スーパーの元店主が語る…いま売り場から「半額弁当」が急速に姿を消している「残念な理由」

消えていく「半額弁当」 仕事帰りに立ち寄るいつものスーパーマーケット、夕方の「値引きタイム」を狙う客で、惣菜コーナーは賑わっている。食料品の値上げラッシュが続く中、少しでも食費を節約したいと願うのは誰もが同じだ。 コロナ禍は、外食からの中食(総菜)シフトに拍車をかけた。『スーパーマーケット白書2025』によると、2024 年の惣菜市場規模は初の11兆円を突破し、過去最高となった。その中でも、スーパーでの総菜の売上は前年対比103.9%と毎年右肩上がり。その利用頻度は「よく利用する(週に2〜3日以上)」が約4分の1を占め、46.9%の消費者が「週に1日以上利用する」と回答している。 メニューを考えなくてよく、調理不要ですぐ食べられて、片づけが簡単──。共働き世帯や単身者、さらに高齢世帯が増加したことで、食に対する時短ニーズの高まりがこれまでになく強まっていることが伺える。スーパーにとって、惣菜や弁当分野は今後の成長が大いに期待できるジャンルなのだ。 しかし、以前に比べておなじみの「半額弁当」が売り場に姿を見せなくなってきた。 その理由を、前編記事『スーパーの元店主が明かす…店員への《値下げ強要》に、自ら《値引きシールの貼り替え》も!店舗を荒らす「半額ハンター」のひどすぎる実態』に続いて解説する。 スーパー側の対策 スーパーも、値引きタイムの混乱を抑えるため、さまざまな対策を講じてきた。 一つは、値引き開始時間を固定せず、ゲリラ的に値引きシールを貼る「ステルス値引き」である。だが、これは買い物客の待機時間が増えるだけで、根本的な解決にはならなかった。 また、10%→20%→30%と徐々に値引いて、早めに購入を促す「段階値引き」も、商品をカゴに入れたまま店内を徘徊し、よりお得な値引きを待つハンターたちの“執念”には勝てなかった。 次に、売り場ではなくバックヤードでシールを貼る「裏張り作戦」を試みたが、商品をケースに並べる前に商品の取り合いが始まり、かえって混乱を招いてしまった。 だからといって「値引き商品はお一人様3個まで」などと突然新たな制限を設ければ、「広告品でもないのに!」と、顧客に不信感を持たれてしまう。利益を削った上に、神経まで削られるのは痛い。 AIの導入により「売り切り」する店舗が増えている スーパーにとって「売切れは悪」である。ボリューム感のない売り場には魅力が感じられないのも事実だ。しかし、それを避けるために商品数をむやみやたらと増やし、その結果値引きが増えるようであれば、当然利益は取れない。 惣菜はスーパーの他部門に比べて利益率が高い項目だが、その一方で平均ロス率(値下げロスと廃棄ロス)も10%と、商品カテゴリーの中で最も高い値にある。(『スーパーマーケット年次統計調査報告書(2022年)』) 惣菜部門では、商品の鮮度が求められるため賞味期限が短い。さらには、天候や季節のイベントによる消費者需要の変動が予測を困難にし、しばしば過剰在庫を生む原因となってきた。このような状況がロス率を増加させ、結果として粗利率を圧迫してしまう。ただでさえ薄利多売の傾向にある中で、これらの損失が店舗の利益率に与える影響は甚大だ。 そんな中、AI技術が新たな解決策をもたらした。過去の販売データや天気、曜日、地域のイベント等を分析し、商品ごとの販売数を高精度で予測するのだ。 例えば、2024年7月の日本経済新聞によると、イオンリテールはAI導入後、適正数量を陳列することにより、売れ残り率を10%から2%以下に激減させた。これにより、夕方の惣菜コーナーから半額シールが減り、刺身や精肉の値引きも1〜3割引までが主流になったのだ。 こうしたシステムは、他のスーパーでも次々と取り入れられるようになってきた。もちろん、予測が外れて欠品することもあるが、店員はクレーム対応から解放されるし、スーパーも利益率が向上して経営の効率化が進むこととなった。 ちなみに、今なら惣菜に限らず、刺身や精肉も3割引が限界なので、見つけたら即購入することをお薦めする。 「半額弁当に何度も救われた」という切実な声も しかし、果たしてそれでよかったのだろうか? 年金暮らしの高齢者や子育て世代からは、「半額弁当に何度も救われた」、「AIのせいで値引き商品が減った」などといった切実な意見もある。庶民にとって、夕方から店頭に並ぶ「半額弁当」はささやかな幸せだったはず。 実際、ドン・キホーテやトライアル、ロピアといった、初めから低価格で提供するEDLP(EVERYDAY L0W PRICE)業態のスーパーが人気を集めているのは、こうしたニーズの現れだ。 私は、半額弁当の時代が終わっても、「値引き」の文化そのものが消える必要はないと考える。値引きが多いスーパーは、そもそも“作り過ぎ”か“元の値段が高い”のだ。そのギャップを埋めるために、店と客が“持ちつ持たれつ”の信頼関係で経営が維持できるなら、「半額ハンター」は敵ではなく愛すべき仲間だろう。 「日本型スーパー」は単なる“買い場”ではない。いくらAIが進化しても、商品を手に取るのは人であり、店と客の温もりのあるやり取りの中に、その価値がある。 半額弁当が消え、半額ハンターが減りつつある今、どこか物足りなさを感じるのは、私だけではないはずだ。今でもあの光景が、私の目に焼きついている。 ・・・・・・ 【もっと読む】「吉野家は有楽町、餃子の王将は荻窪」がひと味違う…!?飲食店チェーンなのに《他より美味しい店》が生まれるワケ 【さらに読む】「吉野家は有楽町、餃子の王将は荻窪」がひと味違う…⁉飲食店チェーンなのに《他より美味しい店》が生まれるワケ

もっと
Recommendations

岩井千怜が米女子ツアー初優勝で“初代女王”に、姉・明愛からシャンパンシャワーの祝福【海外女子ゴルフ】

■米女子ゴルフリビエラ・マヤ・オープン(日本時間26日、メキシコ…

コロナ禍に不意に書いた小説、ストレートな恋愛モノで少し恥ずかしい気持ちに…渡邊圭祐の[箸休め]

もう季節は夏っぽいですね。そのうち夜も暑くなって半袖で過ごして…

【辻󠄀希美・長女】希空さん 「リボンヘアー」のオフショットを公開 ツインお団子スタイルで魅せる新たな一面

元モーニング娘。でタレントの辻󠄀希美さんと杉浦太陽さんの長…

男子3000m障害・東京世界陸上代表の三浦龍司、8分13秒39で13着【DLラバト大会】

■陸上ダイヤモンドリーグ第4戦ラバト大会(日本時間26日、アフリ…

亀田製菓、「柿の種」など菓子を4〜23%程度値上げへ コメなどの高騰受け

歴史的なコメ価格の上昇が「柿の種」を直撃です。亀田製菓は、コメを…

初夏の風物詩「夕張メロン」初競りで2玉100万円 小樽市の業者が落札…店頭で展示 北海道

初夏の風物詩・夕張メロンの初競りが札幌の中央卸売市場で開かれ、2…

あすはほぼ全国的に晴れるものの東日本太平洋側は雲が多い

梅雨前線が南下し、日本列島は大陸からの移動性高気圧に覆われ、東日…

ネット時代でも、なぜ万博は必要なのか VIデザイン担当クリエイターが説く「体験」の意義

大阪・関西万博のVI(ビジュアル・アイデンティティ)デザインシステ…

トランプ氏「プーチン露大統領は完全に正気を失ってしまった!」…大規模空爆を非難

【ワシントン=池田慶太】米国のトランプ大統領は25日、SNSへ…

話題のドラマ「最後から二番目」視聴率が意外な下降トレンド 視聴者からまさかの指摘

小泉今日子と中井貴一今期の連ドラでとりわけ注目されているのが、…

loading...