虎の子の2000万円は何とか確保したけれど、いざ定年してみると、それをどう活用したらよいかわからない。リスクを取るのは嫌い。かといって富裕層ほどの蓄えもない我が家の運用方針は、郵便貯金か銀行定期預金、せいぜい国債どまりで、必要に応じてそれを取り崩す……。そんな方、案外多いだろう。 それでは、「元本をなるべく減らさずに、毎月一定の金額を、これまでのお給料と同じように手にできる」、そんな方法があったとしたら…。 投資嫌い、安全第一主義の方へ向けて、実体験・具体例をもとに伝授する話題の新刊『分配金生活』(梅森浩一著)より、一部を抜粋してお届けする。 『「自分は投資に向いてない」「石橋を叩いても渡らない」「面倒くさいことが嫌い」…そんな人にこそ向いている「無理のない分配金生活」』より続く。 分配金「受け取り」生活 あまり人付き合いのよくない私にとって、年下ながらかなりの投資オタクである「キムラ君」(仮名)の存在は、いわば「メンター」といったものでしょうか。 会えば熱心に「昨晩の米国CPI(消費者物価指数)の結果」から始まり、日米の金利差から個別銘柄にいたるまで、熱く語り続ける姿を見るにつけ、「彼は本当に投資が好きなんだな〜」と再認識させられます。 そんな彼の目に、私は、ひと言でいえば、「投資、儲け話の類(たぐい)に淡白すぎる人」と映るようです。 実際、私が定年を迎え、しかもその後の再就職活動がうまくいかずに悩んでいる姿を見かねたからでしょうか、「何かアドバイスしましょうか?」と、彼の方から助け舟を出してくれたのが、本書の始まりなのです。 その当時、私が置かれていた状況はというと、定年の前年の現役時代のフルの年収ベースで計算された「後追いでやってくる住民税の支払い」に始まり、これまた無職だろうがなんだろうが、こちらの懐(ふところ)具合にはお構いなしに請求される「健康保険料」などの各種社会保険料、固定資産税にマンションの管理費、各種ローンの支払いなど、文字通り情け容赦のない「支出のオンパレード」に四苦八苦していたところでした。 そんな私を助けてくれた彼のアドバイスというのが、ある投資信託商品で過去数年間にわたって安定して支払われている、毎月支払い型の分配金を、「再投資ではなく受け取り型に変更する」というものだったのです。 またそれと同時に、その分配金を使って、毎月のキャッシュフローを安定化してみたらどうか、というものでした。 具体的には、私の定年退職時である2023年1月、「新NISA」の導入が翌年1月からになるのが決まって右肩上がりで絶好調だった「日本株への投資」でもなければ、「金」でも「仮想通貨」でも、もちろん「国債」でもなく、毎月決まってほぼ同じ日に、ほぼ同じ額を手にすることができる、「毎月分配型の投資信託」だったのです。 具体的な商品名は後述しますが、世界中の先進国の優良企業に投資をする金融商品でした。 その彼のアドバイスがあったからこそ、まさにピカピカの「定年1年生」であった当時の私が抱えていた経済的な悩みの多くを、見事に解決できたという経験があります。 「再投資」ではなく「受け取る」、増やしながら減らす、という発想がなかった ちなみに、ある人たちにとっては不思議に思われるかもしれませんが、それまでの私の投資行動には、「分配金を受け取る」という発想が、全くありませんでした。 だって考えてもみてください。「投資」とは、そもそも「増やす」ことを前提としているのです。ですから分配金が出たら、その分は考えもせず「再投資」に振り向けて、少しでも金融資産を増やす、という以外の選択をしたことがなかったのです。 もちろん、知識として、なんとなく「分配金の受け取り」という選択肢も存在することは知っていました。 ですが、長年「増やすことしか考えてこなかった投資家」にとって、この増やさずに、むしろ「意図的に上手に減らす」という発想自体、そもそも存在していませんでした。そもそも、そんな「受け取り」だなんて、「年寄り」が「老後」にやるものだよ、としか思っていませんでした。 ええ、何より自分自身が、その「年寄り」で、「老後」に入っているにもかかわらず、自分ではとんとその事実に気づけなかった——おそらく気づきたくなかったのだと、今にして思います。 それが、キムラ君からの指摘を受けて、「目からウロコが落ちる」思いで、ようやく現在の、「増やしながら減らす」、そしてそれと年金とのあわせ技で、老後を乗り切ることができる、という解決策にたどり着くことができたというのが、これまでの経緯なのです。 それと同時に、「待てよ、世の中には私と同じような悩みを抱えている(もしくは「気づいていない」)であろう定年1年生、および予備軍ならびに既卒の年金生活者は少なくないはずだし、これからだって続々と誕生してくるはずだけど、いったい彼らにとって、本当に役に立つ具体的な情報ってあるのだろうか?」と、そう考え始めたら、キムラ君のアイデアを私が独り占めするのではなく、私同様に不安を抱える「みなさん」と共有したいと思うようになり、本書を書き始めることになったのです。 そんな私の笑い話や動機はさておき、それでは実際にどうやってきたのかについて、その詳細をご説明するのに先立って、簡単に必要な初期設定のやり方を、特に大切な部分に限ってここに箇条書きにしてみます。 毎月分配金自動受け取りのための「初期設定」の仕方 (1)まず、証券口座を開設しましょう。おススメはネット証券口座ですが、その理由は投資信託商品を購入するにあたって、「ノーロード」(買い付け手数料が無料)である商品ラインナップが豊富なこと、そして何より、近くに有人の証券会社がないところにお住まいの方にとっても便利であることなどで、今や一択といってもいいと思います。 (2)その際、もしまだ「新NISA」を開始していなかった場合には、口座の開設と同時にその申し込みもしておきましょう。ただ口座開設にあたっては、おそらくデフォルトになっている「特定口座」での開設、つまり総合課税の対象となる一般口座ではなく、分離課税(後述)の対象となる特定口座で開設するのが便利です。 (3)さて、口座の開設が終了したら、実際の投資信託商品の購入に備えて、必要な資金を、「銀行口座」から今回開設した「証券口座」へと送金しておきましょう。ちなみに、大きな金額、たとえば1000万円を超える送金は、1日の限度額を超えてしまいできないケースがありますから、その場合には、余裕を持って、何日かに分けて送金します。 (4)ここまでであなたは、いつでも投資信託商品を購入する準備が整ったわけですが、実際に商品を購入するにあたって大切な前提は、「分配金は毎月受け取る」(つまり複利を狙ったものではなく、あくまでもその月々で賢く受け取る)のが目的ですから、購入する際には「「再投資」ではなく必ず「受け取り」を選択する」ことを忘れないでください。 (5)さらにその「受け取り」を選択して、毎月もらうつもりの分配金を、これまでの給与振り込みと同じように毎月自動的に振り込んでもらうために、「自動振込サービス」の申し込みも忘れずにしておきましょう。 これら(1)〜(5)の作業は、いわば「分配金自動受け取り生活」のための初期設定のようなものですから、後述する具体的な投資商品を購入するまでに、余裕を持って行なっておくことが大切です。 ちなみに、投資信託を購入する際に、注意すべき「株式購入との違い」があるとすると、それは「購入するタイミングを自分では選べない」ということです。 この「タイミングを選べない」とは、いいかえるならば、株式購入時のように「この値段で買いたい」という指値(さしね)注文ができないということです。 これは同じように「売却時」にも当てはまりますが、この点がおそらく、多くの投資信託を利用する人にとって、「とてもフラストレーションがたまる」点であることは間違いありません。ここでは、そんな、なんともしがたい「違いがある」ということだけ覚えておいてください。 「年金では足りない」「働きたくはない」「リスクも取りたくない」…そんな人におすすめの「分配金生活」という選択肢