優れていることを装ってしまう…「優越コンプレックス」の人が陥る考え方と対処法

人生において自分自身を「特別な存在だ」と思うか、あるいは「思っていたより普通かもしれない」と思うか。 「特別でなければならない」という考えを持っている人は、常に他者と比較している。そして「自分が他の人にどう思われるか」が先に立ってしまっている場合がある。 アドラー心理学の第一人者で哲学者の岸見一郎氏が「特別になろうとしないが、同じでもない」生き方を探った新著 『「普通」につけるくすり』 (サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。 過度に緊張する人 一生懸命勉強していい成績を取り、志望する大学にも首尾よく合格し、順風満帆な人生を送っているように見える人でも、ずっと優秀であり続けることはできません。 たしかに、仕事でいい結果を出し続ける人もいますが、そのような人でも揺るぎない自信を持っているかといえば、そうとはいえないでしょう。もっとも、自信があるように見える人に、「本当はいつまでも優秀であり続けることはできないと思っているのではないか」とたずねても、言下に否定するでしょうが。 すでに自信が揺らぐような経験をした人は、その経験はこれからの人生をこれまでとは違ったふうに生きるための好機と考えてほしいです。特別でなければならないという思い込みから解放されるだけで人生は変わります。しかし、これまでの人生で自分にとって当たり前と思っていた考えを改めるのは容易ではありません。 これからも勉強も仕事も頑張らなければなりません。努力をしなくてもいいというようなことを私は言いません。ただし、努力するときに必要なエネルギーを無駄なこと、つまり特別であろうとすることに向けるのをやめなければなりません。 アドラーは、しばしば「過度に緊張する人」の症例を著作の中で引いています。過度に緊張する人とは、ここまで見てきた特別でなければならないと思う人です。 ある不眠を訴える男性は子どもの頃は誰からもかまわれなかったのですが、あるとき、担任の先生が休んだときにやってきた代理の先生が、彼に可能性を見出し、勇気づけました(『個人心理学講義』)。その先生は「あなたはできる」というようなことを言ったのでしょう。そのときから、たちまちいい成績を取れるようになりました。 しかし、自分が優れていると本当には信じられず、いつも後ろから押されている気がして、一日中、夜も遅くまで勉強しました。その結果、大人になってからも、何かを成し遂げるためにはほとんど一晩中起きていなければならないと考えるようになりました。 このような人はいつも過度に緊張しており、自分が成功することに疑いを持っているとアドラーは言います。 特別であろうとする人は、この男性のように自分が本当に優れているとは思えず、いい成績を取り続けるために過度に緊張しているように見えます。 過度の努力は自信がないからだけではない 私は学生のとき一生懸命勉強しましたが、自分が本当に優れているとは思えませんでした。学業を終えてからも、ずっとその思いに囚われていました。そこで、私には何でも学べばいい成績を取れるような才能はないが、努力するのも才能だといつも自分に言い聞かせていました。 たしかに、何を成し遂げるのにも努力は必要です。実際に私は、人一倍努力してきましたが、アドラーの言う「過度に緊張する人」だったようにも思います。 アドラーは、疲れやすく、頭痛を訴える九歳の少女のケースも紹介しています。彼女は喜んで学校に通い、必要以上に勉強しましたが、これはある自信のなさを表しているとアドラーは言います。 「何か大きなことをしたいのだが、無理な努力をした時にだけそうすることができると信じているのである」(『教育困難な子どもたち』) この少女が過度の努力をするのは、自信がないからだけではありません。この少女にとって、より重要なことは別にあります。 「特に教師を喜ばすために、彼女は過度の努力をする」(前掲書) 先に見た不眠を訴える男性も、努力したのでいい成績を取れるようになりましたが、一生懸命勉強するようになったのは、彼の才能を認めた教師を喜ばせたいという思いもあったのでしょう。ここで「特に教師を喜ばす」と書いてあることからわかるように、教師だけでなく、親も喜ばせたい、かけられた期待を裏切りたくないと思ったはずです。 他者の期待に応えるために努力をする人 「いつも期待されているという重圧を担い、常に前へと押し出され、あまりに自分自身のことに関心を持っている」(『個人心理学講義』) この重圧は、「優れていることを装っているに過ぎない優越コンプレックス」(前掲書)を覆い隠すために感じるのです。 優越コンプレックスとは、自分が優れていることを誇示することです。優越コンプレックスがある人は実際よりも自分をよく見せようとします。なぜそうするのかといえば、本当は優れているわけではないと心のどこかで勘づいているからです。優越コンプレックスは劣等感が根底にあります。これが「優れていることを装っている」ということの意味です。 ここでは過剰な緊張のもう一つの問題が指摘されています。それは、期待されているという重圧を担っている人は、実は「自分が他の人にどう思われるか」ということを気にかけているという点です。 たとえば、国家を背負って戦わなければならないと思うオリンピック選手が期待の重圧のために実力を発揮できないことがあります。家族や関係者、ファンはメダルを取ってほしいと期待しますが、期待に応え喜ばせなければならないと強く思い詰め、結果を出せなかったときに国民に合わせる顔がないと感じる人もいます。 アドラーはそのような「期待されているという重圧」(前掲書)を担っている人は、実は自分にしか関心がないと言っています。自分がどう思われているかにばかり注意が向いているからです。 「多くのことを期待された子どもたちが、勉強や仕事で失敗し始め、他方、以前はあまり才能がないと思えた子どもたちが追いつき、思いもよらない能力を表し始める」(『人生の意味の心理学』) これは、期待に応えようとするあまり、力を発揮できなくなる事態を表しています。金メダル候補が思いがけず初戦で敗退し、まったく期待されていなかった選手が好成績を収めるというようなことです。失敗するのは課題が難しいからではなく、実力が十分あっても、期待に応えようとするあまりうまくいかないこともあります。 「自分の力を試してみても、深淵の前に立っているように感じ、ショックの作用──自分に価値がないことがあらわになる恐れ──で退却し始める」(『生きる意味を求めて』) 課題を解決する力が十分にないというだけなら、もっと勉強すれば、スポーツ選手であればもっと練習すればいい結果を出せるはずですが、「自分に価値がないことがあらわになる」ことを恐れると退却し始めるとアドラーは言います。 自分に価値があると思えたら アドラーがここで使っている「価値」という言葉には説明が必要です。アドラーは次のように言っています。 「自分に価値があると思えるときにだけ、勇気を持てる」(Adler Speaks) 勉強や仕事の場合は、この「価値がある」というのは「能力がある」ということですが、自分にかけられている(と思う)期待も含まれます。 「担ってきた期待を裏切ることになるのではないかと心配になるのである」(『人生の意味の心理学』) 優越コンプレックスを抱き、「他の人にどう映るか」に気を取られている人は、親や教師が期待していると思い、その期待に応えなければならないと思います。いい成績が取れなかったとき、あるいは取れそうにないとき、それでもなお認められたいという思いが強いと、不正を行うことも厭わなくなります。 大学で教えている優秀な人が論文を盗用するというようなことが起きるのは、優秀でなければ、他の人の期待に応えられないと思うからですが、本当は期待などされていないかもしれません。 【つづきを読む】『学歴と能力は関係ないのに…学歴が高い「普通」の人が陥ってしまう思い込み』 【つづきを読む】学歴と能力は関係ないのに…学歴が高い「普通」の人が陥ってしまう思い込み

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