浅草、銀座が歩きにくいのは「人の多さ」だけが理由じゃない…歩行者の特徴からわかった「3つの原因」

街と一口に言っても、その表情はさまざまだ。歴史を感じる古い町並みもあれば、高層ビルが建ち並ぶ近代的なエリアもある。観光客でにぎわう場所もあれば、昔ながらの文化が根付く下町もある。 近年では、健康や環境への配慮から「歩きやすい街」作りが注目されており、段差の解消や舗装の整備といったバリアフリーの取り組みが各地で進んでいる。しかし、本当に「歩きやすい街」とは、そうした物理的な条件だけで決まるものなのだろうか。 そう疑問を抱くようになったのは、筆者自身が「眼瞼痙攣(がんけんけいれん)」という病気を抱えているからだ。自分の意思に反してまぶたが閉じたり、目の周りが痙攣したりするこの病気は光にも敏感で、まぶしさのあまり目を開けていられなくなることもある。筆者は、目を守るために遮光眼鏡をかけ、転倒防止用に杖を使って街を歩いている。 すると、段差や道幅といったインフラよりも、街の構造や人の流れ、周囲から向けられる視線が「歩きやすさ」に深く関わっているのではないかと感じるようになった。 本稿では、その問いをもとに、筆者が街を歩きながら感じた「歩きやすい街」に共通する特徴について考察する。 中途半端な視界から見えるもの 筆者が常用している遮光眼鏡は、光の成分のうち、まぶしさの原因となる部分だけをカットし、それ以外の光は通すように作られた特殊な加工がなされている。レンズが濃く、いわゆる「サングラス」に近い見た目と性質を持つ。これを通して見る世界は、光のコントラストが鈍くなり、明るさの境界や細かな凹凸が見えにくくなる。 夜間に歩くと、視界がさらに真っ暗になる。例えば、普段は特に何も考えずに歩いていた歩道でも、植え込みから伸びた雑草が障害物のように見えてしまい、思わず立ち止まってしまったことがある。 こうした経験を重ねる中で、これまで気にも留めていなかった歩道の段差や、照明の位置、人の流れといった「街の作り方」に意識が向くようになった。ここからは、筆者が街を歩きながら感じた「歩きにくさの理由」を、3つの観点から整理してみたい。 東京駅よりも銀座、浅草のほうが歩きにくい 街を歩いていると、場所によって歩きやすさに差があることに気付く。中でも、浅草や銀座、上野などの観光地では、特に強い歩きにくさを感じた。それらの場所では人が多いのはもちろんだが、それ以上に気になったのは「どこを見て歩いているか」という点だ。 観光地では歩行者たちが建物や看板、店頭のディスプレイなどに視線を向けている。そのため、周囲の人の存在に気付きにくく、立ち止まったり急に振り向いたり、広がって歩いたりといった動きが自然と生まれる。これらの行動は、視界が不安定な筆者にとっては特に不意打ちのように感じられ、衝突のリスクが高まる。 一方、同じように混雑している東京駅の構内では、不思議とそこまでストレスを感じなかった。では何が違うのか? その大きな要因は、「人の目的」の違いにある。東京駅、特に構内を歩くのは、「移動」そのものを目的としている人がほとんどだ。つまり、人々は進行方向や周囲の動きに自然と注意を払っている。 その結果、他人の存在を察知して避ける・譲るといった行動が無意識に取られる。一方で、観光地では「見て楽しむ」ことが目的となるため、視線は周囲の人ではなく景観に向けられ、結果として接触や衝突が起きやすくなる。 また、外国人観光客とすれ違うとき、視線の置き方や歩くときの間合いなどに文化的な違いを感じることがある。歩きにくさの背景には、単なる人の多さではなく、「その場所がどのような目的で使われているか」「視線がどこに向いているか」といった“人の意識のベクトル”の違いが関係しているのだと実感した。 歩きやすい街を作るのは「構造」と「人の秩序」 歩きやすさを決める要素は、人の目的や視線だけではない。次に気になったのが、「街の構造」と「人の流れ」だ。歩きやすさには、街の設計や空間の使われ方、そして人の流れに秩序があるかどうかも大きく関係している。 例えば、日本橋や虎ノ門のようなオフィス街では、道路の舗装が整っており段差も少なく、道幅にもゆとりがある。歩行者の動きを遮るものはないので、その流れには一定のリズムがある。 そのおかげで不意な動きや立ち止まりが少なく、視界が不安定な中でも安心して歩くことができる。 前述のとおり、東京駅も同じように人が多い場所でありながら、非常に歩きやすいと感じた場所の一つだ。 構内には進行方向を示す看板や「左側通行」の表示が随所にあり、人の流れがきちんと整理されている。その流れに乗るだけで自然と移動でき、迷うことも少なく、他人とぶつかるリスクも減る。秩序だった動線は、視覚的な安心感だけでなく、身体的な安全性も生み出していた。 これに対して、観光地はそこにいる多くの人たちにとって「非日常」な場所なので、人々の行動がより予測できないものになる。立ち止まる、写真を撮る、振り返る、広がって歩く……といった動きが頻発し、空間共有の意識が薄れやすい。その結果、視界の不安定な歩行者にとっては、歩く難易度がぐっと上がる。 このように「人と空間の関係性」に秩序があるかどうかは、歩きやすさを左右する大きな要因だと感じる。構造(段差の少なさや案内の分かりやすさ)と、人の動きの秩序(互いに避ける意識や流れを乱さない行動)の両方が整っている街では、物理的にも心理的にも歩くことが楽になる。 街を歩いているときに「人の存在に気づいてもらえているかどうか」、つまり他者と空間を共有しているという意識があるかどうかが、筆者にとって街の「歩きやすさ」を測る指標の一つになった。 「他者からの視線」が歩きやすさを作る 3つ目に意識したのは、「自分に向けられる視線や反応」だ。 どの街を歩く際も同じように遮光眼鏡と杖を使っているが、感じられる空気や周囲の視線は街によって微妙に異なる。ある場所ではそれが思いやりや配慮として感じられ、また別の場所ではどこか警戒されたり、不審がられたりしているように思うこともある。そうした違いは、街の雰囲気や人々の関係性に左右されていると感じている。 例えば、観光地である浅草や上野では、すれ違う人との接点が一時的で、お互いが誰が誰か分からない「匿名性」の中で歩くことになる。観光客同士はお互いに視線を交わすことも少なく、不意にぶつかりそうになることも多い。 その一方で、中心部から少し離れた住宅地に入ると、すれ違う人からさりげなく道を譲ってもらえる場面が増える。 その背景には、住宅街に「住人同士はある程度顔見知り」という前提があるからだろう。だからこそ、よそ者の存在は目立ちやすく、「見られる」ことも多くなる。筆者のように「サングラス+杖」という外見で歩いていると、注目を集める場面も少なくない。ジロジロと不審がられることもしばしばだ。 もちろんその一方で、見られるからこそ、配慮のまなざしに出会うこともある。道を譲ってもらう、大回りして避けてもらう。そうした小さな行為の中に、「気にかけてもらっている」という実感が生まれるのも事実だ。 このように、街の歩きやすさには人の多さや構造だけでなく、「その場にいる人々がどのような関係性を持っているか」も深く関わっている。 無関心で匿名性が高い街では、見えていても気付かれず、安心して歩くことが難しくなる。一方、顔見知りで構成されていたり、ある程度共有された振る舞いや服装がある場所では、「見られる」ことが増え、結果、安心にもつながる。人の視線は繊細な存在だが、その質が歩きやすさに少なからず影響を与えているのだ。 「歩きやすさ」は街の構造だけで決まらない 歩きやすい街と歩きにくい街の間にどのような違いがあるのか、大きく3つの特徴について話してきた。まず、観光地などで顕著に現れる「歩く目的のズレ」。次に、街の設計や人の流れといった「構造と秩序」の問題。そして最後に、人から向けられる視線やふるまいといった「まなざしのあり方」だ。 もちろん、段差の少なさや道幅、舗装の状態といった物理的な整備が歩きやすさに直結するのは間違いない。しかし、それ以上に実感するのは「他者とどのように空間を共有しているか」という人の意識や行動の違いだ。避けてくれるか、立ち止まってくれるか、視線を向けてくれるか。そういった些細なふるまいの積み重ねが、「歩きやすい街」と「歩きにくい街」を分けているように思う。 これからもさまざまな街を歩く中で、「歩きやすさ」とは何か、「やさしい街」とはどのような場所かを、「見えるけれど見えにくい」グレーゾーンの立場から記録していきたい。 【関連記事】『名古屋だけが観光地として「物足りない」のはなぜ…「充実し過ぎる街」が抱える問題点』 【関連記事】名古屋だけが観光地として「物足りない」のはなぜ…「充実し過ぎる街」が抱える問題点

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