犯人の狙いは「中国株」?──証券口座“乗っ取り”で不正売買、被害は3000億円超 手口と対策は【#みんなのギモン】

証券口座が乗っ取られ、顧客になりすました犯人に勝手に売買される被害が後を絶ちません。今年1〜4月の不正取引は3500件超、被害額は3000億円超に上ります。2400万円を損した被害者や、サイバーセキュリティーに詳しい専門家に話を聞きました。 そこで今回の#みんなのギモンでは、「証券口座乗っ取り…3000億円超?」をテーマに解説します。 ■不正取引の被害者「どうしたら…」 小野高弘・日本テレビ解説委員 「政府が国民に『貯蓄から投資へ』と呼び掛けてきました。資産形成が大事だとして、利益が非課税になるNISA制度が拡充されてきました。証券口座を開く若い人たちも増えてきました」 「ところがその証券口座が乗っ取られ、持っていた株を勝手に売買されるという被害が相次いでいます。今回、不正取引の被害者から話を聞くことができました。日本テレビの情報提供サイトに投稿いただいた、60代の山下さん(仮名)です」 山下さん 「どうしたらいいかなって、落胆ばかりでした。4月17日にSBI証券の特定口座を不正に操作されまして、約2400万円(の損失)」 「あらゆる病気を治す薬を頑張って作っている(会社)。私はその会社に託したくて(投資した)。それなのに途中で売却するとは、なんてことって…」 森圭介アナウンサー 「お金を盗まれたんじゃなくて勝手に売買されたということなんですね」 斎藤佑樹キャスター 「僕の使っている証券口座のサイトからも『気をつけてください』とお知らせが来ました」 ■勝手に売られ…2400万円の損 小野解説委員 「山下さんはもともとは、株を3900万円で購入しました。その株を勝手に全て売られたわけです。売却額は1500万円になっていました。たまたま口座をチェックしていて被害に気づいて、口座をストップしました」 「そのため1500万円は手元に残りましたが、結局2400万円損をしました。応援したい企業だから投資したのに、売り時ではなかったのにと、悲しい思いでいるそうです」 鈴江奈々アナウンサー 「知らないうちに売買されてしまうということがなぜ起きてしまうのか、その手口がとても気になります」 ■乗っ取り売買 犯人の目的は? 小野解説委員 「なぜ山下さんのように証券口座が乗っ取られ、勝手に株を売買される被害が相次いでいるのか。犯人の目的は何か。楽天証券には、顧客から『中国株の銘柄を勝手に購入されていた』という相談が複数あったそうです」 「中国株というのがポイントです。中国株は取引量が少なく、もともとの株価が安い。そのため株価が変動しやすいものも少なくありません。つまり、一気に買えば一気に株価がつり上がるということです」 「そのため犯人はまず、普段は取引量が少ない中国企業Aの株を持っておく。そして、ある人の証券口座に目をつけて乗っ取る。持っている株を勝手に売却して、そのお金で中国企業Aの株を大量に購入する」 「株は大量購入されると、『買いが入った』ということでA社の株の価値が上がります。A社の株の価格を上げることで自分の持っているA社の株の価格も上がります。そのタイミングで株を売れば、利益を得る。これが狙いとみられています」 森アナウンサー 「お金を直接盗まないで自分で利益を得るということですね」 鈴江奈々アナウンサー 「乗っ取られた人にとっては、株が大量に購入されていて、それ自体が盗まれるわけではなく、間接的に被害にあうということなんですね」 ■不正取引の被害件数と金額は? 小野解説委員 「今、どのぐらいの被害が出ているのか。これまでに楽天証券、SBI証券、野村証券、SMBC日興証券、大和証券、松井証券、マネックス証券、三菱UFJ eスマート証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の少なくとも9つの証券会社の顧客が被害にあっています」 「『取引完了しました』というメールが突然大量に届いて被害に気づくケースもあったそうです。毎日見ているような人でないと、自分ではなかなか気づかないものです。被害が出始めたのは今年1月頃からです」 「4月までの4か月間で不正取引の被害の数は3505件。1月は39件、2月は33件、3月は687件、4月は2746件でした。4月は桁が違います。勝手に株を売られた被害額は約1612億円、勝手に株を買われた被害額は約1437億円でした」 「今、銀行振り込みはパソコンやスマートフォンでできる時代です。証券取引も同じく、個人が口座のウェブサイトにアクセスし、そこで自分で売り買いができる時代です。そのためこうした犯罪も行われています」 瀧口麻衣アナウンサー 「パソコンやスマホで売り買いできるという便利さがある反面、気がつかないうちに被害にあうリスクもあるので、本当にこまめにチェックすることが大事ですね」 ■顧客になりすます2つの手口 小野解説委員 「口座にはIDやパスワードがあるはずで、どうやって入り込んでくるのでしょうか。犯罪グループがそのログインIDやパスワードなどを盗み、口座を乗っ取り、顧客になりすまします」 「その手口はどんなものなのか。サイバーセキュリティーの専門家である増田幸美さん(日本プルーフポイントのチーフエバンジェリスト)に話を聞きました。手口は大きく分けて、フィッシングとコンピューターウイルスの2つあります」 「フィッシングでは偽のサイトに誘導され、そこにIDやパスワードを入力してしまうと情報が盗まれます。増田さんによると、証券会社からのお知らせを装うなどの新種の詐欺メール全般が全世界で急増。今年に入り、月に6億通も発信されているということです」 「このうち86%が、日本の個人や企業を標的にしているそうです」 斎藤キャスター 「なんで日本なんですか?」 小野解説委員 「日本は株取引が盛んです。その上、これまで日本は言語の壁で守られていたので不自然な日本語のメールに気づけましたが、今は生成AIによって滑らかな日本語のメールが作れるようになり、騙されやすくなっているのではないかということです」 鈴江アナウンサー 「文字化けなどもありましたよね」 小野解説委員 「一方のコンピューターウイルスについて。情報を盗むタイプのコンピューターウイルスを送りつけられたり、ウイルスに感染したウェブサイトを閲覧するだけで感染したりして、パソコンやスマホなどに保存したIDなどの個人情報が丸ごと盗まれてしまうといいます」 「どうすれば防げるのか。増田さんによると、お知らせメールが来たとしても、そこにあるURLを安易にクリックせず、公式ホームページから情報を確認する。ウェブサイトに自動で表示される広告もフィッシングの可能性があるので、安易にクリックしない」 「OSやアプリのバージョンアップはきちんと行うこと。そして、生体認証は極めて安全性が高いということで、指紋認証や顔の認証などをオンにしておくといいそうです」 「日本証券業協会にも対策を聞きました。乗っ取りの関連で情報確認したい時は、まず証券会社の公式ウェブサイトに直接アクセスしてほしいということです。個人投資家の被害防止、証券界の信頼確保のためにできることをしたい、としています」 ■不正リンクからIDの入力はせず 小野解説委員 「4月に口座乗っ取り被害にあった山下さん(仮名)は、不正なリンクをクリックしてIDなどを入力したことはなく、生体認証ではないものの証券会社が利用を促すワンタイムパスワードなど複数の認証システムを利用していたそうです」 「それなのに2400万円もの被害にあいました。補償はどうなるのでしょうか。山下さんに聞きました」 ■山下さん「解決法もなく途方に…」 山下さん 「システムは一切問題ありませんので、補償はいたしませんとおっしゃった。それだけでもびっくりしたんですよね。私被害受けてるのにどうしてって感じでした。なにひとつ解決法もなく、途方にくれていました」 ■補償は? “異例の申し合わせ”も 小野解説委員 「証券会社からは当初『補償できない』と言われたと、山下さんは話していました。多くの証券会社では約款で『不正アクセスによる被害は補償しない』と定めています」 「ただ被害の重さに鑑みて、証券会社10社(SMBC日興、SBI、大和、野村、松井、マネックス、みずほ、三菱UFJ eスマート、三菱UFJモルガン・スタンレー、楽天)が異例の申し合わせをして、一定の被害の補償を行う方針で合意しました」 鈴江アナウンサー 「異例の対応ということですが、どこまで補償されるのかといった具体的なことはこれからということですね」 小野解説委員 「そうです。安心して投資できるように実態解明をしっかりやり、対策をお願いしたいです。そして皆さんも対策をお願いします」 (2025年5月13日午後4時半ごろ放送 news every.「#みんなのギモン」より) 【みんなのギモン】 身の回りの「怒り」や「ギモン」「不正」や「不祥事」。寄せられた情報などをもとに、日本テレビ報道局が「みんなのギモン」に応えるべく調査・取材してお伝えします。(日テレ調査報道プロジェクト)

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