第1回【JA全中トップは「コメ価格は決して高いと思わない」…JA全農山形は「お米は高いと感じますか?」で大炎上 “解体論”まで飛び出す農協と消費者との温度差】からの続き──。JA全中(全国農業協同組合中央会)の山野徹会長は5月13日、現在のコメ価格は「決して高いとは思っていない」と言い放ち、全国の消費者から猛反発を受けた。(全2回の第2回) *** 【写真】コメ価格「高くない」発言が取り沙汰されるJA全中「山野徹会長」。なぜか記者会見でコシヒカリをほおばったことも 都市部では依然として5キロ4500円から5000円でしかコメが売られていないスーパーも珍しくない。 山野会長の「高くない発言」が飛び出した翌日、さる関係者は1日かけて都内のスーパーを見て回った。 江藤農水相 コメ5キロがいくらで売られているのかチェックするためだったが、その際に予想もしなかった“異変”に気づいたという。 「コメの棚には欠品が目立ち、備蓄米は影も形もなく、『ご家族1組さまで1袋限り』という張り紙が貼られるなど、依然としてコメそのものが流通していない印象を持ちました。ただし個人的に最も驚いたのは、最初から5キロのコメを置かず、2キロに特化したスーパーが散見されたことです。なぜ2キロが売れ筋の商品になっているのか。それは1キロあたりの価格は割高になっても、会計で払う金額が絶対的に安いからでしょう。そして足りない炭水化物を割安感のあるパンやパスタ、うどんで補っていると考えられます」 高騰により、さらに日本人はコメを食べなくなっている──これに危機感を表明した財界人がいる。イオンの土谷美津子副社長は5月13日、東京・港区のアメリカ大使館で会見を開き、カルフォルニア米を6月から販売すると発表した。担当記者が言う。 カルフォルニア米が救世主!? 「土谷副社長は『コメが手に入りにくい』、『価格が高くて買いにくい』という消費者の声に応えるため、都市部を中心にカルフォルニア米を4キロ税込み2894円で販売すると発表しました。その際、土谷副社長はイオンでもパンやパスタの売上げが飛躍的に伸びており、このままでは日本人がコメを食べる文化が衰退してしまうと警鐘を鳴らしたのです。日本のコメ文化を守るため、アメリカ産のカルフォルニア米を輸入するという決断は皮肉ではありますが、コメ価格の高止りを歓迎しているかのようなJA幹部の姿勢とはあまりに対照的と言わざるを得ません」 それでは農林水産省は現在の高騰をどう受け止めているのか。江藤拓・農林水産大臣は5月13日の大臣会見に出席し、現在のコメ価格は「消費者の方々が大いに評価するような水準ではないと思います」との見解を示した。 興味深いことに、JA全中の山野会長の「高くない」発言も、イオンの土谷副社長の「パンやパスタが売れている」との危機感も、江藤農水相の「消費者が評価する水準ではない」との見解も、日付は全て13日だ。 まさに三者三様の意見だとは言える。そして少なくとも山野会長の問題発言に比べれば、江藤農水相の見解は消費者の苦境を意識しているのかもしれない。 食糧法に価格の安定は「書いてない」 しかし江藤農水相は4月25日の会見で「この経済の中において、物の値段は米に限らず、工業製品も含めて、市場で決まるというのは大原則です」とも発言している。 果たして彼はコメの販売価格を安くしたいのか、それとも本心で価格の高止りを望んでいるのか、どちらなのか。 「江藤農水相の発言を振り返ると、果たして消費者の味方なのか疑わしいところがあります。2月28日、衆院予算委員会の分科会で野党議員がコメの価格が高すぎると質問しました。これに江藤農水相は、食糧法に価格の安定は『書いてない』と答弁したのです。ところが実際は明記されており、江藤農水相は間違いを認めて謝罪、訂正しました。農水相は価格の安定に尽力する必要があると国会で確認されたにもかかわらず、江藤農水相は4月の会見で『コメの価格は市場が決めるのが大原則』と発言しました。コメの価格を消費者にとっての適正価格に引き下げようという強い意思は感じられません」(同・記者) 自民党の小野寺五典・政調会長は5月14日、埼玉県内にある備蓄米倉庫を視察。コメの価格が下がらないことに関係者から聞き取りを行った。 小野寺政調会長は報道陣に備蓄米の落札価格が政府の買い上げ価格より高かったことを問題視し、「私個人から見ると、国が儲けてどうすんだ」と語気を強めた。JAにしても自民党にしても、コメの価格高騰で失った信頼を取り戻すのは大変なようだ。 第1回【JA全中トップは「コメ価格は決して高いと思わない」…JA全農山形は「お米は高いと感じますか?」で大炎上 “解体論”まで飛び出す農協と消費者との温度差】では、JAが何度も「コメの価格は高くない」と発表して炎上した経緯や、備蓄米がコメの価格低下に役立っていない現状を詳細に報じている──。 デイリー新潮編集部