今年だけで吉田輝星ら7人が「トミー・ジョン手術」 完投や連投が減っているのになぜ増える…意外すぎる「2つの理由」とは

 野球界では様々な変化が起こっているが、特に近年大きく変わったことと言えば投手の起用についてではないだろうか。プロ野球では1試合を1人で投げ抜く完投は年々減少傾向にあり、先発投手は100球未満で降板するということも珍しくなくなっている。アマチュア野球でも2020年に球数制限が導入。大学野球ではまだエースが多くのイニングを投げることもあるが、どのカテゴリーも完投や連投が減っていることは間違いない。【西尾典文/野球ライター】  *** 【写真を見る】手術を受けたことで「吉田輝星投手」の左右の腕の太さに起きた「大きな変化」 球数制限が導入され完投も減ったのに、なぜ?  その一方で、投手の故障が減ったかといえば、決してそういうわけではないように感じる。肘の内側側副靭帯の損傷や断裂を再建する、いわゆる“トミー・ジョン手術”を受ける投手は後を絶たない。今年に入ってからもNPBで発表されているだけで森博人(中日)、吉田輝星(オリックス)、宇田川優希(オリックス)、酒居知史(楽天)、大谷輝星(ロッテ)、長谷川威展(ソフトバンク)、小木田敦也(オリックス)と7人がトミー・ジョン手術を受けている。 肘の内側側副靭帯の損傷や断裂を再建する「トミー・ジョン手術」(写真はイメージ)  投手の分業制が進み、球数制限が導入されながら、なぜトミー・ジョン手術を受ける選手は減らないのだろうか。  まずその理由として考えられるのが、投手のスピードアップである。トレーニング方法が以前と比べて進化したこともあって、投手の投げるボールはプロもアマチュアも年々速くなっている。かつては“夢の数字”と言われた160キロに迫る投手も多く、アマチュアでも150キロ以上をマークする投手は珍しくなくなっている。スピードが速くなれば、それだけ体にかかる負担も大きくなり、靭帯を痛める可能性も高くなるのだ。  そしてもう一つ大きい理由が、試合や練習で球数を制限し過ぎていることではないかという。プロ野球選手を指導するトレーナーはこんな話をしてくれた。 「以前と比べて、速いボールを投げられる投手が増えていることは確かです。ただ、意外に実戦経験が乏しい選手も多い。もっと言うとブルペンでの投球数も減っています。そんな状態でトレーニングを積んで、速いボールを投げられるようになって、体が一気に限界を超えてしまうという投手が多いように感じます。実戦経験を積みながら徐々にスピードアップしてきたような選手はまだ良いのですが、そうではないことが多いですね。投げ過ぎは、もちろん良くありませんが、練習でも試合でもある程度球数を投げながら、自分の限界点を知るということも必要だと思います」 「数字ばかりに目が行き、選手自身の感覚を疎かにしてしまう」  以前、野球の動作解析の専門家であり、筑波大の野球部の監督も務めている川村卓教授に投手のスピードアップについて話を聞いた時も、 「ボールが速くなった時に怪我をする投手が多い」  と話していた。速いボールを投げられるというのは投手にとって大きなメリットではあるが、急激なスピードアップは危険という認識を持っておくことは必要だろう。  科学的な進歩によって、ボールのスピードだけでなく回転数や変化量、また身体的なデータなどあらゆるものが可視化され、そのことによって競技レベルも高くなっていることはたしかだが、そのことによる危険性もあるという。  前出のトレーナーはこう続ける。 「トレーニングや投げるボールのデータなど、以前と比べるとあらゆるものが数値化されるようになりました。そのこと自体はもちろん素晴らしいことで、それによって投手のレベルや野球のレベルも上がっています。ただ、数字ばかりに目が行って、選手自身の感覚を疎かにしてしまうことも……。投げるボールについても身体的なデータについても数字だけでは見えない部分が間違いなくあります。例えば、同じパフォーマンスができているように見えても、余裕を持ってできているのと、ギリギリの状態でできているのでは全く異なりますよね。また、身体的な特徴も選手一人ひとりによって違うわけですから、全員が同じように同じトレーニングをするというのも無理があります。特に、ジュニア世代のアマチュア選手は、成長速度に大きな差がありますから、より個別にトレーニングの内容を考える必要があります。数字はもちろん大事ですが、選手の感覚を養うことが、怪我を防ぐうえでも重要だと思います」 中学生や小学生が手術を受けるケースも  投手がトミー・ジョン手術などを受けて長期離脱となると、登板過多などが原因と言われることが多いが、こういった話を聞いていると、そんな単純な話ではないことがよく分かるだろう。  また、トミー・ジョン手術についても以前と比べて受けることに対するハードルが下がっており、現在では中学生や小学生が手術を受けるケースもあるという。医学の進歩によって故障から復帰できるようになったことは喜ばしい限りだが、そもそもの原因を突き止めて解消するという動きがもっと必要なのではないだろうか。  当事者や関係者が問題の根底に対して意識を高くし、より多くの選手がレベルアップしながら、選手生命にかかわるような怪我がなく、競技人生を全うできるような野球界になっていくこと望みたい。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部

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