いま、日産が台湾の手に渡れば日本経済は…経産省が《ホンダ・日産の経営統合》をどうしても諦めきれないワケ

トヨタと日産、国内自動車メーカーの注目の決算が出揃った。 トヨタが5月8日に発表した2025年3月期の連結決算は、売上高が48兆367億円(前期比6.5%増)、営業利益が4兆7955億円(同10.4%減)、純利益が4兆7650億円(同3.6%減)だった。減益とはいえ、経営不振とはほど遠い。 一方、日産が5月13日に発表した2025年3月期の連結決算は、事前の予想通り厳しい内容だった。売上高は12兆6332億円(前期比0.4%減)、営業利益は697億円(同87.7%減)、そして最終損益は6708億円の赤字(前年は4266億円の黒字)。あわせて2万人のリストラと日本を含む世界7工場の閉鎖も発表している。 前編記事〈エルグランドは1回、アルファードは3回…日産とトヨタの明暗を分けた「ある数字」〉に引き続き、多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏が、日産の現状と今後を解説する。(全2回の2回目) 台湾からのラブコール ホンダとの経営統合が破談になった後、日産の自力再建は一段とハードルが高くなった。 ただ、同社が持つ自動車生産のノウハウは、電動車の受託製造に成長チャンスをみる台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)にとっては重要性が高まったはずだ。ホンダとの経営統合破談後、ホンハイ関係者はこれまで以上に日産に熱烈なラブコールを送り始めた。 ホンハイの関氏は、EV事業で「日産自動車と協業したい」と強い意欲を示した。さらにホンハイは、日産、ホンダ、三菱自動車との4社連合の形成も念頭に置き、自動車受託製造事業を新たな収益分野とみている。 その最初の段階として、ホンハイは三菱自動車とEV受託製造分野での協業を進めるつもりのようだ。 日産の技術がどうしても欲しい ホンハイは、わが国の自動車業界が持つ製造技術を急速に取り込み、安全性向上、PHVに使うエンジンなどの製造技術の習得を狙っているはずだ。その上で狙うのは、世界最大の中国市場だろう。 中国では、急速にEVやソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)の開発が増加している。電動車の受託製造技術を磨くため、ホンハイは日産の製造技術を何としてでも手に入れたいのだろう。 日産にとって、競争力の源泉(コア・コンピタンス)が社外に流出することは避けたいはずだ。現時点でホンハイは日産との協業を重視しており、買収は考えていないとの方針を示しているが、最終的には買収に踏み切る可能性も排除できない。 ホンハイの構想には、日産を自社の戦略に使って、内外の工場を迅速にEVやPHVの生産拠点に転用する狙いもあるだろう。状況次第では、ホンハイが三菱自動車を傘下におさめる可能性もある。 日産を買収する場合、ホンハイにとって重要性が低い資産やサプライヤーは、リストラの対象に分類され切り売りされるリスクが高まる。ホンハイが日産再建のベストパートナーか否か、慎重に考えるべきだろう。 日本経済における日産の重要性 わが国の経済にとって、海外企業が日産の経営権を握り、雇用の不安が高まることは避けなければならない。 ホンダと日産の経営統合に向けた協議が打ち切られた後、経済産業大臣は、「統合を前向きに考えてほしい」と発言した。 これは、日産自動車の日本経済にとっての重要性を如実に表している。雇用の維持の観点から、政府にとって日産はあくまでも国内資本の下で経営されることが重要だ。 今後、政府は、海外企業がわが国企業と協業を組む場合のルールを定める必要があるだろう。経済安全保障に重要な分野で、外資出資規制を厳格化する必要もある。そして、日産とホンダのケースのように、政府がリードして国内企業同士の経営統合協議を円滑に進めることも検討が必要だ。 一つの支援手段として、公的資金の投入も考えられるだろう。 日産が業績下方修正を発表した後、大手信用格付け業者のフィッチは日産の信用格付けをBBに引き下げ、見通しを弱含み(追加格下げの可能性は高い)とした。今すぐは考えづらいが、今後も収益が減少傾向になると、日産の資金繰りひっ迫の懸念は高まる。 時間は残されていない… その場合、日産の資金調達手段の一つとして、政府が公的資金など様々な支援で経営再建を支える選択肢はあるはずだ。 今後、ホンダとの経営統合協議の席に着くよう、日産に対して様々な方面から働きかけがありそうだ。 主要な国内の機関投資家からも、類似の要請は増える可能性が高い。日産経営陣が能動的にホンダとの協業、経営統合に向けた議論を再開できるか否かで、同社の中長期的な事業運営の先行きは大きく変わるはずだ。 いずれにしても、時間はあまり残されていない。 どこかの段階で、日産はかなり思い切った決断をすることになると予想する。 ---- 【さらに読む】〈残念ですが、モビリティ業界の新たな「4強」に「トヨタ」は入っていません…!これから台頭する「4社の名前」と「クルマの未来」〉もあわせてお読みください。 【さらに読む】残念ですが、モビリティ業界の新たな「4強」に「トヨタ」は入っていません…!これから台頭する「4社の名前」と「クルマの未来」

もっと
Recommendations

自衛隊機が池に墜落 雨が降る中搭乗員の捜索活動が続く 愛知・犬山市の入鹿池

航空自衛隊の練習機が愛知県犬山市の池に墜落した事故で、17日、雨が…

イベント会場戦国時代を勝ち抜くアイデア募集…「さいたまスーパーアリーナ」県が命名権と事業提案公募

埼玉県有施設「さいたまスーパーアリーナ」(さいたま市中央区)に…

阿部寛の存在感に応える。作曲家・木村秀彬が日曜劇場で初めて採用した楽器と劇伴制作の裏側

数々の話題作で音楽を手掛けてきた作曲家・木村秀彬氏。早稲田大学政…

「令和の米騒動」で姿が見えない「コメ議員」 かつて存在感示した「族議員」が消えたわけ

コメの値段が上がりっぱなしの「令和の米騒動」を見ていて、おやっ?…

大阪・堺市の製油所でガス漏れか 従業員2人が意識不明で搬送 プラント内配管から硫化水素が漏れた可能性

きょう午前、大阪府堺市にある製油所でガス漏れと見られる事故があり…

将棋「名人戦」第4局 藤井聡太七冠3連覇まであと1勝

将棋界で最も伝統のある称号をかけた戦い「名人戦」は、きょう17日か…

イスラエル軍がガザ軍事作戦を拡大 各地の攻撃で93人死亡 トランプ氏歴訪終了と同時に 被害拡大避けられず

パレスチナ自治区ガザに侵攻を続けるイスラエル軍は、軍事作戦をさら…

イスラエル軍がガザへの大規模攻撃を開始、2日間で250人以上が死亡か…「新たな作戦の第1段階」

【エルサレム=福島利之】イスラエル軍は16日、パレスチナ自治区…

関西空港を発着のJRと南海線、強風で運転見合わせ

関西空港を発着するJR関西空港線の日野根—関西空港間と南海電鉄…

ゴルフ場の駐車場で…高齢男性2人が高齢女性運転の乗用車にひかれる 2人搬送 北海道八雲町

八雲町にあるゴルフ場の駐車場で2025年5月17日、高齢男性2人が、乗用…

loading...