メッタ切りにした女性をつま先で蹴り「まだ生きているのか」…「西鉄バスジャック事件」少年法に守られた「17歳」残虐犯行の一部始終

 ちょうど四半世紀前の2000年5月3日から4日にかけて、GW中の日本列島を震撼させた「西鉄バスジャック事件」。佐賀市内に住む17歳の少年が佐賀駅発、福岡市内行きの西鉄高速バスをジャック。「あなたたちが行くのは、天神じゃなく、地獄です」——そう宣言した少年は、乗客3名を切り付け、うち1人を絶命させた。切り付けた女性をつま先で蹴り、「まだ生きてるのか」と問うなど、警官が突入して逮捕されるまで残虐極まりない犯行を続けた。バスの発車から逮捕までは16時間。 【写真】事件を起こした17歳少年の素顔。両親が療養所に提出した「意見書」も  少年は中学時代から荒れ、高校入学後はわずか9日間で不登校に。以後は自宅に引きこもり、家庭内暴力を繰り返し、高校を中退。事件の年の3月、自室に刃物を揃え、母校の中学校の襲撃計画をメモしているのを知った両親が県内の国立療養所に医療保護入院させたものの、GW前に一時外泊を許可された。その間の犯行だった。後に法廷で明らかになった動機は、「自分の将来に希望が持てなくなった。大きな事件を起こし、自分も死ぬことを考え始めた」という身勝手極まりないもの。しかし、当時17歳という年齢から、少年法の壁に阻まれ、事件後は少年院に送致。刑に服することはなかった。 西鉄バス警官突入の瞬間  こうした不条理に世論は沸騰。その2日前に愛知県豊川市でやはり17歳の少年が見ず知らずの主婦を殺害する事件が発生したこともあり、その年11月、少年法は、16歳以上の少年が故意に被害者を死亡させた場合、家裁は原則として検察官送致をしなければいけなくなるなどの改正が行われた。日本の少年犯罪の歴史において、エポックメイキングな事件と言える。「週刊新潮」では事件発生当時、バスの乗客5名に犯行状況を聞き、また、少年の周辺に取材、生い立ちを詳らかにしている。以下、それを再録し、改めて少年法のあり方を考えてみよう。 【前後編の前編】 【前編】では、乗客5名の証言による、犯行現場の様子を詳述する。 (「週刊新潮」2000年5月18日号記事を一部編集しました。文中の年齢、役職等は当時のものです)  *** 青年には気が付いていた  佐賀駅前と福岡市の天神を、片道1250円、所要時間約70分で結ぶ西鉄高速バス「わかくす」は、ふだんから利用客の多い路線である。  5月3日12時56分発天神行きのバスにも、21人の客が乗っていたが、その中で1人だけ、 「私はバスセンターでバスを待っている時から、あの青年には気が付いていました」  というのはA子さん(72)だ。夫のB男さん(73)と朝の便で佐賀に来て、法事を済ませて福岡の自宅に帰るところだった。 「他の乗客はバスが来るまで椅子に座って待っているのですが、その青年は椅子に座らずに、そこらをウロウロし、あたりをキョロキョロ見回したりして、明らかに挙動不審でした。私は、落着きのない変な人だな、と思ってその青年を見ていました。黒いカバンを持っていました」  しかし、その挙動不審男がバスに乗るところは見なかった。乗車したA子さん・B男さん夫婦は真ん中あたりの席に並んで座り、 「バスが出発すると、まもなく2人ともウトウト眠ってしまったのです」 けだるい午後  佐賀市に住むC男さん(56)は、この日から始まった博多どんたくを見物に行くので、このバスに乗った。 「お客さんも大体が乗り慣れた方ですので、私を含めて8割くらいの方が眠り始めました」    D子さん(18)とE子さん(18)は友達同士。九州一の繁華街・天神に買い物に行くところだった。 「あのバスは天神に直行するので、列車より便利で、よく利用しているんです」  いかにも休日らしいこれらの乗客を乗せて、バスは、けだるい午後を北東に走り、九州道で福岡県に入った。 首のあたりに切り付け 「出発してから友達とお喋りしていて、30分くらいたったころ、突然前の方の席から“アー、アーッア”というような大きなわめき声が聞こえてきました」(D子さん) 「その声で目を覚まして窓の外を見ると、バスは鳥栖ICと太宰府ICのあいだを走っていました」(C男さん) 「と、次の瞬間、左側の前の方にいた男が包丁を振りかざして立ち上り“このバスを乗っ取る”と言いました」(E子さん) 「トーンが高く、まるで自分に言い聞かせているような、しっかりした口調でした。“荷物を前の方に持ってきて積み上げろ。客は全員後ろに移動しろ”と指示しました」(C男さん) 「“後ろに行けと言ってるよ!”という前の席の人の声で目が覚めました。何事かと思い前を見ると、若い男が肉切り包丁のようなものを振りかざして“後ろにつめろ。早くしろ。オレの言うことを聞かないと殺すぞ”などと指示している。運転手には“真っ直ぐに行け”と命令していました」(B男さん) 「主人の“起きろ”という声で目が覚め、前を見たら、そこに包丁を持って立っていたのは、あの青年でした」(A子さん) 「私と友達は後ろに移動して、また並んで座りましたが、私の前に座っていた女性は眠っていて男の指示を聞いていなかったらしく、一人、前の座席に残ってしまったのです。男はそこへやってくると“ふてくされてますね”と言って、いきなり首のあたりに切りつけました。そして“あなたたちが行くのは天神じゃなくて、地獄です”と言いました。男は、怒ると命令口調になりましたが、冷静な時はずっと敬語で喋っていました」(E子さん)  その後、男は男性客を窓側、女性客を通路側に席替えさせると、客の時計、携帯電話、ラジオ、上着を床に置かせて足でかき集め、窓のカーテンを閉めさせ、さらに、女だけを前の席に移動させ、男5人は後ろに詰めさせて、バリケード代わりに補助椅子を倒した。 「自分は運転手のすぐ後ろの席に座り、首だけこちらに向けて、いろいろと指示を出しました。メガネをかけて、敬語で話す、マジメそうな子でした」(E子さん) 「とても冷静で、有言実行で客に当たっていました。隣の友達と“ヤマダって、結構アタマ良くない?”と話したくらいです。ヤマダというのは、犯人がそう自称していたのです」(D子さん) 「前方に巨大な関門橋が見えたので、ああこれから本州に入るのだなと分かった以外は、今どこを走っているのか、目的地や犯人の動機が全く分からず、常に緊張していました」(C男さん) 逃げるたびに刺すぞ 「しばらくして、男は“トイレに行きたい人は手を挙げて下さい”と言いました。女の人がほとんど皆、手を挙げると男は“全員、行きたいはずがないだろ。行ったら逃げるに決まってる”と言いましたが、運転手に指示して車を左に寄せて停めさせました。そして男は、小さな犬をだっこしている女の人に“あなたが先に行って下さい”と言いました。しかし、その女の人は出て行ってから、いつまで経っても戻ってこない。男は“帰ってこない。裏切りやがった”と言い、運転手に車を出させました」(E子さん)  この犬を連れた女性が、第一通報者だったのだ。E子さんの証言が続く。 「その直後、男はスーッと私の方に寄ってきて、私の目の前に座っている女性の前に立ち止まり“見せしめだ”と言うと、腕と首の後ろあたりを何回も切りつけました。私の隣に座っていた友達(D子さん)が血をバーッと浴びてしまいましたが、怖くて2人とも何も言えませんでした」 「切りつけられた女性はギャッと悲鳴をあげ、席から通路に倒れ込み、うずくまってしまいました。男は、切りつけた後、うすら笑いを顔に浮かべて“連帯責任なんだから逃げようと思うなよ。逃げるたびに刺すぞ”と言いました。それから、通路にうずくまっている女性に“まだ生きてるか”と何回か聞き、つま先でちょんちょんと女性を蹴り、また“生きてるか”と聞きました。その時に女性は“はい”と1回だけ答えました」  E子さんが続ける。 「女性が一人、窓から飛び下りました。窓から半身を乗り出し、外に向かって“助けて”とひと声発したあとポンとそのまま飛び下りてしまいました。その時は、男は前を見ていたので気づかなかったようですが、その後、その女性が座っていた席の前に来て“ここに女の人がいましたよね。どこに行ったんでしょうね”と言いました。そして、女性が飛び下りた窓が開いているのを見つけると、すぐ近くにいた、私の前の席の窓側に座っていた女性に“何をしている。逃げようとしているのか”と近づき、首を刺しました。“連帯責任だ”とまた言いました。刺された女性はギャーと悲鳴をあげ、隣の席に倒れ込んで、ウーッと唸っていました」 「今度は、後ろの方の席からドンドンと窓を叩く音が聞こえたんですが、男は“また誰か逃げたか”と言って、再び、先ほど首を刺した女性のところに近づいてきました。女性は隣の席に倒れ込んだままで“私じゃない”と言って腕でさえぎろうとしましたが、男はそこに何度も切りつけました」  それが亡くなった女性(68)だった。 女の子に包丁の刃 「犯人は前の方に座っていて、数十秒おきに後ろを振り返っては、男たちが襲ってこないかと確認しているようでした。また、追尾してくるパトカーを気にして、後ろの窓のカーテンを開けさせたり閉めさせたりしていました」(C男さん) 「パトカーがバスと並走し始めると男は怒りだし“裏切りやがった。ちくしょう”と言ってシャツの胸ポケットから携帯電話を取り出しました。その電話は親から取ってきたと言ってました。男は電話に向って“拳銃を持ってきたら、女の子以外の人質は全員解放する”などと言ってました」(E子さん) 「あるトンネルに入ったとたん、犯人は“バスを止めろ。ドアを開けろ。男は全部前に来て降りろ”と命じました。男4人はバリケードの補助椅子を乗り越えて前に行きましたが、私たちが移動していくと、犯人は初めて女の子を抱き抱えて首に包丁の刃をあてて身構えました。おそらく男の集団が近づくので警戒したのでしょう」(C男さん) 「家内のことが心配でしたが、男を刺激したら良くないと思い、目配せだけして後ろ髪を引かれる思いで外に出ました」(B男さん) 助かったんだ  以後、再びE子さんの証言。 「バスが奥屋PA(広島県東広島市)で停止したとき、男は私と私の友達に“ケガをしている人を前に運んで下さい”と言いました。その場で説得を始めた警察に対し、男は防弾チョッキの差入れを要求しており、それが認められたので、3人を解放することになったようです。私たちは3人を前に運び、最初の1人は私たちが抱えて窓から外に出しました」 「小谷SA(広島県東広島市)で停止したときには、男は“ここで休憩します。みんな寝ていいですよ”と言って電気を消しましたが、みんなは放心してボーッとしていました」 「ポータブルトイレ3つ、フライドチキン、お握り、スナック菓子と飲み物が差し入れられましたが、これは乗客の要望ではなく、犯人が勝手に要求していたものです。でも、長時間の監禁による緊張と疲労で、口にする人はいませんでした。特に脂っぽいフライドチキンなんか、食べられるはずないじゃないですか」 「外から警察の人が“女の人と子供を外に出してあげなさい”と言っているのが聞こえましたが、そのうちに、窓のところでの説得が始まりました。警察の人が“もう充分アピールしたから、いいんじゃないの”と言うと、最初は“聞く耳持たないです”と答えていた男も、説得が続くうちにだんだん警察の人のいうことを“ハイ、ハイ”と言って聞くようになっていきました。でも、“お巡りさんの言うことも分かるけど、まだやり残したことがあるので、時間を下さい”と最後に言っていました」 「突入の瞬間は突然やってきました。私は男に一番近いところにいましたが、ドンドンと窓を叩く音がして、怖い! と思ったら、窓が割れて人がいっぱい入ってきました。そして室内に煙が充満しまた。いったい何が起こったのか分からなかったのですが“取り押さえました”という声を聞いて、初めて、助かったんだと思いました」  ***  警察が突入したのは5月4日の午前5時3分、少年が逮捕されたのは5時5分。以上が16時間の詳細である。犠牲となった女性は元小学校教師で、退職後は佐賀市内で私塾を開いていた。  では、このような残虐無比な犯行を行った少年はどのように育ったのか。彼をモンスターに変貌させてしまった家庭とは——。【後編】では、少年の生い立ちと、“その後”の姿について詳述する。 デイリー新潮編集部

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