一向に解消されないコメの高騰。備蓄米の放出で収まるとの農水大臣の言葉はウソだった。いまさら聞けない素朴な疑問を識者にぶつけた。 Q1　なぜこんなに高くなっている？ 「'23年産米に対し、農林水産省とJA（農協）は10万トンの減反強化を行っていました。それに加え、猛暑の影響で30万トンのコメが駄目になってしまった。猛暑になると、穂が実るときに米粒が白く濁ったり、割れたりして食用米として卸すことができなくなってしまいます。その結果、従来は180万〜200万トンほどある民間在庫に前年比で計40万トンの不足が生じ、流通に影響が出てしまいました。 去年の夏にスーパーの店先からコメがなくなったのを覚えていると思います。それを解消するために、本来は'24年10月から食べ始める'24年産米を、8月から9月にかけて先に食べてしまった。そうなると、'24年10月の時点で、40万トン足りない状況が持ち越されるわけで、需給のバランスで決まる米価は、昨年10月から現在まで徐々に高騰してきたのです」（経済産業研究所上席研究員・山下一仁氏） Q2　なぜ備蓄米はお店に届かない？ 「政府は1回目と2回目で計21万トンの備蓄米を玄米の状態で放出し、ほぼすべてをJA全農が落札しました。ところが、政府はなぜか備蓄米の玄米転売を規制したため、全農は玄米ではなく、精米しか販売してはいけないことになってしまった。 そのため、JA全農子会社の全農パールライスで精米してから販売することになり、パールライスと契約があるところにしかおコメは届かない。こういう事情で、川下に備蓄米が届きにくくなっているのです」（大規模農家・新潟ゆうき代表・佐藤正志氏） Q3　なぜJAにばかり備蓄米を放出？ 「自民党の意向もあったでしょう。昨年の『米騒動』でJAは民間とのコメの集荷競争に負け、集荷量は前年より29万トン減となる見込みです。そうすると、JAの販売手数料は減ります。そこで、政府は21万トンを1俵（60kg）あたり2万1000円でJAに出し、JAは1俵あたり2000円の利益を乗せて、1俵2万3000円で売りました。 つまり、JAの赤字を補塡するために備蓄米を放出したようなものです。農家は自民党の大票田ですから」（宮城大学名誉教授・大泉一貫氏） Q4　備蓄米をこんなに出して大丈夫？ 「政府は毎年20万トンずつ食用米を購入し、5年分100万トンを備蓄しています。そこから4月末までに計31万トンが放出されました。5月以降も予定されている追加放出で毎月10万トンずつ出せば、残りは数十万トンまで減少します。しかも、今年は備蓄米の買い入れをしません。そういう状況下で、災害や有事の際に、おコメがないという最悪のケースを迎えるおそれもあります」（宇都宮大学農学部助教・松平尚也氏） Q5　コメの値段はまだ上がるのか？ 「今回の放出では、政府が同量を放出先から原則1年以内に買い戻すという条件がついています。全農は今回落札したものを、来年政府に売り戻す必要があるのです。 コメの取引では、JAが農家に前金として支払う『概算金』が事前に決められます。通常は8月くらいに金額を決めるのですが、今年はすでに3月に決めているJAもあります。なかでも新潟のJAはコシヒカリ1俵あたりの概算金を2万3000円と提示しました。これは前年比6000円アップで、3割以上の値上げです。コメの生産量日本一の新潟は、おコメのプライスリーダーでもあるため、値上げの動きが全国のコメ産地に波及していくと思われます。 概算金の3割値上げは、農家にとってはうれしいですが、流通とか小売りにとってはコメ価格の高止まりを意味するため、死活問題となりかねません。さらに、備蓄米の買い戻しで、来年3月から4月にかけて最低でも30万トンのコメが市場から減るため、流通量の減少や価格への影響が心配されます。いずれにせよ、コメ農家では生産コストが上昇しているため、コメが昔のような値段に戻ることは難しいでしょう」（松平氏） 中編記事『【兼業農家にとっては「退職金代わり」】減反をやめればコメの価格が下がるのに、農水省とJAが減反にこだわる「納得の理由」』へ続く。 「週刊現代」2025年5月26日号より つづきを読む【兼業農家にとっては「退職金代わり」】減反をやめればコメの価格が下がるのに、農水省とJAが減反にこだわる「納得の理由」