デザイン制作企業がクリエイターの個展を主催？ 絵画の「個展」といえば、画家やクリエイターが自ら画廊を押さえ開くものというイメージがあるが、アート・コンサルティングやさまざまなデザイン制作を行うクリエイター集団企業がクリエイターのために開いた「個展」という新しい試みに注目が集まっている。 場所は渋谷・ヒカリエの８階、さまざまな展示が集合したスペース「渋谷ヒカリエ8/CUBE」。繊細なタッチと緻密な描き込み、多彩なモチーフなどの圧倒的なクオリティのイラストで人気を集めるチェリ子さんの初の作品集 『チェリ子画集 Capture-C』 に合わせて企画された個展が13日まで開催された。いったい普通の個展と何が違ったのか？ 「今回の特徴は、チェリ子さんによるライブドローイングやアクセスの良い一等地での開催はもちろんですが、さらにチェリ子さんのハイクオリティのイラストがデータではなく、選りすぐりの特別な手法で印刷・制作された《現物の作品》として、その場で購入可能なことではないかと思います。 作品ごとに趣向はさまざまで、数量限定ものの作品はもちろん、複製可能な作品でも特殊なインクを徹底的に分厚く重ねることで再現される色や光沢、あるいは実際の木を作品の一部に取り入れたものなど、チェリ子さんはもちろんのこと、デザイン会社主催だからできる視点・解像度のディレクションが入りつつ、その世界では知らぬ人のいない特殊加工を得意とする印刷業者さんなど、今回集まったチームだからこそ実現できるクリエイターがこだわり抜いた一品ばかりとなっています」（MORYARTI<モリアーティ>株式会社 アートディレクター・サカイマサトシさん） 「イラストの本来の魅力ももちろん、質感やディテールにこだわりぬいていることがご来場者の皆さまにも分かっていただけるのか、安価なものではないにも関わらず、限定ものはすべて売り切れてしまい、複製画のご注文も好評となっています」（MORYARTI株式会社 CEO・モリ ケントさん） クリエイターだからこそ実現できるクオリティ たしかに２点あった限定もののデジタル画は、40万円弱と高額にもかかわらず早速売り切れていた。なぜこうした座組みが実現したのだろうか？　MORYARTI株式会社 アートディレクター・サカイマサトシさんとも長年共闘関係にあるという、本個展にプロデュース・クリエイティブディレクションとして参加した山内俊幸さんに聞いた。 「我々として初めての試みだったこともあり、まずは利益を追いすぎず、作品のクオリティを上げることに注力しました。当然、採算のことは考える必要はありましたが、それ以上に作品の魅力が引き立つ印刷表現ができるように注力しています。加えてライブドローイングや映像展示を組み込み、個展としてお楽しみいただける下地を整えたうえで作品購入の機会を用意したことで、多くの方が満足しつつご購入いただけたのだと思います。 こうした取り組みは、MORYARTIさんのクリエイティブの力をベースに、チェリ子さん、印刷会社さん、自身が緊密に連携し、互いの良い点を増幅できる座組を組めたことで実現できました。 このように異なる分野の人が集うチームは、その調節や座組をイラストレーター、クリエイターさんが個人で構築するのは大変で、MORYARTIや自身のような第三者が入ることでサポートを行いつつ全体のクオリティを引き上げることができると思います。その成果が出た瞬間が、とても面白いですよね」（科学コミュニケーター・デザイナー山内俊幸さん） 展示期間中は、イラストレーターのチェリ子さんは開催中ずっと「ライブドローイング」を実演していた。そのライブ感は熱気を呼び、来場客によるチェリ子さんへのあいさつの行列が出来上がっていた。 この個展に参加してみて、チェリ子さんの手ごたえはどのようなものだったのだろうか？　憧れのクリエイターの作品作りの感動や距離感をより間近に感じられる、クリエイター集団によるこだわりの個展や展示会。今後の広がりにも期待したい。 開催は13日まで行われた。また今回の展示は、MORYARTI社のギャラリーで5/22〜5/28まで観覧できるので興味がある人は見に行ってみるといいだろう。 住所：東京都台東区松が谷3-8-5 MORYARTI+Lab 1F チェリ子 東京初個展『CaptureD-C』 チェリ子…フリーランスイラストレーター。活動の原点であるMVイラスト制作をはじめ、現在ではキャラクターデザインや装画など幅広いジャンルにて活動中。個性あふれる髪型や衣装、小物は繊細かつポップ。かわいいだけではないその世界からは物語を感じずにはいられない。代表作：和田たけあき(くらげP)『チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ！』MVイラスト　／　Ado『会いたくて』MVイラスト　／　『うたごえはミルフィーユ』（ポニーキャニオン×山中拓也／2025年7月テレビアニメ化）キャラクターデザイン　／　VoiSona『知声』キャラクターデザイン 【攻殻機動隊】「士郎正宗」とは何者なのか…「ポケベル主流の時代」から「あまりにも解像度の高い未来予想図」を描き続けてきた「謎めいた漫画家」