アメリカへのレアアースなどの全面禁輸 習近平氏が温めるもう一つの援軍

前編記事『反米SF映画まで作成して国民を鼓舞……!米中関税戦争で習近平が温める「秘策」』より続く。 習近平が頼りにする「もう一つの援軍」 中国は「共産党政権の支持率100%」を建て前にしているので、政権支持に関する世論調査は存在しないが、肌感覚で言えば、習近平政権の支持率はにわかに上がっている。その「最大の功労者」がトランプ大統領なのだから、皮肉なものだ。 中国語には、「1000の敵を殺せば自軍も800の損失を出す」(殺敵一千、自損八百)という言葉がある。つまりは互いに消耗戦となるわけだが、中国は前述のように「正義の拳」を振り上げて、短期的には突き進んでいけると見ている。強権国家なので、「国民の不満」を抑え込みやすいからだ。 そのため、アメリカが「自壊」し、トランプ政権が先に音を上げるのを待つ戦略を取っている。だがもしもさらに対立がエスカレートしていった場合には、次のような手を繰り出すかもしれない。 ・アメリカへのレアアースなどの全面禁輸 ・アメリカ国債のさらなる投げ売り ・中国国内のアメリカ製品の不買運動とアメリカ系企業の放逐 一方で、アメリカからの次のような痛打が返ってくることも恐れている。 ・アメリカが持つ知的財産権の使用禁止 ・アメリカで上場する中国系企業約380社の追放 ・香港ドルのドルペッグ(米ドルとの固定為替レート)廃止 中国側は、「奉陪到底」と凄む一方で、「大門敞開」(大門を開く)とも唱えている。中長期戦になれば、やはり中国の方が脆いので、どこかで「互いに矛を収める」条件を模索していくことになるだろう。 その際、中国側が密かに狙っているのが、貿易戦争に台湾問題をリンクさせる「ビッグ・ディール」である。つまり、貿易問題では最大限トランプ政権に妥協する代わりに、アメリカに台湾統一を黙認させようというものだ。 だがこれは、たとえトランプ大統領がOKを出しても、アメリカ国内で強烈な反対が巻き起こるだろう。かつ、台湾の半導体産業をどうするかという問題も起こってくるので、実現性には乏しい。 中国政府が「民意」の他に、もう一つ援軍につけようとしているのが、周辺諸国である。4月8日と9日、習主席が主な幹部を全員集結させ、中央周辺工作会議を開催。野太い声を響かせた。 「人類運命共同体の御旗を高く掲げ、平和・安寧・繁栄・美麗・友好の『5大ガーデン』を共同の原景とし、周辺国家と手を携えて、ともに麗しい未来を創っていくのだ」 カギを握るのは日本の動向 ここから、周辺諸国に対する新たな「スマイル(作り笑い?)外交」が始まった。習主席自ら、4月14日から18日まで、ベトナム・マレーシア・カンボジアを歴訪。3ヵ国すべてで、共同声明に中国との「運命共同体」を盛り込んだ。 中国にとって、次なるターゲットは日本と韓国である。韓国は、6月3日の大統領選挙で、「超」がつく親中派の李在明「共に民主党」前代表が勝利すれば自ずと中国側に寄ってくると期待している。 問題は日本である。端的に言って中国側は、「石破茂政権は信頼するに足る相手なのか」と逡巡しているのだ。 石破首相が、習主席のかつてのライバル・安倍晋三元首相の「政敵」であること、昨年11月の日中首脳会談で自分を「(日中国交正常化を断行した)田中角栄元首相の弟子」と紹介したことなどから、当初、中国は石破政権に好印象を抱いていた。 ところが、今年2月7日にホワイトハウスで行った日米首脳会談後の共同声明で、「両首脳は、国際機関への台湾の意味ある参加への支持を表明した」と明記したことで、愕然とする。さらに石破首相が、4月30日にフィリピン沿岸警備隊(PCG)を視察し、南シナ海の領有権を巡って中国と激しく対立するフィリピンを「準同盟国」のように扱ったことで、疑心暗鬼は増した。 5月3日、尖閣諸島周辺で中国の海警船が艦戴ヘリコプターを発艦させ領空を侵犯して大騒ぎになったが、その背景にはこうした中国側の「日本不信」がある。さらに中国は、7月の参院選で自民党が大敗して、石破政権は崩壊する可能性があるとも睨んでいる。 始まったばかりの第2次米中貿易戦争。トランプが倒れるのが先か、習近平が音を上げるのが先か。日本の動向も、その勝負の行方にかかわってくることを忘れてはならない。 取材・文:近藤大介(本誌特別編集委員) 「週刊現代」2025年5月26日号より 【はじめから読む】反米SF映画まで作成して国民を鼓舞……!米中関税戦争で習近平が温める「秘策」

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