中国の次なる暴走の “予兆” なのかーー。 ゴールデンウィーク最中の5月3日、尖閣諸島周辺の日本領海に中国海警局の船4隻が侵入。さらに、ヘリコプター1機が12時21分頃から約15分間、日本領空を飛行。これに対して防衛省は、航空自衛隊のF15戦闘機2機を緊急発進(スクランブル)させて対応したと発表した。 「中国機による領空侵犯はこれまで尖閣諸島周辺で起きていますが、海警局のヘリによる領空侵犯は初めてです。外務省は、同日中に中国の駐日大使に厳重抗議し、再発防止を求めました。 その一方、中国外務省は翌4日、『日本の右翼分子が操縦する民間機が釣魚島(尖閣諸島)の領空に侵入したため、警告、駆逐した』との談話を発表。日本に対して『情報を複雑化させる挑発行為をやめるべきだ』と “反論” してきたのです。 もちろん、尖閣諸島は日本固有の領土ですから、民間機の飛行を警告という、中国側の主張にはまったく正当性がありません」(外交担当記者) 日本の主権が及ぶ「領海」に隣接して「接続海域」があるが、中国海警局や海軍の船は、尖閣周辺の接続水域にほぼ毎日侵入している。そこから領海まで侵犯するケースは、2021年11月以降、10回を超えている。中国機による領空侵犯は、2024年8月に次いで4度めだ。 「今回の領空侵犯は、中国が “サラミ・スライス戦術” に踏み出した証し」 こう警告するのは、麗澤大学特別教授で元空将の織田邦男氏だ。 「サラミ・スライス戦術とは、サラミを少しずつスライスするように、軍事行動を徐々にエスカレートさせて現状変更をもたらすやり方です。今回、はじめてヘリによる領空侵犯がおこなわれたのも、この戦術の一環です。 尖閣諸島の上空を日本の民間機が飛んだとしても、ヘリを飛ばす必要はありませんでした。無線による警告なら船から実施できるからです。ヘリを飛ばしたところで速度が遅いため民間機に対する対処行動はとれません。つまり、目的はヘリを飛ばすこと自体にあったといえます。そして、日本の反応を見ながら、今後、徐々に行動をエスカレートさせていくのです」(以下、「」内は織田氏) 暴走がエスカレートすれば、次は何が起こるのか。 「しばらくは今回のようにヘリによる領空侵犯を頻繁にやることが予想されます。今回は日本の民間機の飛行を言い訳にしていますが、今後は『警戒行動』という名目で領空侵犯を常態化するかもしれません。そして既成事実を積み上げ、いずれは戦闘機を領空侵犯させるわけです。 戦闘機を飛ばすと、日本の航空自衛隊の戦闘機と遭遇してしまう危険があるため、これまでは慎重を期してきました。しかし、今回、明確に次の一歩を踏み出したといえます」 中国の目的は、尖閣諸島の実効支配だ。 「中国機が尖閣周辺の日本領空の飛行を常態化させれば、中国が実効支配をしていることになり、尖閣は『日本の施政下にない』ということを意味します。 その場合、日本がアメリカと結んでいる日米安保条約第5条(日本の施政下にある領域に対する武力攻撃が対象)の適用対象でなくなり、アメリカがそっぽを向く可能性があります」 習近平氏は、2027年、中国共産党総書記として4期めに入る。このときまでに台湾併合の可能性が高いとされており、同時に尖閣や沖縄本島も攻撃対象となり得る。では、その “Xデー” までに日本は何ができるのか。織田氏が、実現可能なアイデアを披瀝する。 「尖閣諸島の久場島と大正島は日米地位協定に記載されているように、今もなお米軍専用の射爆撃場です。1969年以降、訓練はおこなわれていませんが、これを復活させるのです。この際、日米共用射爆撃場に改定し、日米で共同訓練を実施すれば、日本の施政下にあることがより明確になり、中国も手出しができなくなります。日米合同委員会でこれを協議するだけでも、中国の暴走に対して大きな抑止効果があるはずです。中国を敵対視するトランプ政権なら、この案に乗ってくる可能性は高いと思います。遺憾砲だけではサラミスライス戦略にやられる一方で、こちらも一歩踏み出すことが必要なのです」 9日時点で、石破茂首相が中国に抗議したという情報は伝わってこない。 「石破さんは、首相就任前、日本による実効支配を示すために尖閣へ陸上自衛隊を常駐させるよう、提案しています。しかし、首相になってからは言わなくなってしまいました。 現実問題として、今すぐ尖閣へ自衛隊を常駐させるのは難しい。結局、石破さんは自民党内“野党” として、政敵の政策を批判しただけなのでしょう。 それでも、久場島と大正島の日米合同射撃訓練案なら、石破さんも飲むかもしれません」 したたかな中国に日本は対抗できるのか——。