GWに韓国を訪れた人もいるだろう。美味しいグルメにおしゃれなカフェ、K-POPやコスメが魅力の旅行先だが、ひょっとすると「接客」には苦い思いをした人もいるかもしれない……。近年は「日本を見習え」の機運も高まりつつあるという韓国の接客事情を、現地ジャーナリストのノ・ミンハ氏がレポートする。 *** 【写真】これ見よがしのため息に「なんなんだよ」「昼は酒を売らない!」…保田あゆみさんが受けたヒドい接客 ある日本人ユーチューバーの投稿が韓国内で大きな波紋を呼んでいる。話題になっているのは、日本人女性の保田あゆみ氏が韓国での暮らしを紹介する「田舎の姉あゆみch」というチャンネル。3月12日に公開した動画「韓国1人ご飯中、食堂の社長が怖すぎて泣きそうになりました」(現在は削除)で、彼女はソウルの聖水洞(ソンスドン)にある食堂をひとりで訪れ、プデチゲを注文しようとした。 接客“被害”を受けた「田舎の姉あゆみch」の保田あゆみさん。韓国ではニュースになり波紋を呼んだ(SBSニュースYouTubeチャンネルより) この食堂は、ソウルでも「おいしい」と評判で、名店としてたびたび紹介されることが多いという。だが、入店した彼女に「いらっしゃいませ」の一言はなく、“おひとりさま”の客と分かるや否や、店主らしき人物は大きなため息。注文しようとすると、「うちはもともと一人前では出していません」と言い放ったのだ。韓国語に慣れている筆者の耳にも、極めて無礼な話し方だった。 それでもなんとかブテチゲを注文したが、事態は終わらない。焼酎を注文しようとすると「ああ、もう嫌になる、本当に!」と苛立ちをあらわにし、「昼は酒を売らない」と怒鳴る。店内にその旨の掲示はなく、その隣の席では客が酒を飲んでいる。結局、保田氏は食事を終え、「怖くて心臓痛くなってきた」と語り、撮影を終えた。 この映像は「国の恥」として韓国国内で拡散され、ニュース記事やSNSはもちろん、テレビでも報道された。有名ユーチューバーやインフルエンサーたちが「代わりに謝罪します」とコメントを寄せる事態にまで発展している。 「日本人だから」というわけではなく…韓国人も「こんな店は初めて」 問題の店がある聖水洞は、近年、日本人観光客にも人気が高いエリアだから、日本人の“被害者”はほかにいるかもしれない。動画を見ると、保田氏が日本人ゆえに酷い対応されたようにも思える。だが韓国の大手ポータルサイト「ネイバー」でレビューを見ると、「非常に無礼」の評価が多く目についた。 たとえば昨年11月にこの店を訪れたというある韓国人は、 〈とにかく印象が悪い。入ると、店主らしきおじさんが横になっていて、客にいきなりタメ口。隣のテーブルが焼酎を頼んだのを見て自分も注文したら、『早く食べて帰らないなら酒は売らない』と言われた。こんな店は初めてで、怒りを抑えられなかった〉 と綴る。 動画の投稿から1カ月以上が経った4月中旬、筆者も問題の店を覗いてみた。あまりに批判をあびたため営業していないかもと思われたが、店は開いている。だが昼どきにもかかわらず客は少なめだ。ただでさえ悪い雰囲気がただよっているうえ、保田氏のように「ひとりです」と言って入るには勇気が要る。それでも客はいるにはいるわけである。「不親切で常識外れのサービス」と叩かれた店なのに、なぜ?と理解に苦しんだ。 国際的にも接客下手? 筆者の知人の日本人たちは、韓国旅行をすると「接客がよくない」とよく口にする。韓国を訪れた外国人ユーチューバーたちも「韓国では店員の親切さは期待しない方がいい」「挨拶がないのは怒っているわけではなく、これが普通らしい」と語っている映像をよく目にする。問題の店ほどではないにせよ、国際的に見ても韓国は接客が下手な国なのかもしれない。 その反動で、日本を訪れた韓国人旅行者は、接客サービスに感動するようだ。皆揃って「日本の飲食店の接客は、身に余るほど丁寧だ」と口にする。今年1月に初めて日本を訪れた後輩記者は「空港のコンビニ店員さえ挨拶をしてくれ、高級焼肉店から小さなうどん店まで、どこでも『いらっしゃいませ』と元気よく言われ、店を出るまで丁寧に接してくれた」と話していた。 振り返れば、筆者自身、韓国では飲食店で挨拶されないことにすっかり慣れてしまっている。店に入ると、店員には「客がきた」という意識はあるのだろうが、会釈もなければ、席への案内もない。大量に注文する上客ならちがうのかもしれないが、簡単なランチや保田氏のようなひとり分の注文では「さっと食べてさっと帰れ」という空気……。最初からサービスを期待する方が間違っているように感じてしまう。たまに店員が笑顔で迎えてくれると、「今日は機嫌がいい日なんだな」と思ってしまうほどだ。 日本では「お客様は神様」という言葉がある。韓国にも通用する表現だが、実際には「味がよければ、接客サービスは二の次でいい」という風潮が客にも店にも根強く残っている。客としても「もてなしてもらおうとは思っていない」と受け入れてしまうのだ。 改善の機運も…不買呼びかけ だが最近になって、特に若い世代を中心に、こうした接客に反発する動きが出てきた。今回の「田舎の姉あゆみch」の件でも、報道にも否定的な反応を示したのは20〜30代が中心だった。謝罪コメントをしたユーチューバーやインフルエンサーも若年層が多く、ネイバーのレビュー欄や若者向けのコミュニティには、不親切な店のリストを共有し「不買しよう」と呼びかける投稿も目立った。 そんな彼らの多くは、日本旅行を通じて「親切な接客は、客として当然の権利だ」という価値観を体験しているのかもしれない。先述の「味さえよければいい」という感覚は薄れつつあるのだ。 日本政府観光局(JNTO)が3月19日に発表した統計によれば、今年2月に日本を訪れた外国人は325万8,100人余り。その中で韓国人は84万7,300人を超え、国別では最も多かった。韓国からの訪日客数が多いのはよく知られた事実だが、日本の接客サービスの良さも一因かもしれない。 筆者の知人である文化担当記者は、こう指摘する。 「不親切で二度と行きたくないというレビューがあるのに、店の評価が高かったり、妙にほめあげる口コミが多い場合、それは広告用のでっちあげレビューの可能性がある。そういうレビューを請け負う業者が韓国にはたくさんあって、それを若者は見抜きはじめている。韓国でもこれからは、接客サービスのあり方を変えていくべきだ。親切さはもちろん、衛生面も含めてきちんとしたサービスを提供することが、外国人観光客に『また来たい』と思ってもらえる感覚を身に着けるべき。それが韓国文化の発展にもつながるはず」 日本の接客サービスが韓国の店の接客を変えつつある。 文:ノ・ミンハ(現地ジャーナリスト) デイリー新潮編集部