明治時代、イギリス人女性が「日光東照宮」を訪れて「圧倒された」もの

日光東照宮を訪れたイザベラ・バード 日本はいったい、世界のなかでどのような立ち位置を占めているのか。 世界情勢が混乱するなか、こうした問題について考える機会が増えたという人も多いかもしれません。 日本が世界に占める位置を、歴史的な視点をもって考えるうえで非常に役に立つのが、『イザベラ・バードの日本紀行』という本です。 イザベラ・バードは、1831年生まれのイギリス人。オーストラリアや朝鮮などさまざまな国を旅し、旅行作家となりました。 彼女は1878年、47歳のときに日本を訪れています。北海道をはじめ、いくつかの土地を旅しますが、その様子をあざやかにつづったのが、この『イザベラ・バードの日本紀行』なのです。 19世紀の後半、日本はどのような姿をしていたのか、それはイギリスという「文明国」「先進国」からやってきた女性の目にはどのように映ったのか、そこからは、明治日本とイギリスのどのような関係が見えるのか……本書はさまざまなことをおしえてくれます。 バードは日光東照宮を訪れます。その時の様子を、同書より引用します(読みやすさのため、改行を編集しています)。 〈仏岩の中腹斜面にある荘厳な墓地は767年、仏教の聖人勝道上人がここを訪れて、この山の古い神道の神は釈迦の発現にほかならないと宣言して以来聖なる地とされていますが、徳川家二代目将軍秀忠は1617年、ここに父親家康の遺骸を移しました。大葬儀でした。 勅使、天皇家の神官、京都の公家たち、何百人もの大名、武将、下級貴族がこの儀式に参列しました。盛装した僧侶の集団が三日かけて聖なる典礼文を一万回唱和し、家康は勅令により「東の光、偉大なる釈迦の化身」を意味する名[東照大権現]のもとに神格化されたのです。 その後天皇からは年に一度御幣を供えるために勅使が送られました。ふつうの御幣は細長く切った紙を棒につけたもので、どの神社でも見られますが、勅使が捧げたのは純金の御幣です。 想像だにしなかった美しさ ここに葬られているもうひとりの将軍は家光で、家康の有能な孫にあたります。家光は日光の伽藍と江戸の上野にある東叡山の寺院[寛永寺]を完成させました。徳川家将軍でもこのふたりほど重要ではない人々は上野と芝に埋葬されています。明治維新と仏教廃止とでもいうべきもの[廃仏棄釈]以来、家康の社は栄光ある典礼とそのみごとな仏式道具をすべて奪われてしまいました。 典礼に壮麗さを与えていた200人の僧侶もちりぢりに去り、6人いる神職が交代で詰めていますが、これは聖職者としての職務のためばかりではなく、入場券を売るためでもあります。 すべての街道、橋、並木道がこれらの神社に通じていますが、主たる参道は赤橋からところどころに石段のある広い道を行くものです。この広い道は両側に土を盛って石垣をめぐらしてあり、そこに杉が植えてあります。この道を上がった頂上に上質花崗岩製の鳥居があります。直径3フィート6インチ[約1メートル]の石柱でできたこの鳥居は高さが27フィート6インチ[約8.4メートル]あり、1618年に筑前の大名が自分の領地の採石場から切り出して奉納したものです。 鳥居の向こうには118基のどっしりした石の台に載ったすばらしい青銅製の灯篭が連なります。灯篭のひとつひとつに家康の神号と寄贈者の名──すべて大名──、寄贈に際しての銘が記されています。ひと塊の花崗岩をくりぬいてつくった聖水盤[御水舎]の屋根は20本の石の角柱で支えられています。 またすばらしい細工の青銅製の鐘と灯篭、枝つき燭台は朝鮮と琉球の王から贈られたものです。左手には高さ104フィート[約32メートル]の五重塔があり、細かな彫刻と金、極彩色の装飾が入っています。下の階層には十二支が描かれています。 鳥居から40ヤード[約36メートル]のところにある立派な石段を上がると、表門があります。黒地に天皇家の紋章の入った白い環形の幕が門の一部にかかっており、それは美しい門ですが、ここにゆっくりとどまって奥まったくぼみにある金の天犬[狛犬]や軒下の猛る虎の彫刻をじっくり眺めているひまはありません。なぜなら目に入った最初の内庭の壮観とその美しさに圧倒されてしまうのですから。 建物の様式も、その設備も、用いられているどの技法も、あるいはこのすべてに吹き込まれている思想も、なにもかもが日本的で、仁王門から垣間見える光景は、その美しさが形といい色といいこれまで想像だにしなかったものであることを教えてくれるのです。 整然と玉砂利の敷かれた内庭はあざやかな朱の板塀で囲んであり、それを取り囲むようにこの寺院の宝物が納めてある倉庫三棟、神が使うときに備えて飼ってある聖なるアルビノの馬三頭用の厩、素麺滝から給水される花崗岩の堂々たる水盤、仏教の経典完全一式が納めてあるびっしりと装飾を施した建物があります。ここから石段を上がると、前より小さな内庭に入り、そこには「驚くべき細工と装飾」の鐘楼、同じように美しい鼓楼、社、前に触れた枝つき燭台、鐘、灯篭、そして非常に大きな青銅製の灯篭が何基かあります。 陽明門のすばらしさ この内庭からさらに石段を上がったところにあるのが陽明門です。この門のすばらしさについては日に日に感嘆が増すばかりです。門を支える白い円柱の柱頭は首が朱塗りの大きなみごとな獣の頭となっており、これは架空の獣、麒麟を象ったものです。台輪の上には露台が突き出てぐるりとめぐっており、手すりは龍の頭が支えています。中央では二匹の白い龍が永遠の闘いを続けています。 その下には遊んでいる童子の群れが深い浮き彫りになっており、さらに極彩色に塗った組木の梁があって、中国の賢人たちが七つの集団になって表されています。高い屋根は首が緋色をした金の龍の頭で支えられています。門の内側には白く塗ったくぼみがあり、牡丹をデザインした優美な唐草模様が入っています。歩廊が左右に伸びており、その21ある仕切りの外壁は花鳥草木のみごとな彫刻で装飾されています。 この歩廊はまたべつの内庭の三方を囲んでいて、内庭の残りの一方は山腹に築かれた石垣となっています。右手には二棟の凝った建物があり、うち一棟には聖なる舞[神楽]を演じるときの舞台が、もう一棟には杉の香を焚くときの祭壇が納めてあります。左手にある建物は祭りの際に用いられる御輿が三台収納されています。内庭から内庭へと進むのは、壮麗さから壮麗さへと移動することです。これで最後の内庭だ、こちらの賞賛する能力にかかっていた圧迫もこれで終わりだと思うとうれしくなるほどです。 中央にあるのは聖なる囲い地で、一辺が150フィート[約46メートル]の上下に彩色の縁のある金色の格子垣で囲んであります。ここには拝殿があります。格子垣の下には草むらを背景にした鳥の群れの非常に大胆な彫刻があります。木彫で極彩色に塗られています。堂々たる門から杉を二重に植えた並木道、中庭、門、寺社、五重塔、青銅の大鐘、金を象眼した灯篭を眺めてきて、この最後の中庭を壮麗さにとまどいながら歩いていき、さらに金色の門をくぐってほの暗い金色の聖堂に入ります。ところがそこにあるのは円い金属の鏡が載った黒い漆塗りの台だけとは!〉 * さらに【つづき】〈〉では、 【つづきを読む】明治時代、日本に来たイギリス人女性が「徳川家康の墓」をみて驚いた「意外な理由」

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