惜しくもアジアナンバー2に散った川崎の敗因は「サウジマネー」

アジア・ナンバーワンを決める大会 サウジアラビアのジッダで開かれていたAFCチャンピオンズリーグ・リート(ACLE)決勝大会で、川崎フロンターレは5月3日の決勝でサウジアラビアのアル・アハリに敗れて、準優勝に終わった。 クラブ・チームのアジア・ナンバーワンを決める大会だ。サッカー・ファン以外からの注目度は低く、テレビ放映はなく、新聞などの扱いは小さかったが、川崎の決勝進出は“快挙”と呼ぶにふさわしい。 昨年秋から行われてきたグループリーグを勝ち抜いた8つのクラブが集まってトーナメント形式で行われた決勝大会。うち3チームは地元サウジアラビアのクラブだった。 サウジアラビアは豊富なオイルマネーを、スポーツ分野に惜しみなく投じている。 サウド王家が権力と富を独占するサウジアラビア王国にとって、スポーツは国民に向けて提供する娯楽(サーカス)であり、国際的には独裁体制への批判をかわし、王国のイメージアップを図るものだ。2027年にはサッカーのアジアカップ、2034年にはワールドカップ開催が事実上決まっており、将来的には五輪誘致も目指している。 サッカーの主要クラブも巨額の強化費を使って世界のスーパースターをかき集めている。政府系ファンドの出資である。 たとえば、川崎が準決勝で対戦したアル・ナスルには、世界最優秀選手賞「バロンドール」を5度も受賞したクリスティアーノ・ロナルド(ポルトガル)や、イングランドのリヴァプールで欧州王者となったサディオ・マネ(セネガル)、強豪クロアチアの中盤を支えたマルセロ・ブロゾビッチといった選手がいる。優勝したアル・アハリは、リヴァプールの主力だったブラジルのロベルト・フィルミーノや、マンチェスター・シティなどで活躍したフランスのリヤド・マフレズを擁している。 アル・ナスルのサッカー 一方、川崎も三笘薫や守田英正、田中碧など欧州で活躍する名選手を輩出したが、主力級は次々と欧州に移籍。現在在籍している日本代表は20歳のDF高井幸大だけ。マルシーニョやアリソンといったブラジル人助っ人も、国際的には無名の選手だ。 従って、下馬評は「サウジアラビア勢絶対有利」だった。 しかし、準々決勝で延長戦の死闘の末にカタールのアル・サッドを下した川崎は、準決勝ではC・ロナルドのアル・ナスルに3対2で勝利。それも、常に先行して一時はスコアを3対1として、終盤のアル・ナスルの追撃を1点に押さえた完勝だった。 勝利の鍵は、戦術に忠実な組織的な守備にあった。 たとえば、アル・ナスル戦で川崎の長谷部茂利監督は、若手の神田奏真、大関友翔を前線に起用。相手の中心選手ブロゾビッチの徹底マークを指示したという。アル・ナスルの攻撃の起点を作る選手だから当然の策だ。Jリーグでは、相手を分析して相手の良さを消すことは一般的に行われている。 それに対して、アル・ナスルは個人能力に頼ったサッカーだった。 普段戦っているサウジ・プロフェッショナルリーグでは、川崎のような組織的守備を行うチームはないのだろう。ブロゾビッチを消されたことで、アル・ナスルにはフラストレーションがたまっていった。 一方、川崎の攻撃陣は、Jリーグよりも守備が甘く、スペースが与えられたので気持ちよく攻撃を展開できた。 川崎フロンターレの敗因 しかし、決勝戦で対戦したアル・アハリは、より戦術的に完成されたチームだった。そのうえで、個人能力の違いを見せつけられたことで、前半のうちに2失点。川崎は完敗だった。 準々決勝から準決勝まで中2日、準決勝から決勝までが再び中2日という連戦のせいで体力を奪われ、選手の動きが悪く、ボール扱いの精度も落ちていたのも敗因だった。 準々決勝でも準決勝でも、対戦相手には中3日の休養日が与えられていたのだから、日程的にも明らかに不利だった。 そもそも、大会の開催地がサウジアラビアだった。決勝で対戦したアル・アハリはまさに開催地ジッダのチーム。完全アウェーでスタンドはアル・アハリの6万人のサポーターで埋められていた。 広大なアジア大陸を舞台にした大会では、ホームとアウェーの差は大きい。まず、気候が違う。試合開始の19時30分時点でもジッダは32度という気温だった。また、今回はJリーグが1億円以上の費用をかけてチャーター便を用意したというが、それでも長距離移動の負担は大きい。 昨年は横浜F・マリノスが出場してカタールのアル・アインと対戦したが、ホームでは2対1で勝利したものの、アウェーで1対5の大敗を喫して準優勝に終わった。一昨年は浦和レッズがアル・ヒラルと対戦。アウェーで1対1の引き分けに持ち込んだ浦和は、埼玉スタジアムでのホームで勝利して優勝を飾った。 昨年まで、ACLの決勝はホーム&アウェー方式だったのだ。 公平性を欠くサウジ集中開催 しかも、さらに公平を期すため、ある年に東地区で決勝の第1戦が行われたら、次年は西地区で第1戦を行うようになっていた(第2戦ホームの方が有利と言われている)。 ところが、今年から決勝大会は集中開催となり、舞台はサウジアラビア。東地区のチームにとっては明らかに不利だ。それでも、来年は東アジアが舞台というのなら公平性を保てるが、来年も決勝大会はサウジアラビアで開催されることが決まっている。 サウジ開催となったことで、サウジ・マネーが流入。優勝賞金は1000万ドルと昨年までの倍以上に増額された。準優勝に終わった川崎は400万ドル(6億円弱)を獲得。各ラウンドの勝利給を含めると総額660万ドル(約9億5000万円)を手にした。 J1リーグの優勝賞金が3億円であることを考えると、川崎は大きな金額を手にしたことになる。 だが、喜んでいて良いのだろうか? サウジアラビアでの集中開催は明らかに公平性を欠いている。この方式が続く限り、Jリーグ勢の優勝は難しい。 スポーツにとって公平性は最も重要な要素だ。日本サッカー協会やJリーグは巨額の賞金を手にして喜んでなどいないで、韓国や中国、オーストラリアなどとともに、大会方式の変更を求めるために声を上げるべきだろう。 熱望していたのにWBCを落選して年俸も4億円ダウン……楽天の開幕投手・田中将大「実績の”貯金”は底をついたのか」

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