トランプ政権の発足から、はや3カ月。 日米同盟に「不公平」と不満漏らすトランプ。 アメリカに「従属」続ける日本が、「代償」として支払うものとは……。 『従属の代償 日米軍事一体化の真実』の著者であるジャーナリスト・布施祐仁氏と、『永続敗戦論 戦後日本の核心』の著者である政治学者・白井聡氏が、「トランプ2.0」下のアメリカ、そして日本のこれからについて語ります。 【対談】トランプ政権と対米従属 #8 ※本記事は、2025年1月31日にジュンク堂書店池袋本店様にて開催されましたトークイベント「「日本は対米従属から脱却できるのか?!—トランプ米大統領就任から考える『日本のこれから』」の一部を抜粋・編集したものです。 日本が見習うべき「ASEAN」の戦略 白井トランプ政権は、これまで聞いたこともないような人たちをたくさん閣僚に任命しました。それでリベラルな人たちは「こんな連中はとんでもない」と騒いでいるわけですけれども、その任命の基準がね、面白いんですよ。 基準がなんと「忠誠心」だそうです。専門性とかは割にどうでもよくて、トランプへの絶対的な忠誠。要するに、前の政権でトランプは失敗しているんですよね。政治経験の浅さが響いた形で。人脈もないから、自分の言うことを聞いてくれて、なおかつ仕事ができる人間を登用することができなかった。それで次々に人をクビにするという泥沼の展開になってしまっていたわけですけれども、今回はその反省を受けて、入念な人事を行なっているわけです。 基準が忠誠心というと、まるで日本の戦国時代みたいですよね。お屋形様への絶対的忠誠。忠誠心が高いやつでないと、謀反を起こしたり寝首をかいたり、そういったことがあるから、あの時代は忠誠心というのが大事だったわけですよね。だからそう考えると、やはりプリミティブな状況に世界が戻りつつあるのかなという感じがする。 布施ただヤクザの縄張り争いみたいに、大国が力で世界を分割する19世紀的世界に逆戻りするかというと、そうはならないのではないかと思っています。なぜなら、大国間の縄張り争いを許さない中小国の動きが一方では強まっているからです。たとえばアジアではASEANがそれをやっているし、かつて「アメリカの裏庭」と呼ばれていた中南米でもそういった動きがある。 米中対立が激化して戦争になってしまったら、巻き込まれるのは自分たちだという強い危機感が、ASEANにはある。だから、ASEAN諸国は、一つ一つの国の力は小さいけれども、グループになって、アメリカと中国の対立関係を解消しようという外交をやっているわけですよ。大国が支配する世界を変えようという中小国による動きは、1955年のバンドン会議やそこから生まれた非同盟運動など、昔からありました。でもはっきり言えば、中小国は大国の植民地支配から抜け出して独立を勝ち取るまではできても、大国が主導する国際秩序を根本的に変えるだけの力はありませんでした。 戦後直後で言えば、アメリカだけで世界のGDPの4割以上を占めていた。G7も1980年代は世界のGDPの7割近くを占めていた。それが今、まったく変わっていて、G7が占める割合は4割ほどまで落ちている。かわってどんどん上がってきているのは、BRICSやグローバルサウスの国々です。世界の力関係が大きく変わってきており、19世紀以前のように大国が好き放題できる世界ではなくなっています。 白井まったくそのとおりだと思います。 布施今の世界の変化を見れば、日本にもアメリカにべったりとついていく以外の選択肢があるはずです。ASEANのように、アメリカと中国のあいだでバランスをとって、2つの大国が好き勝手できないような流れを作っていくというのが、日本にとって一番合理的な道だと思います。 白井軍事専門家としての布施さんにお聞きしたいんですけど、アメリカの優勢というのが依然として、太平洋からインド洋にかけての秩序、要するにアメリカの「シマ」を支えているわけですよね、ヤクザふうに言うならば。そこへ「中華組」がだんだんとのしてきて、「いつまでもアメリカのシマだと思ってんじゃねえ」と挑戦してきた。日本はアメリカの舎弟ですから、「けしからん」というアメリカについていって、「そうだそうだ、けしからん」と言っている。実質的にはこれは「シーレーン」の問題ですよね。 シーレーンをアメリカに握ってもらっている方が日本にとっては安心で、この主人が中国に入れ替わるようなことになっては、日本にとって大変危険なことになる、そういうことでもなければ、究極的には日米同盟を支持し続ける理由はないはずなんですよね。どうなんでしょう、シーレーンの主人が入れ替わることによって、何か悪いことというのはあるんでしょうか。 布施シーレーンというのは、海の上に何か道があって、それを誰かが排他的に所有・管理するというようなものではありません。シーレーンは、誰のものでもなく、みんなで利用する国際公共財です。実際、平時においては、同じシーレーンをアメリカも中国も日本も他の国々も問題なく利用しています。 そもそも、西太平洋からインド洋にかけての広大な海域を排他的にコントロールすることなんて、アメリカにも中国にもできません。それをあたかも、中国がこの海を支配するようになったら日本には原油も食料も入ってこなくなるかのように言うのは、中国に軍事的に対抗していくことを正当化するための作られたナラティブだと思います。 白井シーレーンみたいな概念って、すごく曖昧ですよね。曖昧なんだけど、イデオロギーとしてはすごい力を持ってしまっている。 布施「台湾有事は日本有事」とよく言われるのも、台湾の近くに日本のシーレーンが通っているので、台湾で有事が起きたら日本にとっても死活的な影響があることを理由にしています。しかし、台湾をめぐる戦争で、なぜ中国が日本の民間商船まで攻撃するのでしょうか。 日本がアメリカと一緒になって台湾有事に介入すれば、そういうことも起こり得るでしょうが、介入しなければ中国が日本の民間商船まで攻撃する理由はありません。台湾に近い海域が戦域になった場合、民間商船は航行できなくなりますが、その場合もルートを少し変更すれば済む話です。もちろん、輸送コストは多少上がります。でも、シーレーンを守るという目的のために台湾有事に介入して中国と戦争するというのは、あまりにも割に合わない話です。 密室で行われた「トラウマ級」の恫喝 布施日本の貿易相手国は、かつてはアメリカがその大部分を占めていた。けれども今はもう、中国が20%で、アメリカは15%。どちらかを選べないんですよ。両方とちゃんと友好的な関係を作らなければいけない。 ASEANの国々も、アメリカか中国かなんて選べないんだと、だから両方とも付き合って、間違っても両者が戦争しないように、自分たちは仲介外交をやって緊張緩和と信頼醸成を進めていくと言っているわけです。日本も、この道が一番合理的だと思いますね。 先ほど、国体が天皇からアメリカに入れ替わっただけで、日本国民はまだまだその政治的主体性の発揚が阻害されているという話がありましたよね。でも、戦後の日本の政治を振り返ると、やはり対米従属だけではダメだろうと主体的な動きが出てきたことが何度かありました。 その一例が、私の『従属の代償』の最終章で紹介している石橋湛山や田中角栄の動きです。最近でいうと、2009年に発足し、東アジア共同体構想を掲げた鳩山政権の動きです。日本にこうした動きが出てくると、その度にアメリカは潰していきました。1990年代最後のアジア通貨危機のときに日本がイニシアチブを発揮してアジア通貨基金みたいなものをつくろうとしたけれども、これもアメリカが潰した。 こんなエピソードがあります。日米地位協定の話なんですが、端的に言ってこれは不平等じゃないですか。日本の主権というものがない。でも、日本政府の関係者がアメリカ政府の関係者に日米地位協定の改定について話題にすると、本当に「怒鳴りつけられる」らしいんですよ。 日本政府の中には、こうした「トラウマ体験」の積み重ねが集団的記憶として蓄積しているのではないか。自民党の政治家や官僚の中に、結局「アメリカにたてつくとロクなことにならない」という意識が深く染み着いてしまっているのだと思います。 でも、なぜそうなるかと言えば、すべて「密室」でやっているからですよね。オープンにして、国民がその実態を知ったら、絶対に「ふざけんな」と思うじゃないですか。 白井まず正論から言いますと、怒鳴られたら怒鳴り返すべきです。そして、怒鳴られたんだったらね、日本の政治家は「こういう侮辱を受けた」ということを堂々と国民に言えばいいんですよ。それで一番困るのは誰かと言えば、アメリカですからね。 布施結局、白井さんがまさに『国体論』(集英社新書、2018年)でお書きになられていることでもありますけれども、支配する側が不可視化されている。戦前の天皇についても、実際は絶対的な権力者であったのに、まるで「一家の主(父親)」であるかのように描いて、支配・被支配の関係を見えなくしていました。 戦後、日本国民は戦前の天皇に対する見方を、そのままアメリカにも当てはめているようなところがある。アメリカは必ず日本を守ってくれる、日本人を悪いようにはしない、と。でもアメリカはけっして日本を守ってくれる「お父さん」ではない。 白井そうそう。 布施アメリカは、日本のために日本と同盟関係を結び、日本に米軍を駐留させているわけではありません。徹頭徹尾、アメリカの国益を追求するためです。日米同盟はそのための手段でしかない。そういう、支配・被支配の関係を可視化していかないと、やっぱり変わらないだろうと思いますね。 白井結局、アメリカにとって日本は何なのか。簡単なことですよね。日本は属国であり、保護領である。そこには核心的な本質として、支配関係というものがある。 非常に率直に言うと、日本のアメリカ研究者に対して、もちろん安全保障の問題を研究している人はその典型ですけれども、それだけではなく、アメリカの政治や社会的な事象を研究している人まで含めて、私は極めて批判的です。 なぜなら彼らは、まさにその可視化を妨げているからです。彼らは、アメリカの本質は帝国主義であるということをまったく見ようとしない。それどころか、いかにそのことをごまかすかということに血道をあげていますよ。そうした人たちは大体政治的には民主党支持者なんだけれど、民主党が正しいと言っていることこそ正しくて進歩的なんだと鵜呑みにして、それを日本で宣伝することで飯を食っているような人がいっぱいいて、私はうんざりしているんです。 民主党も共和党も別にそんなに大きくは変わりませんよと。どちらも帝国主義であって、世界中に爆弾を落として回るんですよと。共和党はね、黙って爆弾を落とすんですよ。それに対して、民主党はいろいろと説教をしながら——民主主義は大事だとか、人権は大事だとか——いろいろな理屈を言いながら、爆弾を落とす。その違いがあるだけだと私が言うと、大概、アメリカ専門家たちは絶句し、そして私を睨みつけます笑 「死ぬ気」で自立取り戻す覚悟 布施「今の現状が正しく報道されれば、日米関係の健全化に向いた世論を作れると思いますか」という質問が来ていますが、どうでしょうか? 白井報道の問題は大きいですよ。先ほど私は、日本の有識者を罵倒しましたけれども、そこには当然、マスコミ関係者も含まれているわけです。アメリカについてどのような語りが日本で行われるのか、結局は彼らが人事面で仕切っているようなものですから。その彼らの見識がしょうもないものでしかないから、大事なことが伝わらない。 ただ一つ希望かなと思うのは、私は大学でずっと教えているわけですけれども、対米従属の問題について教えるときの学生の反応が、ここ数年で少し変わってきたかなという実感があること。われわれのことを属国であり保護領であるとアメリカは見ているし、さらにはアメリカ人でも日本人でもない「第三者」もそう見ていると。日本人だけがそう思ってないんだと。それは大変異常なことであり、とっても恥ずかしいことですと。そういったことをずっと言い続けてきましたけれども、最近は割りとすぐストンと腑に落ちる子が増えてきた気がします。 布施そういう意味では、不可視化されてきたものが見えるようになってきたということなのかもしれません。もっと可視化させていくことが必要ですね。 メディアについて言うと、アメリカは「飴と鞭」で日本を支配し、対米従属を維持してきました。飴は、たとえば天皇制を壊さなかったこと、経済的な恩恵を与えたこと。鞭としては、先ほど恫喝の話がありましたが、マスコミに対する恫喝も含まれている。その内の一つが、朝鮮戦争中の新聞社・テレビ局に対するレッドパージです。 レッドパージといっても共産党員だけをパージしたのではありません。アメリカが日本を「反共の防壁」と位置付け、アジアでの戦争の拠点として利用することに批判的な記者を根こそぎ「アカ」のレッテルを張ってパージ(追放)しました。この時の「トラウマ」が、その後のメディアの日米安保に対する批判的視点の弱さにつながっていると僕は見ています。歴史的にも根深い問題であることを自覚しつつ、克服していかなければならいないと思っています。 白井日本の保守陣営について言うならば、保守なのだから本来、愛国者、ナショナリストとして国の独立に命をかけるはずですよね。 けれども日本の保守陣営の中で、アメリカに殺されたやつなんて、一人もいない。そこですよね。本当に従属から抜け出そうと思ったら、やはり「命懸け」になるんですよ。当然、何人も人が死ぬはず。だけど一人も死んでいないんですよね。つまり、「誰もたたかっていない」ということなんです。何が愛国だ、ふざけるな、と僕は思いますね。 布施死ぬ覚悟でやらなければ、アメリカの巨大な既得権益、しかも彼らにとっては戦争で勝ち取ったわけですから……。 白井「戦利品」をそう簡単に手放すわけがない。 布施でも、そこで政治家が本当に死ぬかを分けるのって、やはり国民がどれだけ政治家についていくかどうかにもよると思うんですよ。鳩山政権がまさにそうですよね。孤立してしまうと簡単に潰されてしまう。だから密室でのやりとりではなく、オープンにして、国民の支持を集めてアメリカと向き合っていくということをしなければ難しいと思いますね。 改めて、白井さんの『永続敗戦論』『国体論』、そして私のこの『従属の代償 日米軍事一体化の真実』、まだお読みでないかたがいらっしゃいましたら、ぜひ、お読みいただければと思います。今日は本当にありがとうございました。 白井ありがとうございました。 米国を「恐怖の底」へ突き落とした中国!米国が日本を「犠牲」にしても守りたいものとは一体…
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