「スマホを見ながら」「車道を逆走」…「自転車の危険運転」取り締まり強化で警察のプロパガンダに一斉に乗ったメディアの罪

自転車も反則金対象に  4月24日から25日にかけて、新聞、テレビなどほぼすべての主要メディアで、警察庁が自転車の交通違反の取り締まりを強化するというニュースが報じられた。この話題をテレビのニュースでご覧になった方も多いことだろう。 【この記事の画像を見る】「えっ?! むしろ事故は減ってるんじゃないの…」 警察庁が発表した「自転車関係の事故件数グラフ」  ニュース番組で報じた内容はおおむねどの番組でも以下のようなものである。 ・来年4月1日から自転車の交通違反にも自動車やバイクと同様に反則金を科す方針を警察庁が決めた。 ・スマホを見ながらの「ながら運転」は1万2000円、信号無視は6000円、逆走・歩道通行は6000円、一時不停止は5000円などなどの案が出ている ・背景には自転車の危険な運転が減らないという事情がある ・街の声を聞くと「自転車は危ないから賛成」から「厳し過ぎる」までさまざまだが、安全を求める点は共通している  ここに実際の危険な運転をする自転車の映像を挟む、あるいは事故件数のグラフなどのデータを紹介する、という形式で、まるで何かのフォーマットがあるかのように各局で伝えられていたのである。新聞記事も同様の内容と言っていい。 4月24日から25日にかけて、主要メディアで、警察庁が自転車の交通違反の取り締まりを強化するというニュースが報じられた (※写真と記事本文は直接関係ありません)  交通安全が大切だということに異を唱える者はいない。また危険な運転が減ることが望ましいのも言うまでもない。  しかしこれらの方針は「決定」ではなく、警察庁はこの方針をもとにパブリックコメントを実施した上で、政令を定めるという段階であることは、それらの報道を見た多くの視聴者には伝わっていないだろう。これはパブリックコメントという制度そのものが形骸化していることを示している。そもそも、国民の自由を制限するときには国会の承認が必要なのではないかという問題意識もない。報道するメディアの側が警察庁のプロパガンダに無警戒に協力している事実を示しているともいえそうだ。 これらの方針は「決定」ではなく、警察庁はこの方針をもとにパブリックコメントを実施した上で、政令を定めるという段階であることは、報道を見た多くの視聴者には伝わっていないだろう 警察のプロパガンダを垂れ流しに  報道記者で『プロパガンダの見抜き方』の著者、烏賀陽弘道氏は各社の報道を次のように批判する。 「警察庁の広報発表をただそのまま記者クラブが垂れ流している典型です。つまり警察のプロパガンダを何のクエスチョニング・マインド(問いかけ)も無いまま伝えている。そこに疑問を持つ記者がいないことが、毎度のこととはいえ、大問題でしょう。 日々見聞きするニュース、SNS経由の“真実”、皆に愛される「ゆるキャラ」、評判の映画、国家的規模のイベント……発信されるあらゆる情報の裏にある意図と目的を見抜けないと、知らないうちに思考や行動は誘導されていく。それがプロパガンダ3.5時代の現実だ。常に情報戦の最中にいる私たちは何を知っていればいいのか。古今の成功例、巧みな手口、定石などを示しながら、具体的な「見抜き方」を伝授する。 『プロパガンダの見抜き方』  ここで警察側の用いているテクニックの一つが『恐怖アピール』です。こんなに危ないことが起きている、放っておくともっと危ないことになる、だから何とかしなければならない……というアピールですね。古今東西、あらゆるプロパガンダに用いられてきたテクニックです。『われわれの教えに従わなければ地獄に落ちる』は宗教が用いる恐怖アピール、『これこれをしない(やめない)と病気になる』は医療・製薬業界が用いる恐怖アピールです。  人々に恐怖を与えた上で、それを克服するための具体的な勧告を提言する、さらにその行動が脅威を低減するのに効果的だと思わせる。そんな段取りで大衆を説得します。ヒトラーも『共産主義の脅威』に対してこの手法を上手に活用したわけです」  今回の件での最大の問題は、メディアがこれを無批判に伝えている点だ、と烏賀陽氏は言う。例えばこの件をNHKは次のように伝えている。 「警察庁によりますと、去年、自転車関連する事故は6万7531件で、前の年より4808件減りましたが、依然として高い水準が続いています」  公開されているデータを見ると、「自転車関連の事故件数」は2020年まで減少傾向で、その後はほぼ横ばいである。何をもって「高い水準」としているのかは示されていない。 「多くの人が、乱暴な自転車の運転に危ないと思った経験はあるでしょう。だからそういう運転は問題だ、と言われれば誰も逆らわない。危険をアピールした上で、反則金を科すのが有効だと言われると、そんなもんかな、と思う。  でもちょっと冷静に考えてみれば、いろいろと疑問が湧くはずです。自転車の事故件数は本当に増えているのか。どうもこの数年は横ばいにしか見えない。  仮に増えているとして、それは危険な運転が原因なのか。それらを取り締まるにあたって反則金を科すことが有効なのか。さらに反則金の対象としている行為の選定は適切なのか。  たとえば歩道を走行することをまるで悪いことのように発表して、そのまま流していますが、どう考えてもケースバイケースでしょう。自転車専用レーンが整備されていない所がほとんどなのに、なるべく車道を走行しろというのは普通に考えたら危険度が増すだけです。  また、今回、スマホを見ながらの運転を取り締まるとして、多くのメディアがスマホ片手の運転の映像を流して、『ね、危ないでしょう』と警察と一緒になって恐怖アピールをしています。しかしこれもスマホをナビとして使っている人が多くいるのに、あまりに雑な区分ではないでしょうか。  もちろん、危険な運転を減らそうということに異論はありません。しかし、警察の権限を強めるという方向について、本来、メディアの側は『ほんまかいな』という視点を持たなければならないのに、そういう意識が一切見られない。ここが大問題です。  今回の改正がこのまま行われれば、どんなに交通量が少ないところでも、警察が取り締まろうとすれば取り締まりが可能になる。スマホを使用しながら配達その他をしている人たちにも多大な影響を与えかねない」(同)  今回の件を受け、烏賀陽氏は次のようにアドバイスをしている。 「私が新聞社に入った1986年ごろには上司らから『企業や役所の宣伝に紙面を使うな』という教育が新人たちになされていました。つまり彼らのプロパガンダに紙面を使われないように、ということです。今回の例で言えば、自転車の交通違反取り締まり強化の報道は完全に警察のプロパガンダにそのまま紙面や放送時間を提供しているのです。  残念ながらいわゆるオールドメディアであろうが、ネットメディアであろうが、プロパガンダの意図まで見抜いた上での報道は減っているように感じます。それゆえに受け手には常に『ほんまかいな』と思う思考——私はマユツバ思考と呼んでいます——が求められるのです。そうしないといつの間にか、思考や行動を操られかねないと思った方がいいでしょう」 デイリー新潮編集部

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