なぜ政治家は失言するのか?失言対応で露呈した石破政権の危機管理能力

「天皇を中心とする神の国」「女性は産む機械」「原爆はしょうがない」… 【写真で見る】永田町に伝わる失言防止の“極意” 過去には強烈な閣僚の失言があった。そして今回「コメを買ったことがない」である。 一目見て失言だとわかる過去の失言と違い、“普通の”言葉である。ただ「立場のある人」が「どういうタイミング」で発言するかによって、政権に大きなダメージを与えるほどの失言へと変わる。 コメの価格が高騰する最中、政府内でも「内容もタイミングも最悪だった」と酷評される江藤前農水大臣の失言だった。なぜ政治家たちは失言を繰り返してしまうのか。さらに今回、江藤氏の失言は与野党双方にこれまでと違う“教訓”を与えることとなった。 記者の目の前で失言 わすか2時間の辞任劇 まずは過去の失言と当時の政権の対応を比較してみる。 2017年4月25日、二階派の政治資金パーティーで同派に所属していた今村復興大臣(当時)が講演の中で次のような発言をした。二階派を担当していた私は当時現場にいて目の前でそれを聞いていた。 「社会資本の毀損も25兆円という数字もあります。これはまだ東北でですねあっちの方だったら良かったのでこれがもっと首都圏に近かったりすると莫大な甚大な被害があった」 講演の中で“さらっと”発言したため、私は一瞬何が起こったのか分からなかった。この発言直後に、記者や聴衆がざわつき出した。発言した今村氏本人ですら何が失言だったかわからない様子だった。 私はすぐに上司の与党キャップに電話をし、夕方のニュースの時間帯だったのですぐニュースにしようという話になった。驚いたのはその後の政権の対応だった。 当時の安倍総理が今村氏の発言後に登壇し、挨拶冒頭に「東北の方々を傷つける極めて不適切な発言があった。おわび申し上げる」と謝罪したのだった。今村氏も記者の前で釈明・謝罪会見を行い、パーティー会場をあとにしたが、その後ただちに更迭された。発言後わずか2時間のスピード辞任だった。夕方のニュースで発言の一報を入れて、夜のニュースではもう後任が決まっていたというスピード感だった。 永田町に伝わる気をつけるべき「6つの『た』」 今村氏が辞任した2日後、同氏が所属する二階派の定例会では、本人不在で重苦しい雰囲気の中、同派最高顧問の伊吹文明元衆院議長が所属議員に「ちょっと一呼吸入れて考えればそうおかしなことは起こらない」と話し、発言するときに特に注意すべき以下の「6つの『た』」を訓示した。これが今でも永田町の語り草となっている。 (1)立場をわきまえること (2)正しいと思っていることを話すとき (3)多人数の場で話すとき (4)旅先で話すとき (5)他人の批判をするとき (6)例え話をするとき 「コメを買ったことがない」という江藤前農水大臣の発言も、旅先(出張先)での、多人数の場で、大臣という立場をわきまえなかったため、失言となった。さらに7つめの「た」を加えるならば、米価が高騰しその対策の最中という「タイミング」も最悪だった。 今回の江藤氏の失言について、ある二階派の閣僚経験者は「江藤さんも6つの『た』に気をつけていればこんなことにはならなかったのに」と話すなど、いまも語り継がれている。 政治家が失言するのはほとんどが「政治資金パーティー」での「ウケ狙い」や「リップサービス」だ。江藤氏も「ウケを狙った」と話していたが結果は失言、そして次の例はリップサービスのつもりだったのだろう。 「復興絡みの失言は即アウト」命取りとなる失言とは? 今村氏の辞任から2年後の2019年4月10日、再び二階派所属の桜田オリンピック・パラリンピック担当大臣(当時)が自民党議員でのパーティーでの挨拶で、議員を持ち上げるつもりで「復興以上に大事なのが同僚議員だ」と発言した。また東日本大震災の復興に関連する失言だった。 今村氏の失言の時と同様、安倍政権の対応は迅速だった。午後6時過ぎの発言だったが、午後8時過ぎには菅官房長官(当時)が桜田大臣を呼び出し、発言の内容を確認、更迭の判断をしている。こちらも発言して2時間後に辞任となった。当時、官邸幹部は「復興がらみの失言は即アウトだ。安倍内閣は全大臣が復興大臣ということで最優先にしてやってるんだから」と更迭理由を明かしている。 当時はその他にも理由があった。 危機意識の背景には、この年の夏の参院選挙の影響を考えたからだった。というのも第1次安倍政権は閣僚の相次ぐ辞任に見舞われ参院選で大敗し退陣、辞任の連鎖は食い止めなければいけないという焦りがあった。 “超異例”官房長官が会見で1分半沈黙 石破内閣の危機管理は? 夏の参議院選挙が近いという状況は19年と同じだが、石破総理は今回の江藤大臣の更迭に3日かかっている。上記の安倍内閣の2人の失言では、更迭までわずか2時間ということと比較すれば、失言に対する内閣の危機管理能力や意識が大きく違う。 安倍総理は菅官房長官、杉田官房副長官、今井総理秘書官など危機管理に重厚な布陣を敷いたが、いまの石破内閣の危機管理能力がわかる象徴的な出来事があった。 安倍政権であれば、閣僚がどこかで失言すればただちに官邸に報告があがり、その日のうちに辞任させるかどうか判断しただろう。 ところが今回、18日に江藤氏の発言があったにもかかわらず、翌19日の官房長官会見でそのことを記者に問われ、およそ1分半沈黙した。記者の質問が想定されていなかったため、答弁できず秘書官からのメモを待っていたのだ。長い沈黙の末、書かれたメモを読み上げた。 「お尋ねの報道は承知しておりますが、江藤大臣の発言の詳細について承知をしていないため、政府としてコメントすることは、差し控えたと思います」 つまり報道は承知をしていたにもかかわらず、詳細を把握せず、何も対応もしていなかったということだった。その日の午後、釈明に追われた江藤大臣は、その時点で総理や官房長官から注意もなかったと明かしている。事態の深刻さが官邸内で周知されず、結果、対応が後手に回った。石破総理は今国会でも高額療養費制度の見直しでも対応が二転三転し、判断の遅れを批判された。今回の失言への対応の遅れというのは、すべての行政への対応の遅れに繋がりかねない問題ではないかと思う。 結束すれば閣僚のクビも…野党が得た“成功体験” 石破総理が一度、江藤大臣を続投させようとしたものの更迭せざるを得なくなった理由は大きく2つある。1つは総理から叱責されたあとも、発言について「宮崎弁的な言い方だった」などと江藤氏が緊張感のない答弁を繰り返したことで総理の判断がかわったこと。2つめは立憲、維新、国民民主、共産、れいわの野党5党が一致して大臣の更迭を要求したことだ。これで潮目がかわった。5党の議席数は231でほかの野党が2人加わっただけで、衆院で過半数(233)を超える。大臣不信任決議案が提出されれば容易に可決される環境が整ったのだった。 当初、国民民主の玉木雄一郎代表が「辞める話ではないがちゃんと仕事をして欲しい」と話していただけに、与党側には油断があったのかも知れない。 石破政権以前は、与党が多数を占めていたため、不信任決議案など野党の“抵抗カード”は半ば、後半国会の風物詩となっていて与党側は粛々と否決して終わりだったが、「少数与党」となりその状況は大きく変化した。 今回、江藤大臣の不信任案提出を“ちらつかせる”ことで辞任につながったという側面が大きい。野党にとっては“結束すれば閣僚を辞めさせることができる”という成功体験となった。これはつまり、今後、内閣不信任決議案を野党が同じように結束して出せば可決できるという試金石となったといえる。会期末まで残り1か月、石破内閣はより緊迫した状況での政権運営を強いられることになった。 TBS政治部デスク 室井祐作

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