年内利上げはアメリカ次第?関税リスクで「利上げ路線」大きく修正か【Bizスクエア】

トランプ関税の行方が不透明な中、日銀は政策金利の据え置きを発表。2025年度の成長率の見通しも大幅に下方修正する中、今後の利上げはいつになるのか。 【写真を見る】年内利上げはアメリカ次第?関税リスクで「利上げ路線」大きく修正か【Bizスクエア】 日米交渉「一致点見いだせていない」 「非常に突っ込んだ話ができた」 日本時間5月2日、関税を巡る2回目の交渉に臨んだ赤沢亮正経済再生担当大臣。 約130分に及んだ協議では、相互関税や自動車関税など“トランプ関税”の見直しを強く求めたうえで、「日米の貿易拡大」や「非関税措置」「経済安保での協力」について具体的に議論したと明らかにした。 6月のG7サミットでの首脳間の合意に関しては「そういう段階に入ればいいなと思っている」とし、日米両国政府は5月中旬以降、閣僚間の協議を集中的に行う方向だが… 石破茂総理(2日) 「一致点が見いだせる状況には今のところなっていない」 食料品値上げ「2024年を上回る」 トランプ関税による経済の下振れリスクが懸念される中、日本では消費者の生活防衛意識が高まっている。 買い物客: 「昔はカゴいっぱいで4000円とかだったのが今は1万円を超えたりするので、以前と同じように買えない」 帝国データバンクの発表(4月30日)では ▼2025年の値上げ⇒累計1万4409品目 ▼特に飲食料品の値上げの勢いは「2024年を上回る」としている そんな中、大手スーパーの『⻄友』は4月から「プライベートブランド」の値下げキャンペーンを開始。30日から始まった第2弾(〜5月28日)では、新たに食料品を中心に57品目を平均12.3%値下げしている。 『⻄友』商品開発室・佐野光宏さん: 「第1弾ではツナ缶やドレッシングなどの売り上げが1.5倍から2倍に増えた。客の価格へのニーズというのは非常に高いものだと感じている」 大手メーカーが値上げする商品を同じタイミングで値下げしたり、価格を据え置きにすることで売り上げが伸びているという。 金利据え置き…いつ利上げ? そんな物価高の現状が続く中、日銀は1日、現状0.5%としている【政策金利の据え置き】を決定。 また、“トランプ関税による不確実性”を理由に、【実質GDPの成⻑予測】を下方修正した。 日銀展望レポート【実質GDP】※()は1月時点の見通し※前年度比 ▼2025年度:(1.1%)⇒0.5% ▼2026年度:(1.0%)⇒0.7% ▼2027年度⇒1.0% 利上げの判断で重視するという【物価】については、「基調的な物価上昇率も一旦伸び悩む姿を想定しているが、その後は徐々に高まっていくと予想している」(日銀・植田和男総裁)とし、その上で【2%の安定的な物価目標】の実現が1年程度遅れるとの見通しを示した。 そして、利上げの時期については… 植田総裁: 「基調的物価上昇率が伸び悩んでいる時に無理に利上げをすることは考えていない。その先いろいろな条件が重なって(基調的物価上昇率が)また上がりだして、2%に到達する可能性がすごく高くなったなと判断した場合にはやるということだと思う」 利下げ路線は大きく修正か キーポイントは、「基調的な物価上昇率が伸び悩む」としている点だ。 日銀が重視する【基調的な物価上昇率】というのは、為替や国際的な市況など一時的な要因を除いた物価上昇率のことで、賃金上昇や国内需要の増加などによって価格転嫁が進むことでもたらされる物価上昇のこと。 1月には、「基調的な物価上昇率は2%の物価安定目標に向けて徐々に高まっている」とし利上げを決定したが、今後それが“伸び悩む”ということは、つまり【利上げ路線が実質的に大きく修正された】ということなのだろうか。 マネーマーケットの現場の視点から金融政策を分析する専門家に聞いた。 『東短リサーチ』社長 加藤 出さん: 「今までのロジックではポンポン利上げはできないよ、ということは言っているが、一方で就業者数で全体の85%ぐらい占める非製造業は、すぐに関税の影響を受けるわけではなく、人手不足が激しいということもあって賃上げの基調は続きやすいというのはある。なのでトランプ関税がどこかで良い方向で落としどころが作られれば、また利上げの話を持ち出せるということで、一応土俵際でギリギリ残ってるところではある」 今後の利上げは「アメリカ次第」 では、年内の利上げの可能性もあるのだろうか? 今後の主な日程を見てみると 【6月】 ▼15〜17日:G7サミット ▼16〜17日:日銀金融政策決定会合 【7月】 ▼9日:相互関税 上乗せ分一時停止期限 ▼28日までに:参議院選挙 ▼30〜31日:日銀金融政策決定会合 【9月】 ▼18〜19日:日銀金融政策決定会合 加藤さん: 「7月9日の相互関税の期限までに劇的な進展があったり、日銀が利上げしないと円安が進んでしまう、などということが全部うまい方向で組み合わせれば、7月に利上げというのもありえなくはないが確率は低い。早くて秋以降だろう」 ———ただ植田総裁の話を聞くと、トランプ政策で成長が押し下げられることに確信がある。成長を押し下げられ基調的な物価が上がらなければ、秋も年内も難しいということにならないか。 加藤さん: 「今まで日銀が言ってきた<物価の基調><賃金と物価の好循環>というロジックでの利上げは、トランプ政権のスタンスがよほど変わらない限り展望は開けない。ただ一方で、日本の金利が低すぎるがゆえの激しい円安をトランプ政権側がいずれ問題視してくる。アメリカとの関係において利上げせざるを得ない局面が来るのではと思う」 「好循環」の芽を摘んだのは日銀? そして、今回の日銀の見通しでもう1つ注目すべきは、展望レポートに【賃金と物価の好循環】という言葉が見当たらない点だ。 ———これまでのレポートでは必ず登場し、いわば日銀の“うたい文句”だった。それが抜け落ちたということは、この政策が難しくなってきているということか。 加藤さん: 「<賃金と物価の好循環>という説明は、元々苦しさがあった。好循環というならもっと消費が強くなっていいはずなのに、実際は食料インフレで生活が圧迫され消費全体があまり力強くないということが起きた。特にトランプ関税のような衝撃が来ている時に一番大事な公式文章にその文言を載せておくと批判が炎上しそうだな、ということで今回は1回引っ込めて仕切り直しということだろう」 ———実質賃金もマイナスが続き、その背景には物価高があるが、会見でも“好循環がうまくいっていない”と事実上認めたような発言があった。 【植田総裁“2つの誤算”発言】(1日) ▼2024年半ばから食品価格が上昇。「第1の力」がまた出てきて実質賃金を抑えた ▼価格転嫁は財は進んだが、サービス価格への波及が遅れている 加藤さん: 「これは誤算というか明らかに予見できたこと。日銀が利上げに非常に慎重で、2024年12月も見送って年始は1ドル=160円と円安が進んだ。その円安によって食品インフレがまた起きてしまうというのは予見できるわけで、金融政策の責任が大きい」 ———価格転嫁のサービス価格への波及の遅れも、実質賃金が増えないことが原因。 加藤さん: 「一般的には消費が弱い時に、中央銀行が金利を上げることはあり得ない。ただ今の日本は、金利が低すぎ⇒過度な円安⇒消費がぱっとしないというところから、好循環が起きづらいということが起きている」 「物価の番人」日銀が“責任回避” ここ2年間の「消費者物価」を見ても、日本が一番高い。 【消費者物価指数 過去2年の変化率】2023年3月〜25年3月  ▼総合⇒【日本:6.4%】・アメリカ:6.0%・ユーロ圏:4.7% ▼食料⇒【日本:12.5%】・アメリカ:5.2%・ユーロ圏:4.6% ▼エネルギー⇒【日本:6.0%】・アメリカ:−1.2%・ユーロ圏:−2.8% (※日米はCPI/ユーロ圏はHICP・各国資料を基に東短リサーチ作成) 加藤さん: 「アメリカやヨーロッパは、その前の2年は随分上がっていたが、落ち着きつつある。日本は食料やエネルギーなど生活コストに直結するものが相当上がっているので、生活実感としてはものすごい物価上昇と感じる人は多いだろう」 ———生活を圧迫する物価の上昇にどう対応するのか金融政策の側から出ないことが問題。<基調的な物価>という言葉にこだわりすぎているのか。 加藤さん: 「日銀は、ここ2年『物価の基調にしか対応しない』というスタンス。全体のインフレが3〜4%近辺の状況が続いている時に、『基調はまだ2%に到達していない』と。全体のインフレはゆっくりとしか下がらないだろうから、生活の苦しさはまだまだ続く。日銀の物価の番人としての役割をすごく狭く規定して、責任回避をしている結果が今の状況を生んでいると思う」 (BS-TBS『Bizスクエア』 2025年5月3日放送より)

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