連休後の子への対応<後編> 落ち着きにくい子への対応はどうする? 見通しを持てると子どもは安心する

連休明けの今、子どもたちは新学期の疲れが出て、本人も保護者も難しさを感じる時期かもしれません。特に言葉の理解が苦手な子どもや、授業中立ち歩きするような子どもにはどう対応したらいいのか? 子どもの行動の根底にある理由に目をむける「ポジティブ行動支援」という方法に詳しい畿央大学の大久保賢一教授(専門:特別支援教育、応用行動分析学)に聞きました。 ■「すべての子どもの行動には理由がある」 発達特性のある子にはより細かい対応を ポジティブ行動支援は、子どもに障害があるかどうか、どんな種類や程度の障害があるかによって方法が変わるものではありません。大切なのは、子どもがある行動をする理由について仮説を立て、それを明らかにしていくプロセスです。このアプローチはすべての子どもの行動の課題に対して有効ですが、発達障害やその特性がある子どもに対しては、より細かく個別の対応が必要になることが多いようです。 一般的な例をいくつか挙げると、言葉の理解や見通しを持つことが苦手な子どもには、活動の流れを、絵や写真など目に見える形で示すことが効果的です。こうした視覚的なサポートで、子どもは安心感を得て、不安やパニックを減らせることが多くあります。 また、自分の気持ちや考えを表現することが難しい子どもには、困った時の適切な助けの求め方を事前に教えておくことが重要です。例えば、「助けてください」や「手伝ってください」を意味する文字やイラストがかかれたカードを用意し、必要な時に先生や親御さんに渡す練習をしておくといった工夫が考えられます。 このような明確な伝え方を身につけることで、パニックになることが大幅に減るケースがよくみられます。落ち着きがなく、集中し続けることが難しい子どもの場合は、短い間隔でのフィードバックと、達成しやすい小さな目標設定が効果的です。 例えば、一度にたくさんの問題が書かれたプリントよりも、1枚に1、2問だけの課題を用意し、それができるごとに「プリント終わったね!」「頑張ったね!」と褒めることで、やる気を保ちながら学習を進めやすくなります。こうした小さな成功体験を積み重ねることで、結果的にたくさんの課題に取り組めるようになっていきます。 このアプローチのポイントは、「指示→取り組み→達成感」というサイクルを、短い時間の中でできるだけ多く繰り返すところにあります。子どもが自分の行動と成功体験をはっきりと結びつけることで、「自分にもできる」という感覚が育まれ、長続きする行動の変化につながります。 このように、その子どもの特性を理解した上で、子どもにとってわかりやすい明確な枠組みとポジティブな評価を提供することが、学習や適応を促す上で非常に大切な役割を果たします。 ■お手伝いも小さな段階にわけて 発達特性のある・なしにかかわらず、家庭でのお手伝いや作業を子どもに教える際には、大きな作業を小さく分けることがとても効果的です。この方法によって、子どもは複雑な作業も少しずつ無理なく身につけることができます。 例えば、お風呂掃除でみると次のように5つの段階に分けられるかもしれません。 1.洗剤をふりかける 2.壁を洗う 3.浴槽を洗う 4.蛇口などの備品を洗う 5.最後に水で流す 親御さんにとっては最初は少し手間がかかりますが、子どもの自立を育てる点では長い目で見ると効率的なので、次のようなやり方があります。 例えば、最初は親御さんが5つのステップのうち1〜4までを行い、子どもには最後の「5.水で流す」だけをお願いします。終わったら「ありがとう。あなたのおかげでお風呂がきれいになったね」などと具体的に感謝の気持ちを伝えます。これを繰り返し、子どもがその作業に慣れてきたら、今度は4と5を任せるというように、少しずつ任せる範囲を広げていきます。このように段階的に進めることで、最終的には子どもが全工程を自分でできるようになります。 同じ考え方はおもちゃの片付けなどにも使えます。はじめは親御さんが大部分を片付け、子どもには最後の仕上げだけをやってもらいます。片付けが終わったら、「お部屋がきれいになったね」と一緒に喜びましょう。この過程を通じて、子どもは徐々に片付けの習慣を身につけ、やがてはより多くのものを自分から片付けられるようになります。 このように少しずつ任せる範囲を広げていく方法は、子どもの「自分にもできる」という感覚を育てながら、実際の生活スキルを無理なく身につけさせる効果的な方法です。各段階での成功体験と前向きな評価が、子どもの自立心と責任感を育てていきます。 ■子どもが授業中に何度も立ち歩きする場合はどうする? 一見「問題行動」に見えるようなものも含め、すべての行動には、それをする(またはそれをしない)理由があり、その行動はその子どもが自分のニーズを表現する手段なのだ…という考え方にたつと、授業中の立ち歩きも、まずはその行動の理由を考えることが大切です。授業内容が難しい、集中し続けるのが難しい、先生に注目してほしい、あるいは教室の特定の刺激(音や光など)に敏感に反応してしまっている、など様々な要因が考えられます。 課題の量や難しさがその子にとって過剰であるというのは、よくある理由の1つです。通常学級では対応が難しい面もありますが、環境を整える観点からは、できる範囲でその子に合った内容や量に調整することが大切です。例えば、課題を小分けにする、イラストなどの視覚的な補助を使う、短い休憩を取り入れるなどの工夫も考えられます。 次に、教室を離れる必要がある場合の適切な方法を決めておくことが効果的です。例えば、「保健室に行きたいです」というカードを用意する、あるいは周りの子に気づかれないよう、先生との間で「消しゴムを立てる」などの合図を決めておくことで、つらい時に適切に伝える手段を子どもに提供します。こうした約束事を作ることで、子どもはつらい状況から一時的に離れてもよいと理解でき、安心感を得られます。先生や親御さんは、子どもが約束を守って適切に合図できたことを「約束が守れてよかったね」と認めることで、適切なコミュニケーション方法を強化します。 ■学習も段階的に分けて、少しずつできる実感を 同時に、学習も段階的に進めることが効果的です。最初はほんの短い時間でも席に座って学習できたことを褒め、少しずつその時間を延ばしていきます。具体的な目標設定やタイマーなどを使うことも、子どもが時間の見通しを持つ助けになるかもしれません。 教室内の席の位置も考慮すべき点です。刺激が少ない窓際や壁側、または先生の近くに席を設けることで、集中しやすい環境を作れる場合があります。また、クッションや手で触れるグッズなど、落ち着いて座っていられるための道具の導入も検討する価値があります。 このようなポジティブ行動支援のアプローチを続けることで、子どもは安心感を持ちながら学習環境に慣れていくことができます。その結果、徐々に「少し大変でも課題に取り組み続けられる」といった変化がみられるようになります。最終的には、子ども自身が自分の状態を調整する力を身につけ、適切な方法で自分のニーズを表現できるようになれればいいですね。 ■見通しが持てると子どもは安心する 子どもに活動の見通しを示すことの大切さについて、私がよく先生方や親御さんにお伝えするのは、基本的な「5W1H」の考え方を使うことです。 これは何かをする場合に、—いつ(When)、どこで(Where)、誰と(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)、どれだけ(How many)するのか—を子どもに伝え、活動の全体像がわかるようにする方法です。 子どもが特定の場面で不安定になったり、強い抵抗を示したりする場合、その背景には「何が起きるのかわからない」という見通しの不足があることが多いです。そんな時は、事前に活動の内容をきちんと説明し、わかりやすい情報を提供することで、子どもの不安を減らし、安心感を育むことができます。 また、予定全体を示し「今はここまで進んでいるよ」と今の位置を視覚的に伝えることも有効です。こうした進み具合の見える化によって、子どもは自分が今どの段階にいるかを理解し、「もうひとがんばり」がききやすくなります。 この「見通しを示す」という方法は、発達特性の有無にかかわらず、多くの子どもたちに役立ちますが、特に見通しが持てないと不安を感じたり、不安定になりやすい子どもには大きな効果が期待できます。

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