【春ドラマ・トップ5】殺人事件も、裁判もなし “迷走”する「月9」が向かう先

春ドラマの視聴率上位は  4月に始まった春ドラマで、現時点での視聴率上位組が見えてきた。評判高いフジテレビのドラマ「続・続・最後から二番目の恋」(月曜午後9時)は視聴率も上々。ただし、従来の月9が照準を合わせてきた若い視聴者にはあまり観られていない。月9は歴史的転換期を迎えているようだ。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】  *** 【写真】「神回」「スゴイ!」と驚きの声…NHKに登場したキョンキョン、大物歌手との2ショットも  春ドラマの中で個人視聴率の高い作品はどれか。プライム帯(午後7〜同11時)で放送中の17作品のうち、ベスト5を挙げてみたい。  なお、5年前からテレビ界とスポンサー側の物差しは個人視聴率で一本化されているが、マスコミは世帯視聴率も使うため、ここでも併記する(5月5〜11日、ビデオリサーチ調べ)。 小泉今日子と中井貴一 (1)TBS「日曜劇場 キャスター」(日曜午後9時)11日放送の第5回。個人6.5%。世帯10.8%。 (2)テレビ朝日「特捜9 final season」(水曜午後9時)7日放送の第5回。個人4.9%。世帯8.7%。 (3)フジテレビ「続・続・最後から二番目の恋」(月曜午後9時)5日放送の第4回。個人4.5%、世帯7.9%。 (4)TBS「対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜」(火曜午後10時) 6日放送の第6回。個人3.9%。世帯6.6%。 (5)テレビ朝日「PJ〜航空救難団〜」(木曜午後9時)8日放送の第3回。個人3.8%。世帯6.8%。 「キャスター」は第1回からずっと断トツ。日曜劇場の前作「御上先生」の第5回(2月16日放送)も個人6.5%だった。それでも「キャスター」のほうが批判されがちなのはメッセージ性やリアリティーより、エンターテイメント性や分かりやすさを優先した娯楽作だからだろう。  古くからドラマはシリアス作品のほうが評価されやすい。ドラマ賞を獲る作品も大半がシリアス調。映画にも同じ傾向がある。典型的なシリアス作品だった前々作「海に眠るダイヤモンド」の第5回は個人4.4%(昨年11月24日放送)だった。  2位の「特捜9」も強い。個人視聴率は3月末で終了した「相棒23」には及ばないものの、ランキング上位から滑り落ちることがない。テレ朝の刑事ドラマは現代の「水戸黄門」か。 「対岸の家事」が人気  4位は多部未華子(36)主演の「対岸の家事」。立場も価値観も異なる隣人たちが、家事を端緒に結び付く物語。特に若い世代がよく見ている。 「F1層(20〜34歳の女性)、T層(13〜19歳)の視聴率は連ドラの中でトップクラス。ときには『キャスター』も上回るほど。コア視聴率(13〜49歳の個人視聴率)も高い。就寝する人も多いため、午後10時台のドラマの視聴率は同9時台より1%前後下がるから、それを考えると、堂々の人気作」(ドラマ制作者)  5位の「PJ」の主演は内野聖陽(56)。航空自衛隊内の救難教育隊に勤務する熱血教官を演じている。その下で救難団入りを目指す若き教育隊員たちの挫折や希望が活写されている。  教育隊員役で神尾楓珠(26)や元E−girlsの石井杏奈(26)、渡辺碧斗(27)ら若手俳優が多数登場しているから、視聴者層も若いように思えるが、そうではない。 「視聴者層は40代、50代以上が中心。F1層、T層の視聴率は高くない」(前出のドラマ制作者)  56歳の内野が主演で、その視点が物語の座標軸になっているからだろう。そもそも、この放送時間帯は唐沢寿明(61)が主演した前作「プライベートバンカー」(3月放送終了)など中高年に歓迎される作品が多い。  F1層とT層の視聴率が「PJ」と近いのが、3位の「続・続・最後から二番目の恋」なのだそうだ。 「『PJ』より、やや上といったところ」(前出のドラマ制作者)  この作品を月9に据えたことに驚いた他局の制作者もいた。月9は1987年の再スタート以来、若い視聴者を強く意識した作品を放送し続けて来たからだ。  月9の代名詞である恋愛作品が途切れたり、再び制作されたりすると、注目する向きがあるが、それはほとんど関係がないこと。たとえば、月9の代表作の1つである「ガリレオ」(2007年)も恋愛要素は皆無に等しかったのはご存じのとおりだ。  恋愛要素がほとんどなくても「月9らしくない」という声が上がらなかったのは、主演の福山雅治が当時38歳、共演の柴崎コウが同26歳と若く、作風も若い世代が好むクールなミステリーで、さらに犯罪の裏には生きることへの苦悩など若い世代が共鳴しやすい要素が潜んでいたから。ポイントは若い世代を強く意識しているかどうかなのだ。 月9はどこへ向う? 「続・続・最後から二番目の恋」は過去の月9とは異なる。まず主演の小泉今日子は59歳。もう1人の主演である中井貴一は63歳。月9がアラ還俳優を主演に迎えるのは初めてである。  物語もこれまでの月9とは違う。殺人事件も火災も起こらないし、裁判も司法試験もない。この作品は人生の夕暮れどきを迎えた2人の哀歓を静かに見守っている。  第1回は小泉が扮するドラマのゼネラルプロデューサー・吉野千明が、勤務先のJMTテレビでセカンドライフセミナーを受講するところから始まった。  セミナーは定年退職を1年後に控えた社員のための講習会だ。千明は59歳。ドンピシャの対象者だった。 「セカンドライフねぇ。えっ、もう1回生きるの? 第2章みたいな」(千明)  千明は本人の都合などお構いなしにやって来る定年に対し、軽い苛立ちをおぼえていた。  定年になると、仕事の中身や肩書き、収入が変わる。このため、定年が迫ると、焦燥感に駆られる人は実際によくいる。身につまされながら千明を観た40代、50代以上の視聴者もいたのではないか。  次に登場したのは中井が演じるもう1人の主人公・長倉和平。かつては鎌倉市の観光推進課課長など管理職を務めたが、定年が過ぎて再任用の今は指導監という肩書きで、雑多な仕事を押し付けられている。  和平をイラッとさせるのは現在の同課課長・田所勉(松尾諭)の存在。かつては和平が部下であるこの男を「田所君」と呼んでいたが、今では田所が「長倉君」と言う。長幼の序をわきまえていない。とがめてもあらためない。  田所ほど無礼な男は見たことがないものの、再任用者を軽んじる人間は確かにいる。やはり40代、50代を中心に共感されそうな一幕だった。一方で10代から30代にはピンと来ないのではないか。自分が再任用になる日は想像しがたいだろう。  ほかに千明と和平の新たな異性との出会いも描かれているものの、2人の上司と同期が他界するというエピソードもあった。2人は途端に死を身近に感じる。この場面の重みも30代以下には理解が難しいはず。それが視聴率に表れている。  月9を表す近年のシンボリックな作品は森七菜(23)と間宮祥太朗(31)が主演した「真夏のシンデレラ」だった。オーソドックスな夏の恋物語だったものの、40代、50代以上の視聴者にソッポを向かれ、個人視聴率は3〜4%止まり。だが、30代までの視聴率は高く、全連ドラの中でトップクラスだった。  いくら嫌われても制作サイドは痛くなかっただろう。狙っている若い世代には確実に届いていたからだ。当たり前の話だが、好みのドラマは世代によって異なる。  これまでとは異質な「続・続・最後から二番目の恋」を放送した月9は今後、どこへ向うのか。フジは5年度連続で個人視聴率4位と落ち込んでいる。現状から脱け出すには月9が40代、50代以上を視野に入れたほうが近道であるように思える。  しかし、それでは若い世代の失望を招き兼ねず、収益も高まらない。収益だけを考えると、若い視聴者を捕まえたほうがいい。個人視聴率で現在のトップはテレ朝だが、CM売上高はコア視聴率で上回る日テレが圧倒している。フジは悩ましいだろう。  7月にスタートする次の月9は「明日はもっと、いい日になる」。主演は福原遥(26)で林遣都(34)が共演する。児童相談所が舞台で、そこで児童福祉司として働く2人が、子供たちやその親のために奔走する物語になるという。  今後の月9の方向性が浮き彫りになる作品になりそうだ。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部

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