実現に向け国で検討が始まった給食費の無償化。しかし、物価高騰の中、学校現場ではギリギリの状況が続いています。地域格差も拡大している学校給食。その実態を追いました。 【写真を見る】国が打ち出す給食費無償化は実現するのか? 物価高騰や地域格差の拡大に苦しむ学校現場 専門家は自治体ごとに異なる制度の問題を指摘 多くの子供たちにとって一番楽しみな給食の時間。愛知県みよし市の緑丘小学校。この日のメニューは、きしめん、五目鶏きしめんの汁、野菜コロッケ、フルーツの蒲郡みかんゼリーあえ、牛乳です。 (児童) 「おいしい」 「(Q:学校で一番好きな時間は?)給食の時間」 「おいしい給食が出たら楽しい」 その給食を作っている市のセンター。ここでは、みよし市内の6つの公立保育園、8つの小学校、4つの中学校の約6800食の給食を作っています。この日もニンジン138キロ、タマネギ508キロ、豚ミンチ198キロなど新鮮な食材をふんだんに使って大きな釜でミートソースを作っていましたが、担当の職員は頭を悩ませています。 コメなど食材の高騰が給食を直撃 (管理栄養士) 「ご飯によって価格が上がっちゃうならパンに変えたら…。いくらぐらい下がるか分からないけど」 (栄養教諭) 「10円ちょっと…10円以上下がるよね」 (管理栄養士) 「そういうやり方もあるのかなって」 一向にコメの値段が下がらない中、ご飯を減らしてパンにすることも考えていました。 (栄養教諭) 「一気に(コメの価格が)10円以上も上がるなんてのは経験がない」 県内の公立小中学校などにコメを販売している、愛知県の学校給食会によりますと、ご飯1食で70グラムあたり10円以上高くなっているのです。 (栄養教諭) 「なるべく大きな変化が子どもたちに伝わるようなことがないように。栄養価が欠けることがないように、安い食材に入れ替える工夫をしている最中です」 みよし市では、ご飯が59円から73円に、牛乳が66円から68円、おかずが175円から187円とコストが急激に上がっていて。それは、そのまま市の財政を直撃しています。 “給食費無償化” 重くのしかかる費用増 (みよし市 小山祐 市長:去年9月) 「保育園・幼稚園・小学校・中学校。全ての子どもたちの給食費の無償化を実施していきたい」 去年から保育園や幼稚園、小中学校など全ての子どもの給食費の無償化に踏み切ったみよし市。費用は昨年度約4億3200万円でしたが、今年度は4億8000万円の見通しに。それでも足りないことが既に判明していて、補正予算での追加を検討しています。 (みよし市 小山祐 市長) 「給食の質と量を下げないというところを、行政として担保するという思いを込めて無償化に。子どもたちの栄養素を満たすことが大前提で、足りなければ当然、上乗せすることを行政が責任を持つ」 元々、国が給食無償化を打ち出した中、自治体としての姿勢を見せることで議論が進めばと踏み切った無償化ですが、それが重くのしかかります。 保護者からの給食費だけでは赤字の自治体も そして同じ愛知県内でも市町村で格差が広がっています。愛知県高浜市の翼小学校。高浜市では元々保護者が給食費を支払い、各学校ごとに給食を運営していましたが、コメをはじめ食材の高騰で2月の段階で徴収した給食費では赤字になることが判明。そして給食に異変が…。 (高浜市立翼小学校 村越茂樹 校長) 「安価な野菜に切り替えたり量を減らしたり。コメについても減らしていく。結果的には2割(減らした)」 これは、ことし3月のメニューの写真。ごもくちらしずし、と、ゆばいりすましじるがありますが、去年3月の同じメニューに比べ、野菜やかまぼこなど具が減っていることが分かります。 3月の1か月で見ると、コメも1人あたり2割減らし、カロリーは基準以下となりました。 (高浜市立翼小学校 村越茂樹 校長) 「学校給食法で基準値が定められているが、3月は基準値を下回っていた。気付いて『質素になった』と感じた子もいるかもしれないので申し訳ない」 高浜市の給食は各学校で給食費を集めて運営する方式のため、赤字補てんに市のお金が使えず、校長や給食担当の職員が費用を要求される事態にもなったのです。 質が下がれば意味がない“無償化” 今年度からは市が給食の予算を管理する形に変わりましたが、そもそも行政が全額負担したり、保護者が毎月給食費を支払ったりと、自治体ごとに給食制度がバラバラであることが好ましくないと専門家は指摘します。 (千葉工業大学 福嶋尚子 准教授) 「自治体によって給食自体を提供していないところや、給食費を保護者負担のままにして、安定的に供給できない状況を見ないふりしている自治体もある。体制自体が格差を生んでいるので、自治体がどんな財政力だろうと、国が全国一律にやっていかないといけない」 (石破茂 総理:ことし2月) 「まずは小学校の給食無償化を念頭に、安定した恒久財源の確保策とあわせ、令和8年度以降できる限り早期の制度化を目指したいと考えております」 年間約4900億円の財源が必要となる全国の公立小中学校などの給食費無償化。こんな心配の声も…。 (街頭インタビュー) 「今の質を保っての無償化だとうれしい」 「いい思い出の給食が質素になって、わくわくが減るのは寂しい。質が落ちるリスクがあるなら、給食費ではないところを無償化にしてほしい」 無償化するだけで質が落ちるのではないか。そこには政治への不信も見てとれます。 (千葉工業大学 福嶋尚子 准教授) 「これを下回ると十分なものが作れないというラインを下回らせない仕組みが必要。給食を無償にした、税金が財源だから最低限しか出せなくなった。そのことで質が下がったとなったら無償にする意味がない」 子どもたちにとって、学校では勉強と同じくらい重要な給食。無償化への議論が進む中、そのあり方が問われています。