新たな市場を切り拓いた自負 「モームリが退職代行の第一人者としてメディアで扱われているのは、率直に言って悔しいですね」 そう語るのは、日本初の退職代行サービス『EXIT』の創業者である新野俊幸氏だ。 新野氏は、自身の退職経験から「辞めたくても辞められない」構造に疑問を抱き、2017年に業界の先駆けとして『退職代行EXIT』を創業した。 創業当初、画期的なサービスということもあり、テレビやネットメディアの取材が殺到。新野氏は、恋愛リアリティショー『テラスハウス』にも出演し、退職代行サービスの認知度が広がった。 一方、2022年3月から退職代行サービスを開始し、新たに注目を集めているのが『モームリ』だ。テレビ出演やYouTubeなどで話題を呼び、“退職代行の第一人者”として取り上げられることもあった。 新野氏は4月15日、自身のXで、以下のように投稿した。 「我々『EXIT』が傷だらけになりながら切り拓いてきた市場なんよ、、ビジネスモデルを丸々コピーしただけの後発組が、いまや“退職代行の専門家”としてドヤ顔で語っている現実…。 それを毎日眺めている俺のメンタル、そろそろ誰か心配してくれませんか?」 この嘆くような投稿の真意について、新野氏はこう語る。 「私たちが退職代行サービスを始めた当初、『胡散臭い』『違法だ』と散々言われてきました。その辛かった時代を乗り越えて、新たな市場を切り開いてきた自負があります。 モームリがメディアで取り上げられることが増えていくにつれて、退職代行EXITの存在を知らない若者は、『退職代行はモームリが草分け』と誤認している人も多い。でも、それは事実とは異なります。私たちがパイオニアだということを知ってもらいたいと思い、投稿しました」 モームリは「労働者の味方」になっているのか ただし、新野氏は「モームリの登場が退職代行市場を盛り上げてくれること自体は歓迎」と話す。 退職代行EXITとしては、業界全体の認知度が高まることこそが、自身の掲げる「気軽に辞められる社会」への一歩だと考えているからだ。 とはいえ、後発の業者が増える中で、「労働者の味方」という理念が薄れることには強い警戒感もあると、新野氏は言う。 「モームリは、退職者データを活用し企業向けにコンサルティングもしています。つまり、退職代行ユーザーの退職理由等を何らかの形で提供して、離職率を下げる対策などを提供するサービスです。本来、退職代行は労働者の権利を守るためのサービスのはずが、労働者のデータが企業側に利用されてしまうことで、むしろ搾取構造を助長してしまうのでは、と懸念しています。 というのは、雇用する側は、従業員に『いかに辞めさせずに長く働いてもらうか』を一番に考えているはずだからです。こういうコンサルティングは、私が目指している『気軽に辞められる社会』と相容れない。離職率を下げること自体はいいように聞こえますが、裏を返せば、うまいこと辞めさせずにこき使いたいだけとも言えるわけで、実際そのような企業は多いのです。 私たちは『労働者の味方』というスタンスを一度も変えていない自負がありますが、モームリは後発企業ということもあり、ビジネスに寄りすぎているのではないでしょうか」 モームリにはない退職代行EXITの強み 新野氏によると、現在、退職代行サービスを提供している会社は、約30社も存在しており、年々市場が広がり続けているという。他社とは異なる退職代行EXITの強みについて、こう語る。 「需要は的確に捉えたものの、参入障壁の低いサービスを発明してしまったなという感覚はあります。競合する企業が増えたことで、差別化は必須なのですが、正直なところ、とてもシンプルなサービス内容なので差はつきにくい。 それでもなぜ退職代行EXITが、いまだに選ばれ続けているかといえば、目立った退職代行業者の中では最も料金が安い税込2万円ということに加えて、一番長くサービスを提供している安心感も絶対あると思っています。 たとえばモームリは、毎月のように社員を採用しているようですが、これは利用者からすると、実際に対応してくれる人の経験が浅いリスクがあります。 一方、退職代行EXITにはベテランの社員が揃っているので、マニュアル通りではなく、利用者の状況に応じて柔軟に退職を進めていくことに自信を持っています」 「ネーミングは関係ない」 一方、「モームリはネーミングセンスが良かった」と指摘する声も多い。 インフルエンサー・起業家の田端信太郎氏は「退職代行を使うようなブラック企業に勤める人って、偏差値48ぐらいがボリュームゾーンでしょう?『EXIT』(イグジット)って単語は、そう言う人たちの使う言葉じゃないですよ。だいたい、EXITって読めないのでは?そりゃ、『モームリ』のほうがキャッチーだわ」と、自説を述べた。 SNSでも「EXITというネーミングがダメだった」といった意見も数多くあった。これらの意見について、新野氏はこう振り返る。 「率直な感想は『わかってないな』と。確かにモームリのほうがキャッチーであることは認めますが、結果論だと思っています。ネーミング以上にモームリの知名度が広がったのは、YouTubeに退職代行の様子をアップしたことがきっかけです。 その動画がバズったことで、Google検索のトップに浮上し、SNSにも拡散され、各メディアでも取り上げられるようになりました。仮に退職代行EXITが先にYouTubeで同じことをやっていたとしたら、ネーミングは関係なく同じようにバズったと思いますよ」 後編記事『「辞めたくても辞められない社会を変えていく」…退職代行サービスの生みの親・EXIT創業者が目指す「日本人の新たな働き方」』では、「日本初の退職代行サービスを創業しようと思ったきっかけ」、「日本社会の労働環境の問題点」などについて、引き続き新野氏が語る。 【つづきを読む】「辞めたくても辞められない社会を変えていく」…退職代行サービスの生みの親・EXIT創業者が目指す「日本人の新たな働き方」