認知症の人は減り始めた! 認知症に関しては従来、患者数が急増しているというニュースをよく耳にしていました。2015年に発表された「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(研究代表者:二宮利治・九州大学教授)の報告がその根拠となっています(以下、第一次二宮報告)。 この報告では、2012年に462万人だった認知症高齢者数が、2020年には602万人に増え、さらに2030年には744万人、2040年には802万人に達し、高齢者の3人に1人が認知症になると予測されました。高齢者が増えることにともない、認知症患者も増えるだろうとは思っていましたが、その増加がこれほど急激であるという予想には驚きました。私たちはいつのまにか「お年寄りが増えたら認知症も増えるのは仕方ないことだ」と思い込むようになってしまいました。 それから10年超が経過した今、認知症は本当に予想どおりに増加したのでしょうか? 意外にも、認知症の人は減少していたのです。65歳以上の高齢者における認知症の有病率は、2012年から2022年の10年間で約3%低下しました。高齢者人口は524万人増加したにもかかわらず、認知症高齢者の数は462万人(2012年)から443万人(2022年)へと、19万人減少したのです(図【高齢者の認知症有病率と認知症者数の変化】)。 この研究結果は、2024年5月に発表された「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(研究代表者:二宮利治教授)での報告(以下、第二次二宮報告)で明らかになりました。第一次報告で認知症の大幅な増加を予測して国民を驚かせた二宮教授は、第二次報告で認知症の減少傾向を示し、ふたたび驚きを与えました。 では、今後の認知症の動向はどうなっていくのでしょうか。 今後の認知症の動向 第二次二宮報告によれば、高齢者人口の増加にともない、認知症の数もゆるやかに増加していくと予測されています。具体的には、2025年に471万人、2030年に523万人、2040年に584万人となる見込みです(図【認知症の人の将来予測】)。 第一次二宮報告と比べると、増加数は約200万人少なく、かなりおだやかな増加が予想されるといえるでしょう。 これに対し、「認知症の人は徐々に減少していく」とする研究結果も注目されています。東京大学大学院医学系研究科の笠島めぐみ氏(現・叡啓大学)らが2022年に発表した論文によると、日本の認知症患者数は2016年時点で510万人と推計され、その後は徐々に減少し、2043年には465万人になるとされています(図【認知症の人の将来予測】)。 欧米の研究でも、「認知症は減り始めている」「認知症の有病率や発症率は下がっている」という論文が相次いで発表されています。ミシガン大学のランゲらは、65歳以上の約2万人を対象にした調査で、2012年の認知症有病率が8.8%であり、2000年の11.6%から低下していることを明らかにしました(2017年)。 また、ハーバード大学のウォルタースらは、米国とヨーロッパの約5万人のデータを基に、1988年から約30年間の認知症発症率(新たに認知症になる人の割合)を検討し、「認知症の発症率は10年ごとに13%減少していた」と報告しています(2020年)。 将来、認知症が増えるのか減るのか、まだ確定的な結論は出ていませんが、急激な増加は止まった可能性が高いと考えられます。 続いては… 研究者も驚愕…脳を解剖して判明した、実は「充実した教育」が認知症になりにくくする説 *こちらの記事は、5月25日(日)の公開予定です。 本書の引用元 『認知症とはどのような病気か』 では、「脳の機能低下」がなぜ起こり、それがどう認知症につながるのかを、さらに詳しく解説しています。 テレビの音を聴くだけ&副作用なしで「認知症を予防」最新脳科学が生んだ「ボケ封じスピーカー」の正体