【前後編の後編/前編からの続き】 昨年の衆院選でネットを巧みに活用し、議席を伸ばした国民民主党。今やウェブでの発信力は、選挙の勝敗を分ける鍵となった。参院選を夏に控えたいま、同党の玉木雄一郎代表(56)のYouTubeを研究し、彼が“ネット地盤”を築けた秘訣(ひけつ)を解明する。 *** 【写真を見る】「兄よりイケメン」 玉木雄一郎氏の弟・秀樹氏 前編【なぜ玉木雄一郎氏は「政治家YouTuber」で一人勝ちできた? 「アンチがファンに転向するケースも」】では、玉木氏のYouTubeが大躍進を遂げた理由について、「コメント欄を閉じない」「主義主張の異なる相手との対談も積極的に行う」という、オープンさがあったと紹介した。 玉木雄一郎氏 しかし、人気の理由は、そのような開かれた姿勢だけではない。「切り抜き」というYouTube独自の文化も活用しているのだ。 政治部記者が解説する。 「他人の動画から面白い部分だけを抜き出して編集し、短時間の見やすい動画に仕上げる“切り抜き系”と言われるYouTuberが無数にいます。その多くは再生数などに応じて支払われる広告収益が目的です。必然的に、人気のチャンネルには多くの“切り抜き職人”が群がります」 玉木氏の切り抜き動画は「激戦区」 切り抜かれる側にも自身の動画が拡散されるメリットがある一方で、他者の動画を使う以上、著作権問題に発展することも少なくない。しかし玉木氏は、 「“切り抜きOK!! どんどんお願いします!”とチャンネルで切り抜きを公認。これが衆院選での知名度アップに貢献しました」(前出の記者) 実際、政治系の“切り抜き”を生業としているK氏に尋ねると、玉木氏は“激戦区”だと述べた。 「まず素材となる動画が多い上に、いつもホットな話題を取り扱うため、切り抜きが非常にやりやすい。同業者と切り抜く場所が被りづらいという点でも、初心者が参入しやすいのです」 動画のストックの多さが、ここでもプラスに働いたわけだ。加えて、 「視聴者の財布に直結する経済の話題は需要が高い。玉木さんの得意とする減税や年金の話は、ウケが良いんです」(同) 野党動画が再生されやすい理由 そもそも切り抜き動画では、野党を取り上げた方が再生されやすいともいう。 「私自身は国会の中で面白かった質疑ややり取りを探して切り抜いています。その時に注目する点は“対立構造”が認められるかどうか。見苦しく言い訳する自民党などの“体制側”に対して、時に怒りながら庶民の側に立ち、質問や追及をする姿は目を引きます。国民民主党では玉木さんより榛葉賀津也幹事長の方が切り抜かれていますが、それも自民党の政策や記者に対して、歯切れよく物申すところが見ていて小気味よいからでしょう」 K氏自身は、昨年30代半ばで元の職場を退職、現在は専業YouTuberとして登録者数約8万人のチャンネルを運営している。 広告収益の額については言葉を濁しつつ「大体同年代のサラリーマンの給料と同じくらい」と答えるのだった。 1回のライブで100万円超のスパチャも こういった“共生関係”にあるYouTuberが動画の拡散に寄与するほか、玉木氏自身が週1回程度で行う「ライブ」も重要な役割を担っている。 企業のYouTube運営を手がける、株式会社動画屋の木村健人代表が解説する。 「ライブはYouTube上で行われる生配信。玉木氏はスウェットなどの緩い格好で、1時間にわたり視聴者からの質問に答えつつ話をします。飾らない姿での交流は、熱心なファンへのサービスになっている」 また、長尺のライブは切り抜きの素材にもなる。 「切り抜かれた短い動画で玉木氏に触れた人が、興味を持って次は10分前後の解説動画を見ます。そこでハマれば、さらに長尺のライブを見て……と、パターンが完成しています。視聴者のハマり具合に応じた再生時間・内容の動画を見られるようになっており、YouTubeの機能の使い分けが巧みです」(同) 実際、玉木氏は1回のライブで100万円を超すスーパーチャット(投げ銭)を視聴者から集めたこともあり、動画を通じて“推す”人が多いことがうかがい知れる。複数の試算サイトで広告収益についても調べたところ、年500万〜700万円程度という結果だった。 こういった動画の収益について玉木事務所は、 「2024年10月以降は試験的に収益を受け取り、すべて玉木個人の所得として確定申告と納税をしています」 視聴者から疑義を持たれる動画も 政治家YouTuberとして押しも押されもせぬ人気を持つ玉木氏だが、中には視聴者から疑義を持たれる動画もある。 陰謀論に詳しいライター、黒猫ドラネコ氏が言う。 「玉木氏が『ママエンジェルス』なる、オーガニック給食を推進する団体の方に話を聞く動画です。ありがちな消費者団体に思えますが、かねてより世間の常識からズレた極端な自然派に傾倒しているとして有名でした」 出演した女性が主催したイベントの告知を試しにのぞくと「地球のアセンションと共にご自身を次元上昇させましょう!」などと“極端な”文章が記されていた。 「少し調べれば、その団体が周りからどう評価されているかは分かります。出演前にチェックはなかったのでしょうか。玉木氏が彼女らの主張全てに賛同しているわけではないと思いますが、政党の党首が運営する『たまきチャンネル』で無批判に取り上げれば“お墨付き”を与えてしまったも同然です」(同) 「精査された内容ばかりでないことに要注意」 JX通信社代表取締役の米重克洋氏は、政治系チャンネルを見る側も“一歩引く”ことが重要だと説く。 「総務省の調査では、YouTubeなどのSNSが持つ“お薦め機能”を知っているという人の割合が、日本では国際的な基準より少ないという結果でした。玉木氏にとっては有利に働いたこの仕組みですが、ともすれば偏った政治的主張の動画ばかりを見ることになりかねません。テレビと違い、精査された内容ばかりでないことも、併せて覚えておくべきです」 玉木氏が成功した以上、7月の参院選でも各候補者がYouTubeに力を入れるだろう。投票前には冷静な目で見守る必要がある。 前編【なぜ玉木雄一郎氏は「政治家YouTuber」で一人勝ちできた? 「アンチがファンに転向するケースも」】では、初期には迷走気味だった玉木氏のYouTubeが大躍進を遂げた理由について紹介している。 「週刊新潮」2025年5月1・8日号 掲載