拠点を持たず、世界各地を旅しながらリモートワークで生計を立てる「デジタルノマド」と呼ばれる人々がいます。「バンキシャ!」は、タブレットひとつで旅先で得たインスピレーションをもとに作品を作り続けるイギリス出身のイラストレーターに密着。観光地の発展にもつながるかもしれないという「デジタルノマド」の生態とは——? ◇◇◇ 4月、「バンキシャ!」が訪ねたのは、東京・中央区にある外国人が集うカフェ。実は、全員ある共通点が…。 ——観光客の方ですか? スロバキア人 「観光客ではないです。1か月滞在しますし。私は、デジタルノマドです」 他の外国人も… フランス人(32) 「私はデジタルノマドです」 この日開かれていたのは「デジタルノマド」が集まるイベント。 デジタルノマドとは一体? スロバキア人 「デジタルノマドは、リモートワークで生計を立てている人。拠点を持たずに、年中いろんな国を行き来しています」 「ノマド」とは、遊牧民のこと。パソコンなどで仕事をしながら遊牧民のように世界中を巡る人たち。それが「デジタルノマド」だ。中には、年収1000万円以上の人もいるという。 そんなデジタルノマドが古都・金沢に集結…! 外国人観光客を取り込みたい地元企業の悩みを聞くことになったのだ。世界各地を渡り歩くデジタルノマドから飛び出したのは、厳しい言葉。 「この商品から日本らしさを感じることができません。これでは手に取らないかもしれません」 ◇◇◇ 2024年11月、石川県の金沢駅に現れたのはデジタルノマドのひとり、イギリス出身のモリー・マイネさん(40)。 モリーさん 「こんにちは、はじめまして。よろしくおねがいします!」 「今日は大阪から来ました。その前は四国。 結構長い移動だったけど、楽しかったです」 荷物は小さめのスーツケースとリュックだけ。 ——1年で何か国行きましたか? モリーさん 「この1年ね? 最初に行ったのはマルタ共和国。そのあとはポルトガル、それからタイ。思い出さないと全部言えないです」 パスポートには、訪れた国のスタンプがびっしり! 1つの国に1〜2か月滞在し、 年間10か国ほど渡り歩くという。職業は、イラストレーター。企業のロゴや本の表紙をデザインするなど、年間100件ほど依頼を受けている。 さらに旅先で出会った風景を描き、ウェブサイトで販売もしているという。タブレットがあれば、どこにいても仕事ができる。ふと訪れたカフェでも… モリーさん 「ただのスケッチ。全然きれいじゃないです。旅先で出会った風景や文化からインスピレーションを受けて、作品を描いています」 デジタルノマドとして世界をまわるモリーさん。今回、金沢を訪れたのには大きな目的があった。 外国人のデジタルノマドが招かれた観光庁主導のプロジェクトに参加するのだ。 アメリカ出身 カメラマン 「はじめまして、ガイです。アメリカ出身です」 集まったのは9人のデジタルノマドと地元企業の代表者たち。世界各地の暮らしや文化をよく知る、デジタルノマドならではのアドバイスを外国人観光客の取り込みに生かそうというのだ。 地元の伝統料理を体験するツアーなどを手掛ける会社からは—— 株式会社こはく 山田滋彦代表 「海外の人にもっと来てもらうためには、何をしたらいいですか?」 参加したデジタルノマド 「旅行のPRが得意なインフルエンサーを見つけて発信してもらうといいと思います」 「1日だけでなく、1〜2週間のツアーにしたらどうですか? 日本の食文化に興味はあるけど、1日だけだと行く気にならないかも」 モリーさん 「日本語教室があったら行きたいと思います」 止まらないアイデアに思わず—— 株式会社こはく 山田滋彦代表 「すごいな、みんな。いろんな意見があって」 金沢の滞在期間は2週間。この日は、お菓子の原材料などを取り扱う卸売会社を見学。専務の能崎さんが案内する。 能崎物産 能崎将明専務 「ここは粉類。砂糖とか小麦粉、米の粉。あずき」 モリーさん、気になったものはすぐに写真に収める。そして、ここからが本題。能崎さんが何かを配り始めた。 能崎物産 能崎将明専務 「『ジュプランサ』という、自社ブランドのお菓子」 能崎さんの会社では、サブレやフィナンシェなど自社ブランドの洋菓子も販売。ところが、外国人観光客があまり手に取ってくれないというのだ。 能崎物産 能崎将明専務 「金沢に海外の方が増えてきたので対策をどうするか。(新たな)パッケージデザインを取り入れた方が良いと思っている」 外国人観光客の目を引くパッケージを作りたいという。今のデザインを見て、モリーさんは—— モリーさん 「デザインはステキです。だけど、もう少し『日本っぽさ』があってもいいかもしれません。これを私が見たら、フランスのものだと思うかも。日本に来たら日本のものが欲しいので、手に取らないかもしれません」 一番気になったのはパッケージの表記。ひとめで日本製とわかりにくく、ブランド名はフランス語だ。 ニュージーランド出身 動画クリエーター 「漢字1文字入っているだけでも、『あ!日本のものだ!』と思います」 海外の人に日本らしさ・金沢らしさをわかりやすく表現するには、どうしたらいいか。知恵を出し合うモリーさんたちに能崎さんは—— 能崎物産 能崎将明専務 「皆さんが2週間滞在して感じた金沢のイメージを、新商品に落とし込みたい」 世界をまわるデジタルノマドならではの感性をパッケージデザインに取り込む狙いだ。 モリーさん 「金沢らしさを私なりに取り入れたデザインを提案できると思います」 イラストレーターのモリーさんは、パッケージのデザインを考えて後日、能崎さんに見せることとなった。 インスピレーションを得るため、その国の文化を自分の目で見て回るのが、モリーさんのやり方。この日は伝統的な建物が多く残るひがし茶屋街を散策。モリーさんが興味を持ったのは、“金箔貼り”だ。 モリーさん 「この技術を学んで、自分の作品に生かせたらいいなと思っています」 金箔の生産量日本一を誇る金沢の伝統工芸だ。金沢で体験したこと全てがアイデアにつながっていく。 次の国でデザインを形にするというモリーさん。2週間の滞在期間を終えたこの日、隣にいたのは—— ——あなたは誰? 通販サイトを運営 クリスさん(42) 「誰かって?いい質問ですね。モリーのパートナーです!」 通信販売サイトを運営しているデジタルノマドのクリスさん。モリーさんとは別行動で四国・九州を周り、 金沢で2週間ぶりに合流した。 モリーさん 「東京に行って、そのあとはパリ。ポルトガルに行く予定です」 果たして、どんなデザインになるのか? そして今月、デザインが完成しリモート会議が開かれた。 モリーさん 「私は今ベトナムのホイアンにいます。部屋の外を見てみますか?」 金沢を離れたあとは フランス・ポルトガルなどを経て、今はベトナムに。リモート会議には能崎さんの姿もあった。 モリーさん 「それでは作品について説明します。これが色をつけた作品です」 表現したのは、雨の金沢の街並み。 色とりどりの傘を差した人が行きかい、明かりがともる店先にお菓子が並ぶ。モチーフにしたのはモリーさん自身が歩いた、あの「ひがし茶屋街」だ。 モリーさん 「金沢の古い街並みを表現するため、瓦屋根の建物を描きました」 日本らしさがないと指摘したパッケージ表記。 従来のものと比較すると、大きく『カナザワ』の文字。 『メイドイン カナザワ ジャパン』という表記も。日本のもの・金沢のものであることがわかりやすくなった。このデザインに—— 能崎物産 能崎将明専務 「金沢にいると金沢の良さが見えにくくなってくるので 、(モリーさんに)美しいところを切り取ってもらったなと感じる。新しい視点でものづくりができた」 このデザインを気に入った能崎さんは、正式に商品化することを決めた。 モリーさん 「多くの国を見れば見るほど、様々な考え方があることに気づくことができます。いろんな経験をし続けたい。それがデジタルノマドである理由」 (※5月11日放送『真相報道バンキシャ!』より)