CTで脳の中が手に取るように…「天地がひっくり返った」瞬間から半世紀、日本が技術改良をリード

 コンピューター断層撮影装置(CT)が国内で導入され、今夏で50年を迎える。  「より鮮明に、より患者に優しく」を追求し、技術改良をリードしてきた日本は、人口あたりの設置台数が世界トップのCT大国でもある。今なお装置は進化を続けている。 75年に1例目「脳の中が分かる」  がんの大きさや転移を調べたり、脳の出血部位を確かめたり。医療現場に欠かせないCTは、コンピューター断層撮影を意味する「Computed Tomography」の頭文字をとった略称だ。  CTに内蔵された管から照射されたエックス線は体を通過、向かい側の検出器に入る。装置が回転することで全方位から照射されたエックス線のデータをコンピューターが処理すると、体の断面画像が完成する。  国内1例目となるCT検査は1975年8月、東京女子医大病院(東京)で行われた。英国製の頭部CTで4分半撮影した画像は、大小幾つもの腫瘍や浮腫が写っていた。立ち会った放射線科医の小野由子・同大名誉教授は、「脳の中が手に取るように分かる。天地がひっくり返った瞬間だった」と振り返る。  10月、日本損害保険協会は自賠責保険の運用益約50億円を使って全国37か所の大学病院に英国製CTを寄付することを発表した。5月に英エリザベス女王が初めて来日したのを機に、貿易摩擦解消のために決まったという。 短時間撮影「死のトンネル」抜け出す  当時のCTは患者の負担が大きかった。体幹部の撮影の場合、CTが1周する間は息を止め、体を動かせない。その間最短でも20秒。撮影時間の長さや、画像の鮮明さにより、被曝(ひばく)量が多くなる問題もあった。  国内メーカーにより、革新的な装置が生まれたのは1990年代。らせん状に高速回転する「ヘリカルCT」は、短時間の撮影を可能とした。1回転で広範囲を撮影できる「マルチスライスCT」も続いた。  恩恵の対象も広がった。交通事故などで外傷を負った重症患者にとってCTは、「死のトンネル」とされていた。ER(救急室)から検査室に運び、撮影後に戻るまで20〜30分かかる。治療の遅れが死に直結する患者へのCT検査は禁忌だった。  「患者を動かせないなら、装置が動いてくればいい」。2011年、救急医の中森靖・関西医大総合医療センター教授の発案により、大阪市の総合病院に「ハイブリッドER」が誕生した。可動式CTがER内を移動。隣接する検査室と行き来する施設もある。検査で損傷の部位や程度が詳細に把握でき、迅速で的確な治療につながった。17年、ハイブリッドERの導入で、重症外傷患者の死亡率が3割減ったとする報告が出ると、多くの救命救急センターに広がった。 次世代、続々  今年4月、横浜市で、国内最大規模となる医療画像機器の展示会が開かれた。日本画像医療システム工業会の滝口登志夫会長は「次世代を担う画期的なCTがそろった」とする。  独シーメンス社製の「フォトンカウンティングCT」は、エックス線をより高い感度で計測できる技術を採用し、従来の装置と同等の画質で被曝量を最大45%低減できる。キヤノンメディカルシステムズの「マルチポジションCT」は、立位や座位でも撮影ができる。脊椎すべり症や骨盤臓器脱など立位で症状が出る病気の診断に役立つ。  今や脳や心臓の撮影でも0.2秒台で済む。この50年、CT開発に携わってきた片田和広・藤田医科大名誉教授は、「フォトンカウンティングCTの進化により、さらに正確で被曝量が少ない検査が実現するだろう。これまで見つけられなかった病変を検出できる可能性もある」と予測する。

もっと
Recommendations

女子高校生に“パパ活もみ消してあげる”と性的暴行か 男逮捕

パパ活をしていた女子高校生に「警察署長と知り合いだからもみ消して…

イスラエル軍がガザ南部ハンユニスの病院を空爆 少なくとも16人が死亡

【エルサレム=福島利之】イスラエル軍は13日、パレスチナ自治区…

「触ったことに間違いない」 夜の住宅街で10代女性にわいせつな行為 37歳男を逮捕 室蘭市

北海道・室蘭警察署は2025年5月13日、不同意わいせつの疑いで室蘭市に…

犯人の狙いは「中国株」?──証券口座“乗っ取り”で不正売買、被害は3000億円超 手口と対策は【#みんなのギモン】

証券口座が乗っ取られ、顧客になりすました犯人に勝手に売買される被…

【独自】路上で男性の顔蹴り財布奪った疑いなど ウズベキスタン国籍の男5人逮捕 余罪十数件か 総合格闘技の試合出場経験者も 東京・渋谷区 警視庁

東京・渋谷区の繁華街で男性に暴行を加え、財布やバッグを奪ったなど…

他人名義で賃貸契約を結んだか「打越スペクター」実質的トップ4度目の逮捕

東京・中央区のマンション群、「晴海フラッグ」の一室を借りるために…

【速報】路上で面識ない男性殴り財布奪ったか ウズベキスタン国籍の男5人逮捕 -警視庁

2024年12月、東京・渋谷区の路上で面識のない20代の男性2人に因縁をつ…

熊本県警の捜査を「一部違法」と認める 熊本地裁

覚醒剤取締法違反などの罪に問われた男の裁判で、熊本地方裁判所は、…

トランプ氏、シリア制裁に対して全面的解除の考えを示す アメリカ

【リヤド=池田慶太】米国のトランプ大統領は13日、訪問先のサウ…

佐々木朗希が右腕に張り訴え…前回は初の中5日、ロバーツ監督「見極めたい」

【ロサンゼルス=帯津智昭】米大リーグ・ドジャースのロバーツ監督…

loading...