【全2回(前編/後編)の前編】 昨年の衆院選でネットを巧みに活用し、議席を伸ばした国民民主党。今やウェブでの発信力は、選挙の勝敗を分ける鍵となった。参院選を夏に控えたいま、同党の玉木雄一郎代表(56)のYouTubeを研究し、彼が“ネット地盤”を築けた秘訣(ひけつ)を解明する。 *** 【写真を見る】「兄よりイケメン」 玉木雄一郎氏の弟・秀樹氏 「日本の政治を変える夏、手取りを増やす夏にしたい」 不倫問題による役職停止処分を終えた3月、玉木氏は今夏の参院選に向けて自信ありげにそう述べた。 それもそのはず、3カ月の処分期間を経ても、国民民主党への世論の支持は薄れなかったのである。 例えば3月下旬に実施された産経新聞とFNNの調査では、参院選でどの党に投票するか尋ねたところ、18〜40代で自民党を抑え国民民主党が首位に立った。また、4月に時事通信が行った同様の調査でも、同党は10代・20代で首位、30代でも自民党と同率1位となっていたのだ。 玉木雄一郎氏 「“玉木首相”説に現実味」 政治部記者が言う。 「国民民主党が参院選で議席を伸ばすことは間違いない。対して衆院で少数与党の自民党は、参院でも過半数を割れば政権を維持できません。自公が国民民主党と手を組んで連立政権となれば、“玉木首相”説も現実味を帯びてきます」 一介の野党党首から総理大臣へ——玉木氏がそんなシンデレラストーリーを歩み始めたのは、昨年10月の衆院選の時からだった。 「国民民主党は街頭演説などのリアルな活動に加えて、YouTubeに約7200万回、グーグルに約1.1億回のウェブ広告を掲載するなど、ネットを駆使した戦略を展開しました。その結果、同党は7議席を28議席まで伸ばす躍進を見せたのです」(同) 圧倒的な人気を得た玉木氏のチャンネル JX通信社代表取締役の米重克洋氏は、国民民主党の作戦が奏功したのは必然だと語る。 「2023年に総務省が行った調査では、全年代(13〜69歳)でネットの視聴時間がテレビのそれを上回りました。40代後半〜70代の投票率が高い年齢層でも、ネットで候補者の情報を得ようとする人が増えていると考えられます」 この流れは、衆院選以前から表れ始めていた。 「昨年夏の都知事選では、石丸伸二氏が蓮舫氏を上回る票数を得て“石丸現象”と呼ばれました。われわれの調査では、石丸氏に投票した人の半数近くが、YouTubeを参考にしたと答えています」(同) 衆院選では、これを受けて国民民主党も党や各候補者が多数の動画を投稿する、大々的な戦略をYouTubeで展開。中でも圧倒的な人気を得たのは、党首である玉木氏その人のチャンネルだった。 登録者数は約60万人 「18年7月に開設された『たまきチャンネル』は、代表自らが“103万円の壁見直し”などの政策や時事を解説する内容がメインです。衆院選では選挙関連の動画を多数投稿し、登録者数が大きく伸長しました。その後も不倫問題についてチャンネル内で謝罪するなどして注目を集め、現在の登録者数は60万人弱と、衆院選前の3倍近くになった。政治家個人のチャンネルとしては、衆議院議員の中では最多です」(前出の記者) もちろん他の議員も衆院選のために動画をアップしている。とはいえ、その中で人気の高市早苗議員や岸田文雄前首相でも、登録者数はそれぞれ約45万人、約15万人と「たまきチャンネル」に遠く及ばない。 玉木氏が“一人勝ち”している理由について、米重氏が分析する。 「玉木氏が他の議員より一足早く“永田町のYouTuber”を自称しチャンネルを立ち上げた時には、それを嘲笑するような見方もありました。しかし早期参入したことで、玉木氏は衆院選の時点ですでに900本近くの動画をチャンネルに蓄えていたのです」 YouTubeは、視聴者の好みや傾向に合わせて動画をお薦めする仕組みになっている。つまり、 「衆院選の情報を得るために玉木氏の動画を再生すると、次から次に玉木氏関連の動画がお薦めされることになります。しかも動画のストックは十分にありますから、お薦めが簡単に尽きることはなく、視聴者を引き留められます。玉木氏はまきを積み続けてきたようなもので、選挙という火がついた瞬間、視聴回数、ひいては登録者数が伸びるのも当然なのです」(同) 街頭演説に原点が では、これまで玉木氏はどのようにして大量の“まき”を積んできたのか。 政治情報サイト「選挙ドットコム」顧問で、ネット選挙コンサルタントの高橋茂氏が、玉木氏の原点を振り返る。 「18年に旧・国民民主党が結党して間もないころ、玉木氏の地方演説に同行したことがあります。当時はテレビにほとんど取り上げられなかったにもかかわらず、地方でも必ず1人か2人、熱烈な玉木ファンがいた。玉木氏は話し上手で、人柄も親しみやすい。人気者の素質がある一方で、知名度が問題でした。そこで自分から発信してやろうと、YouTubeを始めたとか」 動画ではホワイトボードを使って解説する玉木氏だが、似た方法をすでに街頭演説で試みていた。 「巨大なディスプレイを設置して、そこにプレゼン用のスライドを流して政策を解説していました。相手に分かりやすく伝えるというのは、玉木氏の変わらない姿勢ですね」(同) 「批判が寄せられてもコメント欄を閉じなかった」 とはいえ、YouTubeでもそのスタイルを確立するまでには、紆余曲折があった。初期の動画を見てみると、首に「私を知っていますか?」と書かれたボードを下げた玉木氏が通行人に街頭インタビューをしてみたり、国会内の喫茶店を紹介してみたりと、内容に一貫性がない。 それでもチャンネルが衆院選までに一定数の登録者を得ていたのは、高橋氏いわく玉木氏の「門戸を開く」姿勢が視聴者に響いたからだ。 「手探りしつつ動画をあげる中でも、玉木氏はコメント欄を閉じるということがありませんでした。もちろん拙い内容に批判も寄せられるわけですが、それも参考にしながら“ウケる”方向性を模索してきた。それが現在の政策・時事解説という形につながったのです」 「アンチがファンに転向するケースも」 また玉木氏は「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首や、れいわ新選組の山本太郎代表など、主義主張の異なる相手との対談も厭わない。 「自分の仕事内容や信条を一方的に伝えるだけの政治家YouTuberが多い中で、非常にオープンな姿勢に映りますよね。また、ネットの視聴者は、コメント欄を閉じるなど意見を制限しようとする姿勢に反感を覚えます。相手が権力者であればなおさらです。不倫の謝罪動画でもコメント欄を開放している玉木氏は“逃げも隠れもしない”という印象を視聴者に与えるのです」(高橋氏) メインコンテンツである解説動画を、1週間に2本ほどアップし続けていることもポイントだ。 「コメ不足やトランプ関税など話題の事柄を即座に取り上げるので、自分のアピールではなく視聴者のために情報を発信しているように映ります。また、不倫問題などの不祥事があっても、ブレずに解説動画をあげ続けることで、一時増えた批判も時間と共に埋もれていきます。中には批判している内に、お薦めされる解説動画を見て“玉木氏もなかなか良いことを言うな”とファンに転向する人もいるでしょう」(同) 後編【「1回のライブでスパチャ100万円超も」 玉木雄一郎氏が「政治家YouTuber」の覇者になれた理由 年間推定収益は驚愕の金額】では、YouTubeの切り抜き文化、スパチャ文化などを味方につけながら、大躍進を遂げた玉木氏のチャンネルについて、成功理由をより詳しく分析する。 「週刊新潮」2025年5月1・8日号 掲載