石破首相「日本のコメを世界に」発言はどこをどう切り取られてフェイクニュースと化したのか

 マスメディア発であろうと、SNS発であろうと、情報の「切り取り」が問題になることが増えた。 フェイクニュースを「見分ける4つのポイント」 【写真】  自民党の西田昌司参院議員は、5月7日の会見で、自身の沖縄戦や戦後教育に関する発言が問題視されたことに関して、「切り取られた情報」が誤解や批判を招いている、との認識を示した。  もっとも、その2日後には自身の発言を「不適切」と認め、訂正、謝罪。またこの件に関しては少なくとも情報の切り取り方を問題視していたのは本人だけのようだ。西田氏の歴史認識その他に共鳴する人の中でも、当初の発言に関する報道そのものへの批判をしている人はほとんど見当たらない。  その西田氏が辞任を強く求めていた、石破茂首相の発言の「切り取り」も最近、注目を浴びた。 石破茂首相の発言の「切り取り」も最近、注目を浴びた  SNS上で拡散したのは、石破首相が5月11日に出演したテレビ番組「日曜報道 THE PRIME」での発言の一部を切り取った映像。  この切り取り動画で首相は橋下徹氏に対してこのように発言している。 「日本の美味しいコメ、安全なコメを世界の人々に提供するっていうのは、日本がやるべき国際社会に対する責任じゃないんですか。日本だけ良ければいいやって話にならないんで。日本の安全で美味しいおコメをリーズナブルな値段で、世界の人たちに食べてもらいましょうっていう」  コメ不足、コメ価格の高騰が解消されない中、コメを世界に提供するって一体どういう神経なのか、何が国際貢献だ、おかしいんじゃないか——この動画を見てそのように反応したSNSユーザーは多いようだ。 地方創生の重要性は石破首相が訴えてきた持論でもある  が、これが完全に悪意ある切り取り動画であることも、すでに指摘されている。  前後の発言を丁寧に拾った文字起こしもX上では共有されているのだ。引用してみよう。 「ここ50年ぐらいかしら。世界中、コメの生産を増やしてきたわけですよ。中国だってアメリカだってインドだって、この50年、60年の間、コメ生産って3倍にしてきたわけですよね。世界全体では3.5倍になってるわけです。日本だけはコメ生産減らしてきましたということは本当に正しかったですか?ということですよね。で国内で高齢化が進んでいる、人口減ってる、だからコメの生産は減っても仕方ないんだという考え方を、もう1回立ち止まって考えてみるべきじゃないかということであって。だって日本のコメって今、ニューヨークだろうとパリだろうと、おにぎり屋さん長蛇の列ですよ。こんな美味しいコメがあるのか。それは自動車と一緒で、こんなに安全で素晴らしい車があるのかということで世界を席巻してきたわけですよね。なんで自動車でできることはコメでできない?それは日本国土が狭いからだ、農地面積がちっちゃいからだ、以上おしまいというところからは脱却しなきゃいかんのじゃないですか。 一見もっともらしいニュースや論評には、フェイク(虚偽の情報)が大量に含まれている。真偽を見抜くには何をすべきか。「オピニオンは捨てよ」「主語のない文章は疑え」「空間軸と時間軸を拡げて見よ」「ステレオタイプの物語は要警戒」「アマゾンの有効な活用法」「妄想癖・虚言癖の特徴とは」——新聞、雑誌、ネットとあらゆるフィールドの第一線で記者として活躍してきた著者が、具体的かつ実践的なノウハウを伝授する 『フェイクニュースの見分け方』  本当に日本の農業っていうのは、コメ作りっていうのは強くなりませんかっていうことだと思います。そして日本の美味しいコメ、安全なコメを世界の人々に提供するっていうのは、日本がやるべき国際社会に対する責任じゃないんですか。日本だけ良ければいいやって話にならないんで。日本の安全で美味しいおコメをリーズナブルな値段で、世界の人たちに食べてもらいましょうっていう。これから先、地方創生の議論をするときに、やっぱり農業って一番の伸びしろがある。その伸ばし方をどうするかって話はもっとやりたい」  ここで首相は、コメ不足が叫ばれる今こそ減反を含むコメ政策をもう一度見直すべきではないか、美味しくて安全な日本のコメの魅力を世界に広めて、打って出ることだってできるのではないか、国をあげて農業を成長させようではないか、という話をしているに過ぎない。これは地方創生の重要性を訴えてきた石破首相の持論でもある。 「正確な引用」がポイント  こうした切り取りによる印象操作は、決してネット時代になってから見られるようになったことではない。新聞もテレビも雑誌も行ってきたものだ。ただし、SNSによってその頻度が格段に増え、拡散力も比較にならないほど強力になったのは確かだろう。それらを鵜呑みにすると、結果として判断を誤ることにもつながりかねない。  報道記者の烏賀陽弘道氏は、著書『フェイクニュースの見分け方』で、「発信者を疑うための作法」をいくつか示している。  ネットに限っていえば、「フォロワー数やPVなどの数字の多さは信用を保証しない」が前提だという。 「ごく当たり前の事実として、数字は質を保証しない。ネットでの注目度指数が高い発信者が『質の高い言論』を発しているとは限らない。  ネットでの注目度の高い発信者がより『正確な事実』を発信するかというと、両者の間には何の相関関係もない」(同書より、以下同)  だからといって、フォロワー数が少ないことも当然ながら信用につながるはずもない。では、何が目安となるのか。烏賀陽氏は次のように述べる。 「どうやって信用できる発言者かどうかを見分けるか。いくつかのポイントを挙げてみよう。  私が普段見るのは『正確に引用をしているか』『正確な言葉の定義に忠実か』『専門の著作はあるか』『具体的に何の専門家なのか』といったところである。(略)  とてもシンプルだが、意外と有効なのは、正確な引用を行っているか否かを見るという方法だろう」  石破首相の発言の切り取りに関して言えば、その部分だけを取れば「正確」と言えるのかもしれない。しかしながら、コメ不足が注目される状況下でこの部分だけを「引用」して、なおかつ発言の前後を伝えないのは明らかにミスリードを狙ったもの。その意味ではやはり「正確な引用」には当たらない、悪意ある拡散、フェイクニュースに近い情報と言っていいだろう。石破氏に対して極めて厳しい物言いをしてきた西田氏も、この件に関しては石破首相に同情するのではないか。 デイリー新潮編集部

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