いま業界全体で「逆風」に直面する牛乳。三重県の給食でおなじみ、「大内山牛乳」も例外ではありません。食文化とも言える「ご当地牛乳」を応援しようと地元の人も動き始めています。 【写真を見る】生き残りをかける“ご当地牛乳” 三重県「大内山牛乳」の挑戦 コスト増でも値上げ困難 “慣れ親しんだいつもの味”を守るため…地元住民も動き出す 北海道から沖縄まで全国各地で生産されている“ご当地牛乳”。 メーカーや牧場ごとに味わいも違い、飲み比べも楽しめますが、ことし3月、この地方の有名ブランドが姿を消すことに。 (飛騨酪農農業協同組合 岩長明宏 組合長) 「飛騨牛乳をご愛用いただき、ありがとうございました。弊社の事情でブランドが姿を消すことは、痛恨の極みで申し訳ない」 岐阜県の飛騨地方で、長年親しまれてきた「飛騨牛乳」。新工場建設で多額の負債を抱えたほか、酪農家の減少などに直面し、生産終了を余儀なくされました。 思い出のつまった“飛騨牛乳”とのお別れ…「寂しい」 (客) 「本当に寂しいです。最後の飛騨牛乳をかみしめて楽しもうと思う」 「お別れができたらいいなと思い来ました」 生産終了の前夜、高山市内のバーでは、飛騨牛乳をふんだんに使った特別メニューが提供され、集まった人たちが思い出に浸りながら、別れを惜しみました。 なかには、飛騨牛乳をビールで割って楽しむ人も…。 (客)「うまいです!変わった感じですけど、いけます」 給食をはじめ、日頃から慣れ親しんだ「ご当地牛乳」は、地元の人たちにとって食文化であり、生活の一部でもあります。 戦後、給食で牛乳の提供が始まると、牧場は各地に増え「ご当地牛乳」は、全国に2000種類あるとされますが、飛騨牛乳に限らず業界全体が、いま“逆風”にさらされています。 地元で愛される“大内山牛乳”にも悩みの種 三重県津市のこちらのスーパーに売られているのは、学校給食の7割で提供されている「大内山牛乳」。関連商品は、なんと牛乳売り場の約4分の1を占めていて、1リットルのパックは1本300円超えと、少々値が張っても、買い物に来たみなさんは、次々とかごの中に。 (買い物客) 「味が濃い。学校給食はみんな大内山牛乳だったから、昔からこればっかり(選んでいる)」 「地産地消にいいかなと思って、大内山牛乳を好んで飲んでいる」 大内山牛乳は、年間50億円の売上を誇りますが、悩みの種は生乳を納品する、酪農家が減っていることです。 三重県を代表する「ご当地牛乳」は、人口約6800人。県内で2番目に高齢化率が高い、大紀町で生産されています。 77年前に生産が始まった「大内山牛乳」は毎朝、三重県内から届く絞りたての生乳をすぐに製品化していて、コクがありながらも、飲みやすい味わいが特徴。1リットルの紙パックは、1日約5万本が生産されています。 酪農家の減少やエサ代の高騰化など…厳しい現実 (大内山酪農農業協同組合 村田憲一さん) 「大内山酪農の牛乳は皆さまに安心して飲んでいただけるように、徹底した衛生管理のもと製造している」 飼育技術の向上もあって、生産量は維持できていますが、実は、組合加盟の酪農家は12軒と、30年で6分の1以下に…。 さらに、輸入に頼る牛のエサ代は、物価高と円安の影響でこの6年で1.4倍に跳ね上がり、経営の厳しさは増しています。 (大内山酪農農業協同組合 村田憲一さん)「農家の高齢化もありますし、乳牛を育てるのは365日休むことができないので、なり手がいない」 一方、牛乳は日持ちせず、小売店が在庫を抱えたがらないほか、学校給食にも使われることから、値上げが難しいのが現実。そこで、ブランドを守ろうと力を入れているのが「消費の拡大」です。 新たな「消費拡大」向けた戦略 地元の人も… コロナ禍では一時、学校給食が休止されましたが、大内山牛乳は、宅配スーパーに販路を広げるなどして逆に売り上げを伸ばしたほか、去年はインフルエンサーとタッグを組み、YouTubeで番組を展開するなど新たなファン獲得も狙っています。 (大内山酪農農業協同組合 村田憲一さん)「僕自身も子どものころからずっと飲んでいる牛乳なので、これから先100年守っていきたい」 消費の拡大で、ブランドを守りたいという思いは地元の人にも…。 「大内山牛乳」の工場の近くにある喫茶店「Cafe Tora8」は、シュークリームやクレープなど「大内山牛乳」をふんだんに使ったスイーツが看板メニューです。 (中道陸平記者)「大内山牛乳とバターを使ったクレープ、いただきます。口の中にバターの濃厚な香りが広がります。ミルク感もたっぷりで甘くておいしいです」 店主の薗部眞理子さん。もともと夫と2人で製菓店を営んでいましたが、町内の子どもが減りケーキなどの注文も減ったことで、20年ほど前に店を畳んでいました。 慣れ親しんだ「当たり前」の味を守り、“地元”も守る しかし、3年前、喫茶店の開店に突き動かしたのが、自身も飲み続けている大内山牛乳の存在でした。 (Cafe Tora8 薗部眞理子さん)「おいしい大内山牛乳のブランドがあるので、牛乳を使った食べ物を出させてもらえたらと思って、店を出した」 過疎と少子化で、店を閉めた経験を持つ薗部さん。「大内山牛乳」を生産する組合で働く約100人ほぼ全員が地元の人で、ブランドの維持は、若者の流出防止にもつながると感じています。 (Cafe Tora8 薗部眞理子さん)「若い男の子が『酪農組合の面接に来ました』と言っていた。地元に残って住まないとだめという人たちに対して、酪農組合があることはうれしいことですよね」 慣れ親しんだ「当たり前」の味を守ることが、地元の“食文化”、そして“雇用の場”を守ることに…。ご当地牛乳の存在が、改めて見直されています。