4月13日に開幕した2025大阪・関西万博は、事前から300億円という途方もない大屋根リングの工費が問題視された。そのほか開幕が近づくにつれ、各国のパビリオン建設が遅れていることや会場地から高濃度のメタンガスが検出されるといったネガティブな報道が相次いだ。 【実際の写真】「トイレが分かりづらい!」 11ものピクトグラムが並んだ“だれでもトイレ” そうしたネガティブな報道は、開幕しても止まらない。今回の万博はIT技術を駆使してチケットレスを実現。それによって並ばない万博を喧伝したものの、開幕日は入場ゲートには長蛇の列ができて激しい混雑が発生。また、会場周辺に多くの人が集まったことでWi-Fiがつながらなくなるという混乱も生じた。 万博の東ゲートを背に夢洲駅を見ると、駅以外には何も整備されていない(2025年4月撮影:小川裕夫) 会場内の飲食店などは現金が使えず、ほぼスマホ決済に頼っている。多くの来場者を見越して Wi-Fiがきちんと機能するように整備をしておかなければならないことは、事前から想定できたはずだ。それにも関わらずWi-Fiが使えなくなる事態が起きたことは、運営側の致命的なミスと言われても反論できないだろう。 こうしたネガティブな部分の目立つ万博だが、それ以上に負の要素を懸念しなければならないのが閉幕後だ。会場地になっている夢洲は、建設残土や廃棄物の処分を目的に造成された埋立地だが、2030年秋をメドにIR(統合型リゾート)が開業を予定している。 ひっそり消えたタワービル計画 万博の会場地もIRも同じ夢洲だが、IRは会場跡地に建設されるわけではない。そのため、万博が開催されている現在も粛々とIRの工事は進んでいる。 テストラン初日の夢洲駅には多くの人たちが詰めかけていた。駅構内には特に飲食店などの商業施設はなく、無駄に広大な空間が残されていた(2025年4月撮影:小川裕夫) IRはエンターテインメント施設やホテル・国際会議場・カジノなど多くの人が集まる巨大複合施設のことで、カジノばかりがことさら取り上げられる。IRは決してカジノと同義語ではないが、目玉になっていることは疑いようがない。 カジノは急増する訪日外国人観光客を見込んだ施設であり、それら観光客の消費によって大阪経済を活性化させようという意図が含まれている。特に、富裕層を呼び込むために欠かせないと、大阪市の橋下徹市長(当時)や松井一郎市長(当時)は繰り返し主張してきた。 しかし、そうした目論見は万博が開幕5年以上前から人知れずに軌道修正されていた。Osaka Metro(大阪メトロ)は2018年、夢洲駅に隣接するタワービルの計画を発表する。それを受けて、大阪府の吉村洋文知事がツイッター(現・X)を更新して、万博を機に大阪が発展することを誇った。 夢洲駅タワービルは総工費が約1,000億円と試算され、高さは250~275メートル。地上55階・地下1階の建物には商業施設・エンターテインメント関連施設・オフィス・ホテル・展望台などが入居する計画だった。 こうした超高層ビルは、すでに大阪にも何棟かある。決して夢洲タワービルが突出した存在というわけではない。それでも、描かれた夢洲タワービルのイメージ図は天に高く聳え。近未来感に溢れていた。そうしたイメージ図の効果によって、大阪が発展していくという高揚感を得る効果を発揮した。 同ビルは2024年に完成予定とアナウンスされた。つまり、万博の開幕よりも一足先に開業する予定だった。 しかし、夢洲駅タワービルの計画は、発表からほどなくしてひっそりと消えた。その理由は、タワービルが現実をいっさい考慮していなかったことが大きい。 同ビルは大阪メトロが建築主になるが、夢洲駅一帯の土地は大阪市が所有している。その土地に大阪メトロが独断でタワービルを建設することはできない。 大阪市は発表時に計画を知らされていなかった。つまり、タワービル計画は大阪メトロの勇み足でしかなかった。そうした経緯を知らずに、吉村知事はドヤ顔をしてしまった。それでも、知事と市長が力を合わせればタワービルを実現できたかもしれない。 しかし、夢洲駅に商業施設などを併設するタワービルは微塵も検討されることはなかった。 駅構内の「無駄な空間」 筆者は万博のテストラン初日となった4月4日に夢洲駅へと足を運んだ。夢洲駅は2025年1月に開業したばかりの新しい駅で、ホームから改札までの通路は大型サイネージパネルや顔認証による改札機が設置されるなど、最新技術が存分に盛り込まれた駅だった。 だが、改札から外に出るまでの駅構内には無駄に広漠な空間があるだけで、そこが有効活用されているとは言い難かった。 筆者が無駄のように感じた空間は駅補完施設と呼ばれるスペースで、駅構内のほか駅前広場・駅前周辺の土地などを含んだ約3万3,000平方メートルの区画だ。これらは公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(万博協会)が所管している。 万博協会は1日に約22万7,000人が会場を訪れると試算し、半年間の開催期間中で約2,820万人が来場するとソロバンを弾いている。駅補完施設を有効活用すれば、経済効果は計り知れない。 万博協会は施設を整備するノウハウを有していない。そこで万博協会は、大阪市に整備事業の事務を委託した。事務を委託された大阪市は、駅補完施設の工事を請け負う事業者をプロポーザル方式で募集した。 駅補完施設の入札前見学会には数社が参加したものの、入札には一社も参加しなかった。こうして入札は不調に終わる。この入札の経緯だけでも夢洲駅が宝の持ち腐れになってしまったわけだが、そもそも大阪市が公費を投じて整備する予定だったのは、駅補完施設のうち約2,000平方メートルに過ぎない。残りの2万9,000平方メートルは、特に整備される予定はなかった。そして、そのまま手付かずの状態のまま万博は開幕した。 万博の玄関口ともいえる夢洲駅の駅補完施設が手付かずの状態で万博を迎えたことは、夢洲エリアの前途が決して明るくないことを示唆している。 2025年秋まで持ち越される判断 そして、それは思わぬ形で露呈する。万博開幕後の4月22日夜、大阪メトロ中央線が車両故障によって運転を一時見合わせる事態が発生した。夢洲にアクセスできる唯一の鉄道が不通になったことで、夢洲は孤立状態に陥った。夢洲駅は万博会場の東ゲート前に位置し、西ゲート側にはシャトルバスが発着している。中央線が不通になってもシャトルバスに乗れば夢洲から移動はできる。しかし、鉄道とバスとでは輸送力に歴然とした差がある。とても万博の来場者をシャトルバスだけで輸送することはできない。 ゴミの最終処分場だったことを考慮すれば、夢洲に交通機関が整備されていないことは仕方がない面もある。しかし、万博の会場地に決まったなら話は別だ。万博の開催にあたり、大阪府や大阪市は交通を整備する責務が課せられる。 それは単に来場の利便性という問題だけではなく、混雑を緩和することで来場者の安全を確保するという意味も含んでいる。 大阪府・大阪市が、夢洲にJR桜島線と京阪電鉄中之島線の2路線も延伸させる案を描いていた。延伸を実現した中央線と合わせれば、夢洲には3路線が整備される見込みだった。これら3路線が整備されていれば、万博の来場者が交通面で不便を感じることはなかっただろう。 3路線は閉幕後に整備されるIRの足としても機能することになるが、JRと京阪は採算面から夢洲への延伸を渋った。2路線を延伸するか否かの判断は2025年秋まで持ち越される。 交通アクセスが整備されていないのに多くの人が集まることはない。しかし、人が集まらない場所に莫大な費用を投じて交通アクセスを整備することもできない。それは万博というビッグイベントでも変わらない。 鉄道は地域開発を支える原動力でもある。それは、いまさら説明するまでもないだろう。夢洲駅タワービル計画や駅補完施設といった夢洲駅のドタバタをみると、閉幕後に整備されるIRも想定以上の厳しい船出になることが予想される。 小川裕夫/フリーランスライター デイリー新潮編集部