5月18日に東京・国立競技場で開催されるゴールデングランプリ(以下GGP)は長距離種目も面白い。男子3000mでは、5000mで代表を狙う佐藤圭汰(21、駒大4年)、森凪也(25、Honda)、遠藤日向(26、住友電工)、塩尻和也(28、富士通)らが熾烈な争いを繰り広げる。Road to Tokyo 2025(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)では、3000mと5000mは同じグループ。つまりGGPの3000mの順位・記録で、5000mの出場資格を得るポイントが大きく上昇する。そのためにも大迫傑(33、Nike)が14年に出した、7分40秒09の日本記録更新を狙うペースメイクも予想されている。 【一覧】9月13日開幕『東京2025世界陸上』日程&出場選手 ダイヤモンドリーグの失敗をステップにしたい佐藤 GGP男子3000mに出場する鈴木芽吹(23、トヨタ自動車)、篠原倖太朗(22、富士通)、佐藤圭汰が練習を行うGgoatチームの大八木弘明氏は、「世界で戦うには、3000mの日本記録はそろそろ破らないといけないでしょう。スパイクも進化している。みんな積極的に行ってほしいですね」と期待する。 Ggoatメンバーでは佐藤が5月3日のダイヤモンドリーグ上海紹興大会で、5000mの日本記録(13分08秒40=15年・大迫)に挑戦した。2000mまでは1周(400m)1分02〜03秒台と予定のペースを刻んだが、そのペースを維持できなかった。13分19秒58と大崩れはしなかったが、大八木氏は「少し自重してしまったようです」と分析した。 しかしGGPに向けて好材料もある。 1000m毎を2分33秒平均で走り切れば7分39秒になる。ペースメーカーの設定は不明だが、5分08秒の2000m通過なら、最後1000mのペースアップで日本記録を破ることができる。佐藤の上海紹興での2000m通過は、思い切って行けなかったこともあって5分14秒6になったが、先頭選手は5分08秒2だった。 「佐藤は帰国後も良い感じで練習ができています。3000mなら、そのくらいのタイムで2000mを通過しないといけないでしょう」 Ggoatは、駒大で長く監督を務めた大八木氏が昨年設立したチームで、世界を目指しスピードを重視したトレーニングを行っている。今年4月の日本選手権10000mでは鈴木が優勝し、2月の丸亀国際ハーフマラソンでは篠原が日本歴代2位と快走した。22年、23年と世界陸上代表だった田澤廉(24、トヨタ自動車)と、800m日本記録保持者の落合晃(18、駒大1年)もメンバーだ。 「鈴木は10000mで世界陸上代表を狙いますが、鈴木も篠原もGGPの結果次第では5000mでも可能性が出てきます」 日本人上位独占はライバルたちが簡単には許さないだろうが、今のGgoatにはそのくらいやってしまいそうな勢いがある。 森は昨年のGGPが出世レース ラストに強い遠藤、10000m日本記録保持者の塩尻も有力 森凪也は4月12日の金栗記念5000mに13分15秒07の自己新で優勝。後半レースを引っ張った佐藤圭汰を、ラスト150mからのスパートで抜き去った。佐藤とともに5月末のアジア選手権代表に選ばれている。前半シーズンでRoad to Tokyo 2025のポイントが高いのはGGP、アジア選手権、日本選手権。現状アジア選手権代表の森と佐藤が優位と言われている。 森は昨年のGGP5000mで、日本人2位の5位。13分23秒08と好記録もマークしたことで、その後の日本選手権2位(13分16秒76)につなげることができた。9月に中足骨にケガをしたことで、ニューイヤー駅伝は1区区間9位とトラックほど活躍はできなかったが、金栗記念で日本代表入りする力は昨年から示していた。GGPは出世レースといえる。 「GGPは欠場者が出たため、僕が繰り上がりで出場することができました。一番低い実績の選手が日本人2位になれて、日本選手権の表彰台にもつなげられました。大学まで一度も全国で入賞がなかったので、日本選手権が一番大きかったのですが、ベストレースはGGPでした」 自身の競技人生を変えたレースで、再度の快走を期している。 昨年のGGPで森に勝ち、日本人1位の4位となったのが遠藤日向だ。今季は金栗記念を欠場し、4月29日の織田記念は日本人2位の3位、13分28秒75だった。住友電工の渡辺康幸監督は、「金栗は動き(フォーム)がしっくり来ていないので出場を見送り、織田はGGPに合わせるために練習の一環として出場しました。GGPで7分45秒08の自己記録を更新する準備はできています」と遠藤に期待する。 遠藤は状態が良ければラスト1周を54秒台で走る。他の選手たちにとっては脅威となるスパート力が特徴だ。 そしてもう1人の日本人トップ候補が、塩尻和也である。23年12月に10000mで27分09秒80の日本記録を樹立したが、今年4月12日の日本選手権10000mは27分47秒58で4位。10000mの代表争いからは一歩後退したが、5月4日のゴールデンゲームズinのべおか5000mで13分13秒59の自己新をマーク、日本人トップとなり5000mの代表入りに希望を残した。 「GGPも日本人1位でポイントを積み上げたいですね」と富士通の高橋健一監督。「短い距離のスピード練習ではなく、長距離寄りの練習を行う選手ですが、それでも5000mや3000mのスピードを出すことができます」 最後1周のスピードは遠藤に及ばない。レース展開や誰が日本人先頭集団に残っているかにもよるが、ロングスパートに活路を開くタイプだろう。 勝負も記録も重要なレースに 世界陸上代表に選ばれるには、参加標準記録の13分01秒00を破るか、Road to Tokyo2025で種目別選手枠の42人に入る必要がある。42番目のラインは5月17日時点で1090点。 今後何ポイントになるかは流動的だが、日本陸連強化委員会の長距離部長でもある渡辺監督は、「GGPでは日本選手に1200点以上を取ってほしい」と言う。 Road to Tokyo 2025のポイントは記録ポイントと順位ポイントの合計で、GGP3000mの順位ポイントは1位・100点、2位・90点、3位・80点、4位・70点、5位・60点、7位・45点、8位・40点となっている。記録ポイントはどの大会で出しても変わらず7分40秒で1176点、7分45秒で1146点、7分50秒で1115点。記録ポイントの方が数値は大きいが、実は差が付きにくい。反対に順位ポイントは、数値は小さいが差が付きやすい。 観戦時に細かい部分は理解しなくても大丈夫だ。日本記録を出して8位以内に入ったり、7分45秒前後で5位以内に入ったりすれば1200点を上回り、代表選考で大きなプラスになる。 ペースメイクは2000m通過が速ければ5分06秒になり、ラスト1000mは2分35秒で日本記録が更新できる。前半で貯金を作るパターンだ。5分10秒の設定になれば、ラスト1000mを2分30秒までペースを上げる必要が生じる。前半で多少のマイナスを負っても、ラスト1000mで挽回するパターンだ。 しかし記録だけを考えていてもダメである。アフリカ勢が5人出場し、アイルランドのブライアン・フェイ(26)も参加する。フェイはダイヤモンドリーグ上海紹興大会で佐藤に勝った選手。日本人選手同士の争いをするのでなく、外国勢を相手に上位に入らないとGGPを走る意味はない。 世界を見据えた代表争いを、今年のGGP長距離種目で楽しむことができる。 (TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター) ※写真は左から遠藤日向選手、佐藤圭汰選手、塩尻和也選手