『ミッション:インポッシブル』イーサンとグレースの恋愛描写は「古臭いから」 ─ ヘイリー・アトウェル単独ロングインタビュー

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』でスリの達人として初登場を果たしたグレースは、イーサン・ハントと共に世界規模の陰謀に巻き込まれながら、少しずつその内面をあらわにしていくキャラクターだ。「脆さというのは誰の中にでもあると思います。誰だって人間ですからね」と、演じたヘイリー・アトウェルはTHE RIVERに語る。「自信や強さって、自分の身を守るための武器としての仮面にもなる。グレースも、表面を少し引っ掻けば、その中には感情的な脆さが見えるのです」。 ©︎ THE RIVER シリーズ最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』で、IMFの一員となったグレースは世界を破滅から守る“最後の試練”に挑んでいく。それまで一匹狼として生きてきたグレースは、一見すると強い女だったが、その内面には脆弱さがたっぷりあった。「彼女はいつも物事から逃げ、誰のことも信用せず、盗みを繰り返して生きてきた。不正を働き、自分のことしか考えず、かなり利己的でした。それは彼女の脆さや、人を信用できないという恐れから来ているのだと思います」。 そんなところが人間らしいと語るアトウェルは、『ファイナル・レコニング』で見られるグレースの人間的成長を喜ぶ。「ついに彼女が大きなリスクを冒して信頼というものを学ぶ。彼女だって、誰かに危害が及ぶことは望んでいない。だから、ついに彼女が仲間を失うことを恐れ、人のために尽くすという展開になっていくんです」。 ©2023 PARAMOUNT PICTURES. 前作では、自分の身に危険が及ぶという恐れがあった。クライマックスで列車が垂直落下するシーンで、グレースは怯えながらイーサンにしがみついた。今作では、「仲間を失うという恐れを抱くようになっていく」とアトウェルは語る。「彼女はチームの一員になりたがっているわけではなかった。だから彼女には、協力することを拒み、イーサンのことも信用していないというところから、次第に彼のことを信じていくという変化の軌道があり、今作でついにチームに加わるのです」。 前作『デッド・レコニング』時も来日予定があったが、その年に起こった全米俳優組合のため直前でキャンセルに。プライベートでは、日本で働く友人を訪ねて過去に一度だけ訪れたことがあったそう。今回の取材では、前作時にも尋ねたかったようなこともまとめて聞いた。 ©︎ THE RIVER キャラクター設計について聞くと、意外な裏話を披露してくれた。「最初のスクリーンテストの時に、トムとクリス・マッカリー(監督)から、“キャラクターはまだ決まってないし、脚本もない。でも、僕たちのやり方に共感してくれて、一緒に頑張っていける役者を探してる”と言われたんです。そういうの、好きだなと思って。まだ決まっていないことに取り組んでいけるなんて。その時に、私も色々なアイデアを考えついていたんです」。 参加が決まったアトウェルはアクション撮影に備えて5ヶ月間トレーニングをしながら、フィジカル面での得意分野を探った。「そこで割と早く気付いたことがあって、私は何か小道具を手に持っている方が、殺陣の振り付けを覚えやすかったんです。そこから彼女を「盗みのプロ」として設定し、常に何かを手にしている、またはそれを武器にできるような人物にするという設定が思いついたんです。そういう点では、イーサン・ハントとの共通点も生まれました。彼も初期には手品のようなスリの技術を使っていましたからね」。 人物描写の面では、トム・クルーズらと共に1970年代のケイパー映画を鑑賞して研究した。『スティング』(1973)や『おかしなおかしな大追跡』(1972)『ペーパー・ムーン』(1973)『華麗なる賭け』(1968)などだ。これらを鑑賞しながら、グレースを単なるイーサンのロマンスの相手にしたくないと考えた。「そういうものは何度も観てきましたからね。そうではなく、協力しないといけないけれど、気は合わないという関係にしてはどうかと。そうするとコメディ要素も入ってくるし、面白そうだと思いました」。 ©2023 PARAMOUNT PICTURES. 『デッドレコニング』では、手錠によって繋がれた二人が黄色いフィアットに乗ってローマの狭い街路を疾走する。ここはアトウェルが期待したコメディ要素がたっぷり発揮された場面だ。これを経て『ファイナル・レコニング』では、アトウェルのイーサンに対する考えが深まっていく。 「グレースが最初に登場した時、彼女はまだあれほどの暴力を経験したことがなかった。拷問室でのシーンでも、彼女は彼が自分を守って助けてくれるのを見て、『イーサンは本当の暴力を振るうことができる人なんだ』ということを知りました。それでも、『この人は何者なの?私は安全なの?彼を信頼していいの?』と不安になっています。グレースは、イーサンによって盲目的に導かれる人物ではありません。彼女はまだ、イーサンが何者なのかを探っています。」 ©︎ THE RIVER グレースとイーサンの間に恋愛関係を描くのは「ベタだし、古臭いから、あまり興味がありません」と、はっきり話したアトウェル。「そうではなくて、この映画のいいところは、力強い友情関係を中心に据えている点です。グレースからイーサンへの愛情とは、人としての真心であり、彼の犠牲に対するリスペクトであり、彼が他人のために自己犠牲を厭わないことに対する好奇心なのだと思います。前作『デッドレコニング』で、グレースは自分の身の安全を優先しました。でも今作で彼女は、自分より大きな存在のために自分を犠牲にすることには意義があるということを、イーサンから学ぶわけです」。 スパイ映画における女性キャラクターのあり方は長年、退屈で平面的なものだった。ところが近年では、より立体的で、深い複雑さを持ったキャラクターも多くなっている。「それは、観客が求めているものが変わってきているからだと思います」とアトウェルは考える。「白か黒か、善か悪か、そういう単純さではなく、もっと深みがあって、自分自身を重ねられるようなキャラクターを観客が求めているのです」。 そこに真の創造性が眠っている。「観客が求めているものを作りつつも、求めていたことに気付かなかったようなものも作りたい」とアトウェルはグレース役に込めた思いを話す。「それに、人間って矛盾を抱えた存在ですよね。人間とは絶えず進行中のものであり、厄介でもあります。でも同時に、勇気や恐れを示すことや、ニュアンスや繊細さを示すこともできる。そして、ストーリーの中で大きな姿を示すことができる。そこにリアルさがあるのです」。 ©︎ THE RIVER 前作『デッドレコニング』では、イーサンがグレースについて身元調査を行う中で、彼女が孤児で、お金のない育ちであることが示唆された。「だから彼女は、生きるために盗みを働いてきた。そして、自分には盗みの才能があることがわかって、それで成功した過去があるのです」。 グレースのオリジン・ストーリーを探求するのも興味深いだろう。「私の解釈としては」、とアトウェルは考えを披露する。「彼女が誰も信用せずにたった一人で生きてきたのには、幼少期に何か原因があったと思うんです。何か理由があって、人との関わりを断ち、自分だけを信じて生きていくという決断に至ったはず。それはとても悲しいことで、彼女には悲しい過去があるのだと思う。だからこそ、彼女はしなやかで、超警戒的で、サバイバーでありファイターになったのだと思います。彼女の裏には、何か悲しい事情があることは間違いないでしょう」。 前作『デッドレコニング』は当初、副題に『PART ONE』と付けられており、『ファイナル・レコニング』との二部作であることがより直接的に明示されていた。この2作は1996年に始まった世界的シリーズの集大成であり、アトウェルはそのど真ん中に突如としてメインキャラクターの一人として参加した。「もちろん不安もあった」とアトウェルは振り返るが、トム・クルーズとクリストファー・マッカリー監督が寛大に迎え入れてくれたからこそ、安心することができた。「それまでに6作もを重ねてきているからこそ、彼はこのシリーズのジャンル性やトーンについて、熟知している。そして、どんな観客が観ているのかも知っている。だから、彼らが望む形でグレースというキャラクターを作ることに全力になれました。彼らを信頼しているからこそ、安心して演じることができました」。 ©︎ THE RIVER 製作期間中は、「いつでも、誰からの相談にも乗ってくれる」というトム・クルーズの飾らない親切さが身に染みた。「すごく正直に接してくれるので、どんなことでも安心して聞くことができました。ある時、私が『どうしてかわからないけど、ときどき、人と接するのがすごく不安で怖い感じることがある』と聞いたことがあるんです。『あなたもそう感じることはありますか?そういう時はどうしていますか?』とね」。 クルーズからの答えはこうだった。“人と接するのが不安になると、人は内にこもって、自意識過剰になりがち。そんな時は逆のことをやるんだ。自分の環境に意識を向けて、何に恐れをなしているかを見つけるんだ。誰か怖い人がいるのか?人が多すぎて緊張するのか?それとも知らない人ばかりで不安なのか?本当は何に恐れているのか、それを見つけて立ち向かうんだ。”……「このアドバイスは、あらゆる場面で通用すると思います。恐れから逃げたり、閉ざすのではなく、むしろ恐れの原因に目を向けることが大切なのですね」。 この投稿をInstagramで見る ところでアトウェルは、ロンドンのドゥルリーレーン・シアター・ロイヤルで公演のシェイクスピア劇『空騒ぎ(Much Ado About Nothing)』ではトム・ヒドルストンと共演中だ。トム・クルーズとトム・ヒドルストン、二人の“トム”と共演するアトウェルは彼らの姿を通じて、「素晴らしい役者たちは、『初心者の心(ビギナーズ・マインド)』をずっと持っている」ことを学んだ。「いつまでも生徒であり続け、常に学ぶ姿勢を持っています。そしてオープンであること。素晴らしい役者は、聞く力に優れています。自分のことだけではなく、他の人がどう思っているかに敏感で、だからこそシーンの中で他者と繋がり、共鳴できるんです」。 トム・クルーズは「最新作をとにかく片っ端から鑑賞して、そこから学ぼうとしていること」と、アトウェルは彼の持つ「初心者の心」のあり方を紹介する。「彼は最新作を鑑賞しては、『この演技は何がすごいのか』『このショットは何がすごいのか』『この音楽は何がすごいのか』を考えている。そして、自分の過去の仕事から学び、より良いものを目指しているんです。そうやって常に進化しようとしているから、彼は今の映画業界の流れにも敏感で、心を開いたまま、謙虚なままでいられる。自分に対してもとても正直で、『もっと自分を追い込もう』という気持ちでいるのです」。 舞台で共演のトム・ヒドルストンといえば、マーベル作品におけるロキ役でお馴染み。アトウェルもペギー・カーター役を演じており、二人はマーベル仲間でもある。 ロキもグレースも、生き延びるために嘘や騙しを使うキャラクターだ。「ヒドルストンのロキ役からインスピレーションを受けたことは?」と尋ねると、「確かに似ていますね!」と楽しそうに笑いながら、きちんと解釈を答えてくれた。 「ロキもグレースも、『カオスをもたらすもの』だと思います。二人は行く先々に混乱を起こす。グレースは、ロキほど小悪魔的・イタズラ好きではありません。グレースはもっと、生きるのに必死。一方、ロキはイタズラを楽しんでいます。でも、二人ともとても楽しいキャラクターで、役者として演じるのも素晴らしい役です。役者というのは時に子ども心を感じながら、遊びや探究心、好奇心を持つものですから。そしてトム・ヒドルストンは、まさにそうした素質をお持ちです。とても遊び心に溢れた方ですからね。」 ©︎ THE RIVER もしもグレースがペギー・カーターに出会ったら、彼女から何を盗み出す?「すごく良い質問!きっとペギー・カーターが所持しているスティーブ・ロジャースの血液サンプルを盗み出すと思います!それを使ってグレースはスーパーソルジャーになるんじゃないかな?」遊び心のある笑顔を弾けさせ、アトウェルはどんなことも楽しそうに答えてくれる。 実は、ヒドルストンとロンドンで『空騒ぎ』を上演中も、アトウェルは『ファイナル・レコニング』の再撮影に呼び戻され、二重生活を送っていたことがあったという。「クランクアップを14回くらい経験しました(笑)。何度も呼び戻されては、再撮影をしたり、変更を加えたりしていましたから。ロンドンでトム・ヒドルストンとシェイクスピア劇を演じている期間中も、日曜日に呼び出されて『ミッション:インポッシブル』の追加撮影をやるということが2、3回ありました(笑)。だから、この映画は永遠に終わらない感覚がありましたね」。 ©︎ THE RIVER 『空騒ぎ』上演中も、とにかくクルーズの安否が気になって仕方がなかった。クライマックスで展開される、イーサン・ハントが複葉機にしがみついて振り回される場面のことだ。はじめに製作会議でシーンの概要を伝えられたときは、「どういうことなのか分からなかった」とアトウェル。南アフリカで該当シーンの撮影が始まり、上がってくる映像を見て初めて、彼の行なっている挑戦の危険度が理解できたという。 「彼はスタントのために、文字通り命ををかけている。しかも、これまでよりも危険になっている。彼はいつも自分の限界に挑み、新しいスキルを伸ばし、限界をさらに押し伸ばしていく。彼が南アフリカで複葉機シーンを撮影している間、私はロンドンにいたんですけど、とにかく彼が無事か気になって仕方なかった(笑)。大丈夫かな、大丈夫かな……って。本当に命の危険がありますから。ずっと彼からの連絡を気にして、彼にメッセージも送っていました。もちろん、彼がやれるかどうかを一度も疑ったことはありません。でもね、やっぱり友人の安全は気になる。彼のやることって安全じゃない。リスクが高すぎる。よりメカニカルなスタントもあって、これを効果的にこなすには膨大なリスクと訓練が求められます。リスクはつきものです。 彼が撮影の終盤に言っていたことを覚えています。『僕の仕事は映画じゃない。僕自身が映画なんだ』って。そして今作『ファイナル・レコニング』は、まさに彼そのものを表していると思います。」 ©2024 PARAMOUNT PICTURES. トム・クルーズという当代最もストイックな俳優がまとめ上げた『ファイナル・レコニング』。シリーズが今後も続く可能性はあるのだろうか?「きっとトムなら、『映画を観に行って』と言うと思います。なぜなら、最終的にどうなるのかは、観客の判断に委ねられているからです」。アトウェルは、シリーズの習熟度に関わらず、誰もが楽しめる大作映画になっているとアピールした。 「本作がとてもうまくいっているのは、いくつかの物語にはしっかりと結末が与えられていること。その描き方が本当に見事なんです。そして過去作からのキャラクターが新たに登場したり、再登場することもあって、シリーズをずっと追ってきたファンにはとても満足感のある内容になっています。でも同時に、『ミッション:インポッシブル』を観たことがないという人にとっても、一つの冒険映画としてしっかり楽しめる独立した作品になっているんです。」 『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は大ヒット公開中。 

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