『山の手空襲から80年』火の海となった表参道を生き抜いた15歳・・・今も見つからない父への思い【戦後80年プロジェクト】

1945年5月24日から26日にかけて、東京は山の手空襲といわれる大規模な空襲に見舞われました。80年前、15歳で山の手空襲を経験し、凄絶な一夜を生き抜いた男性に話を聞きました。 ■1945年5月25日夜“火の海”となった表参道 山の手空襲は赤坂や青山などの“東京の高台”とそれまでの空襲で焼け残った街を標的にしたとされ、6900トンあまりの焼夷弾が投下されたといわれています。犠牲の数は約4000人。特に被害が大きかった5月25日の夜、表参道は炎に包まれました。 泉宏さん「空襲のところって一斉に燃えるものですから。火事場の中で逃げ回っているようなものですよね」 そう話すのは、当時表参道からほど近い場所に住んでいた泉宏さん(95)。15歳だった泉さんは母と姉を先に逃がし、家屋を守るために父と家に残ったといいます。 ■当時の状況を語る泉宏さん 泉宏さん(95) 「父と2人で残っていて、それ(焼夷弾)が落ちてきたら火を消そうと言って。そのうちに父はね、在郷軍人会の副団長とか町会長をやってたんですよ。だから町会の様子を見に行くと出て行ったんですね。その間に僕一人でいたわけです。そのうちに焼夷弾が落ちてきて。雨が降ったみたいにサァーって音がして、そのうちに今度トタン板をたたくようにトントントンと音がする。するとそこでパッパッと火を吹く。周りにそういうのが出てきて。そうしたら、やはり恐怖感でしょうね。本能的に逃げちゃったんです。それが親父と生き別れになって、それっきりなんです」 ■火の手にはばまれながらも生き抜いた泉さん 泉さんは広い場所に逃げようと、まず表参道に向かいました。しかし、いたるところで火の手があがっていたといいます。 泉宏さん 「焼け落ちると一瞬火がなくなるわけですよ。そのすきにぱーっと駆け抜けるんです。行った先が火だったらアウト。そんなことも考えないでバッと本能的に逃げたのがうまくいっちゃったわけね。それで、何とか表参道まで来たんです」 走り回った先でたどり着いた倉庫に避難した泉さん。倉庫が燃え始めると、今度は空き地に身を寄せたといいます。 泉宏さん 「たまたま運がいいんです。(倉庫を)出た場所が空き地になっていて。あの頃はブロックごとに強制疎開って建物を壊して空き地にしちゃうんですよ。その空き地がたまたまあって。そこにみんな逃げ込んで。空き地にしたところはみんなが家庭菜園にしていたから土がわりあい柔らかいの。それを少し掘ってそこに体沈めて。おそらく朝の5時か6時ごろですね。夜が明けて、自分たちが助かったんだと気がついて」 ■一夜で変わり果てた表参道 一晩、爆撃を受けた街は、遠くが見渡せるほどの焼け野原になっていたといいます。 泉宏さん 「ともかく自分の家がどうなるかって見に行かなきゃ。それでこの道(表参道)を歩いていった。そうしたら一緒に逃げたと思われる人が四つんばいのまんまで死んでいたのね」 交差点近くの灯籠の周りや、マンホールの中。銀行の前に山のように重なった人々など、表参道には犠牲になった人があふれていたといいます。 泉宏さん 「髪の毛なんかみんな燃えちゃうんですよね。着てるものもあの頃、化学繊維でね。スフといったような安物の服なんですよ。そんなのが溶けちゃう。燃えちゃったというか溶けちゃったというかね。裸の状態になっちゃう。だから(遺体は)マネキン人形がいるみたいな」 ■見つからない父・・・複雑な心境で捜した息子の思い 無事に母と姉と再会した泉さんは、はぐれた父を捜しに向かいました。 泉宏さん 「僕と姉は父を捜そうと。それでずっと道なりに歩いたんだけど、真っ黒こげでみんな。黒こげの死体ばかりでわからないんですよ」 手がかりがないなか、父を見かけたという人に出会うも—。 「近くに病院があるんですけど『そこのところでお会いしましたよ』っていうのが情報として最後。結局親父は見つからないままでね。そのときに思ったのはね、これは不思議な気持ちなんだけど。自分の父を“死体でもいいから見つけなきゃいかん”という気持ちは強いんだけど、その半面“見つからないでくれないかな”って。真っ黒こげの、あの無残な姿を見たくないなと」 普段は厳しくも、末っ子の泉さんをとてもかわいがってくれたという優しい父。泉さんは5月25日を父の命日として受け止めました。 ■山の手空襲を生き抜いた泉さんが語る平和への思い 辛い体験を思い出したくないと、一時は当時の話を控えていた泉さん。しかし知人の『俺たちの世代が語らないと後の人につながらない。俺たちにはしゃべる義務がある』という言葉を聞いて以来、自身の体験を語り続けてきたといいます。 泉宏さん 「経験の仕方で違うから簡単に戦争ってこういうもんだよと言えないんですよね。ただ言えるのは、戦争なんていうのは人を殺すことと物が壊れることと、全く生産的なものは何もないわけですね。だからいま戦後80年というけど、この平和を大事にしなきゃいかんということですよね」 山の手空襲から、80年。表参道では5月25日(日)午後1時30分から追悼碑への献花がおこなわれます。

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