは、子どもを産むかどうか考える場合、無償化とともに、長時間労働の改善、ワークライフバランス、育休・産休取得でキャリア上の不利がないようにするなど、働き方について、より深刻に不安に思っています。もちろん賃上げや減税、社会保険料の軽減が進んで、若い人の手取りを増やすことが必要ですが、働き方を改善することを政府が後押しすることが重要です。 また、若者の切実な要望は大学までの無償化です。子どもの教育費に悩む保護者の姿を見ているからです。これが改善されない限り、少子化の改善はあり得ないでしょう。2023年に施行されたこども基本法には、こどもや若者、子育て当事者の声を聴くように、と規定されています。 政府の既存の意識調査は必ずしも政策立案に最適化された設計になっていないので、調査項目を政策立案に結びつくものにして、政府がインターネットや対面などで「若者の声」も聴き、政策に反映していく努力も急がれます。特にもっとも置き去りになっている地方の女性・若者の意見こそ、もっとも優先して聴かれるべきだと思います。

もっと
Recommendations

【 中川翔子 】 妊娠を報告 40歳の誕生日 「なんとお腹に新しい命を授かりました」「レベル40にして、とても大きな転機」 個人事務所も立ち上げ 【全文掲載】

タレントの中川翔子さん(40)が、妊娠したことを公表しました。また…

井上尚弥、ラスベガスで4団体統一王座を防衛…カルデナスに8回TKO「非常にタフな相手だった」

【ラスベガス(米ネバダ州)=平沢祐】ボクシングの世界スーパーバ…

世論誘導に利用されるパブリックコメント、誤情報が拡散して意見が殺到…国は分類にAI導入を検討

国民の意見を政策に反映させる国のパブリックコメント(パブコメ)…

「食料品の税率を下げるべき」回答が35%で最多 消費税減税めぐり19%が「今の税率維持すべき」 5月JNN世論調査

物価高対策として与野党双方が主張する消費税の減税について、「食料…

「こどもの日」健やかな成長を願い 加茂川で500匹の“鯉のぼり” 県内の子どもの数は過去最少に《新潟》 

5月5日は子どもの健やかな成長を願う「こどもの日」です。加茂市の加…

拉致被害者家族 アメリカから帰国 横田代表「今こそ本気度、覚悟が試されている」

アメリカで政府高官らと面会した拉致被害者の家族が4日に帰国し、日本…

【小学生4人死傷事故】「一生をかけて償っていきたい」運転手の男性が遺族に謝罪(浜松市)

3月、浜松市で小学生4人が軽トラックにはねられ死傷した事故で、当時…

3月聴取で…逮捕の男“別れてから岡崎さんに複数回、会いに行った” 川崎女性遺体遺棄

神奈川・川崎市で20歳の女性の遺体が見つかった事件で、逮捕された元…

こどもの日 親子でよろい身に付け“武士気分”味わう 小3の男の子は8キロのよろいに「重たかったけどかっこいい」 愛知・田原城跡

きょうは「こどもの日」。愛知県の田原市博物館では子どもたちがよろ…

行方不明後もメッセージ 友人「不審な点あった」 川崎20歳女性遺棄 逮捕の白井秀征容疑者(27)が“なりすまし”か 偽装工作はかった可能性含め捜査

川崎市で20歳の女性が遺体で見つかり、元交際相手の男が逮捕された事…

loading...