少子高齢化が止まらない...「無痛分娩」に対する誤解や偏見

少子高齢化が止まらない。東京都は70ページにわたる「 少子化対策2025 」を1月に発表。そこには2022年4月からスタートした不妊治療への助成、2023年9月からスタートした卵子凍結への助成に加え、新たに注目されているのが2025年10月から始まる無痛分娩への最大10万円の助成金だ。 対象は申請日まで継続して都内に住民登録のある令和7年10月1日以降に出産した方(※ただし、令和7年10月1日以降に無痛分娩を予定していた方が、令和7年9月30日以前に出産した場合、必要書類により確認できれば対象となる)。東京都が指定する「対象医療機関」での分娩が必要で、5月2日までに56機関が リストに掲載 されている。 実際、少子化とともに分娩数は減少しているが、無痛分娩の数は増加している。少子化対策として無痛分娩の助成をするのは意味のあることといえよう。しかし依然無痛分娩に対する誤解や偏見も少なくない。そこである無痛分娩と自然分娩両方の体験を踏まえ、「自分に合う出産」の選択肢について考えていく。 妊娠・出産のことを「自分事」として理解できるマンガ 妊娠・出産について描かれ、ネット書店のサイトや漫画のレビューで「教科書に載せてほしい」「夫に先に読ませたかった!」「母子手帳とともに配布してほしい」「よくぞ描いてくれた!」と共感の声が山のように寄せられている漫画がある。その漫画とは車谷晴子さんの『 朝起きたら妻になって妊娠していた俺のレポート 』というシリーズだ。これは、漫画アプリ「Palcy」で連載され、 妊娠編 と 子育て編 (それぞれ4巻完結)がある。 これは夫である男性が、ひょんなことから「妻」となり、夫である自分の「妻」として妊娠・出産・育児に向き合うというリアルファンタジーシリーズ。妊娠編では、出産した直後の妻に離婚を言い渡された夫が意識を失って目を覚ますと、妊娠中の妻になっているところから始まる。 自分のことを「優しくて気の利くいい夫」だと思っていた夫は、それがとんでもなかったことに気づいていく。例えば「妊娠編」では、「妊娠は病気じゃない」とつわりの妻をレストランに無理やり連れて行ったり(そして気持ち悪くなった妻に「体調管理は自分でやるもの」とまで言う)、「仕事で疲れてるのにカップラーメンくらいつくってくれないのか」と驚くようなことを言ったり……。妻になった夫が見た「自分」は、共働きでも「家事をやるのは妻の仕事」と思い込んでなにもやろうとせず、「妊娠は病気じゃないから大変じゃない」と妊娠・出産の不安に思いを馳せることもできない独りよがりの夫だった。 そんな中でこんな夫のセリフがある。陣痛の痛みが怖くて、「無痛分娩にしようかな」という妻(中身は夫)に夫が言うのだ。 「無痛分娩とかさ〜やっぱ痛い思いして産む方が母親ってかんじするよな…!!」 出産に「絶対」はない 上記のセリフの驚愕のポイントは、まず「妊娠・出産で痛い思いをすることを美徳と考えている」ということ。マンガの中のセリフにもあるが、ならお前は麻酔できても麻酔なしで歯を抜くことを選ぶのか? と言いたくなる。 そして、「出産に絶対はない」ことや「常に不安と向き合っている」ということを、この夫は一ミリも理解していないんだなということ。出産方法で何を選んでも様々なトラブルが生じる可能性だってあるし、とてもスムーズにいくことだってある。それはたとえとても規則正しい生活をしていても、わからない。まずは『コウノドリ』全巻を読んで勉強していただきたいと思う。 無痛分娩でも、帝王切開でも、自然分娩でも、何より大切なのは、母子ともに健やかであること。そのためにも、母子ともにできるだけ安心してリラックスしてお産の場を迎えられることだ。 実際、2025年3月に公益社団法人日本産婦人科医会 医療安全部会が発表した「 硬膜外無痛分娩の現状〜日本産婦人科医会施設情報からの解析 」によれば、日本全体として無痛分娩数は2018年報告の5.2%から2024年報告の13.8%と、6年間で2.7倍に増加した。日本国内の分娩数は減少しており、無痛分娩を行っていない施設では分娩数が減少しているものの、無痛分娩を実施している施設では分娩数が微増している。この数字は、陣痛の痛みが回避できるのなら出産をより肯定的に考えられる人が多いということを意味しているだろう。 ただし、出産に「絶対」はないし、「この産み方だから絶対こう」とは言い切れない。無痛分娩だから「楽なお産」だとは言い切れないのだ。 総合病院で無痛分娩て誕生した第一子、そして助産院で自然分娩を行った第二子の出産で体感した筆者の例を見てみよう。 ちなみにこれから紹介するのは一例であり、出産の数だけ出産のエピソードはある。出会った病院・医師・助産師さんとの相性もある。なにより持病など健康面での問題もある。だから「こういう出産にすべき」といえることはない、ただ「こういうこともありうる」「絶対はない」ということを念頭に置いて、それぞれに合う分娩方法を考えればいいのだ。また、医療は年々進化・変化しているので、医師や助産師に相談の上、ご自身にあった出産を考えていただきたい。 「忙しくても大丈夫」? 筆者が第一子を出産したのは2005年、33歳のとき。夫はアメリカに駐在中で、妊娠中はひとり暮らしだった。当時月2回刊行の雑誌編集部に勤務しており、妊娠中も朝から夜中まで仕事をすることが多かった。 また、通っていた産婦人科クリニックの医師に「妊娠しても仕事をセーブするのも難しく、こんなに忙しくして大丈夫か不安なんですよね」と相談したら、 「大丈夫大丈夫! 私だって臨月まで仕事してた!」 とサバサバと言われたこともある。この産婦人科は大人気でいつも2時間くらい待ち、でも診察は数分で聞きたいことをじっくり聞けるような雰囲気ではなかったから、ちらっと抱いた不安をよそに、そうか、大丈夫ってお墨付きをもらったんだ! 多少無理しても平気なんだ! と思ってもいた。 無痛分娩が「デフォルト」 夫が日本人医師のいる病院に連絡を取り、出産直前に行ってもそこで産めるように交渉してくれた。渡米したのは産休に入るために編集部を片付け、賃貸の部屋も引き払うことができた妊娠34週、予定日のわずか45日前で、「こんな時期の飛行機はおすすめしません。明日からは乗れないタイミングです」と呆れられた(『コウノドリ』3巻には妊娠している状態での飛行機の危険性も描かれている)。 到着してすぐに出産する予定の病院に挨拶に行き、次の診察の予約をとった。無痛分娩ですよねと言われ、それでいいですと返事をした。アメリカの病院では無痛分娩がデフォルトだったのだ。 予定日の3週間前に破水 さて、産婦人科の診察予約日前日の朝4時ごろ。その日は出産予定日の3週間前だった。寝ているときに生温かいものを感じ、お漏らししたかと飛び起きた。破水だった。破水とは通常は陣痛が起き、出産の過程で起こる。しかし陣痛前に破水してしまうと”破水は羊水が出てくるもの、尿と違って透明です、破水すると48時間以内に出産しなければなりません”と、育児書には書かれている。主治医に電話をすると、すぐに病院に来るように言われた。 問診をした看護師が「子宮口が開いていないのにこんなに下がっている赤ちゃんを見るのは初めてだ」というようなことを言っていたらしい。 この病院の無痛分娩は、麻酔をしたいと声をかけてから麻酔医が来るまで時間を要すると言われた。無痛分娩も陣痛のタイミングでいきむ必要があると言われたし、そんなに痛みが強くなかったので、少し陣痛を学ぼうと麻酔はもう少し経ってからお願いすることにした。 しかし、早く出産しなければならないからと陣痛促進剤の点滴を受けると、痛みの種類がガラッとかわった。生理痛がひどいほうだから痛みに慣れているはずなのに、驚きの急速な痛みだった。麻酔を依頼したのが11時半で、麻酔処置が行われたのは12時半ごろ。この時点で子宮口は3センチだったようだ。 そこから出産まではとにかくいきむしかない。ただ、最後産まれるときに「イッテ—!」と思わず口にしたことは覚えている。 予定日から3週間前の15時24分、2110グラムで第一子が誕生した。 1ヵ月大人のオムツを… 「母子ともに健康」と家族や職場に報告をしたが、筆者の体はボロボロだった。まず、陣痛を思う存分感じた上での出産だったので、疲労困憊だった。また、子宮口がきちんと開いていなかったからなのか、痛みも出血も止まらず、アイスパッドをあて、大人のオムツをした。大人のオムツには1ヵ月お世話になることになった。歩くのにも腰をかがめて歩かないと痛くて歩けなかった。外に行くなんてとんでもなかった。 しかし自分の出産は一般的「無痛分娩」とは異なることを徐々に知っていく。ママ友も元気な赤ちゃんを産んだと報告があった。そしてそのわずか数日後、そのママがひとりで元気に歩いていたのである。「え、歩けるの? 出血は大丈夫?」通りすがりに思わず叫んだ筆者に明らかに困惑していた。無痛分娩ゆえに体力の温存ができ、いきむことが容易にできたし、回復も早かったのだという。 無痛分娩により陣痛の痛みから解放されながら幸せなお産をした人のほうが多い ことも知っていく。無痛分娩でも麻酔が間に合わず自然分娩だった例や、貧血がすごいことになってしまった例も聞いた。自然分娩でも「絶対」がないのと同じように、どんなお産にも「絶対」はない。だからこそ、 医療従事者まかせなのではなくて、筆者自身も自分の体を大切に丁寧にしなければならなかった 。 「妊娠は病気じゃない」という言葉が先走り、仕事で無茶をしてしまったり、軽んじる行為をしてしまっていた。徹夜するは、重いものを持つは、「大丈夫大丈夫」と何も知らずにどの口が言っていたのか、第一子が元気に生まれてきてくれたのはラッキーなのだと心から反省した。 そうして、妊娠中の過ごし方や体調管理だけではなく「出産のやり方」ももっと学び、自分の体質や性格にあうものを選択すればよかったとも感じたのだ。そうして、第二子を授かり、実際出産できるとなったとき、選んだのは助産院での自然分娩だった。無痛分娩がダメだったのではない、「その人に合ったお産」というものがあると思い知ったからである。 では実際自然分娩を選んでどのように感じたのか。詳細は後編「「無痛分娩」と「自然分娩」両方やってわかったこと」にてお伝えする。 文/FRaUweb 新町真弓 【後編】「無痛分娩」と「自然分娩」両方やってわかったこと

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