令和の就職戦線に新たな風が吹き込んでいる。採用活動にAIを本格導入する企業が増加し、エントリーシートの優劣をAIが評価、さらにはAIが面接官まで務めるという現実がすでに訪れているのだ。「それで本当に評価ができるのか」と訝しむ就活生も少なくなかろうが、こうした時代ゆえに「やってはいけないこと」、また「AIウケ」を狙うことの落とし穴には重々注意しなければならない(安藤健/株式会社人材研究所ディレクター)。 *** 【写真】7〜8社から内定をもらうのは当たり前、“拘束日”にハワイに連れて行かれた学生も…髪型はソバージュでスーツも“黒一色じゃない”バブル入社組の就活風景 導入企業相次ぐAI採用の現在地 企業の採用活動において、AI活用が進んできています。 “就職戦線”は年々変化している 企業向けのAI系採用支援サービスも年々増えてきており、厚生労働省の調査によると、2025年3月時点で、以下のようなAIサービスが確認できているそうです(※1)。 ●対話型AI面接サービス(面接においてAIと対話し、その内容により人の資質を評価するシステム) ●録画面接AIアセスメント(録画した面接の回答を基に、AIがコンピテンシー等を評価する) ●応募者に対する合否スコアリング(応募者情報と過去の当該企業の採用判断を基に合否のためのスコアリングを実施する) ●求人票作成アシスト(AIのチャットによる質問・回答を通じて求人票の作成をアシストする) 筆者も企業の採用支援を行う人事コンサルタントですが、コロナ禍以降、こういったAI面接を新たに導入したいという一般企業からの相談や、AI面接を新たに開発したいので手伝ってほしいというHRテック企業からの相談が明らかに増えてきています。 実際どの程度の企業がAIを活用しているかというと、新卒採用では約3割(※2)、中途採用では約2割(※3)の企業がAIツールを使用しているそうです。例えば、キリンホールディングスは26年春卒新卒採用から1次面接でAI面接を導入し、富士通でも書類選考の補助として数年前からAIを導入しています。 このように、大企業を中心に広がりを見せるAI採用ですが、就活生側はどんなことに注意して就活を進めていくべきでしょうか。 AIが評価できない情報 まず、AIが選考に使われる場面では、「話の中身」以上に「話の構造」が見られていると意識したほうが良いです。 というのも、AIは人間のように行間を読んだり、相手の熱量や空気感を汲み取ったりするのがあまり得意ではありません。むしろ、与えられた言葉や文脈に含まれる「論理の通り方」や「構造の整合性」を、精密に解析して判断します。 例えば、エントリーシート(以下ES)において、「その経験を通じてどんな学びを得たのか。なぜその学びが志望動機や自己PRにつながるのか」といった説明が、きちんと筋道立っていないと、内容は良さそうなのになぜか評価されないということが起こりえます。 これは現状のAIの限界ともいえるでしょう。 人間なら「この学生、少し説明が飛んでいるけど、たぶんこういう意図かな」と補ってくれる場面でも、AIではそうした忖度をしません。飛躍や因果関係のズレをそのまま、評価できない情報として扱ってしまうのです。 だからこそ、AIを活用するES選考やAI面接に臨む前には、自分の伝えたいことが論理的に伝わる構造になっているかを丁寧に確認しておきましょう。自分のエピソードを誰かに説明してみる、PREP法などのフレームワークを使って話を整理してみるという準備が、AI選考での通過率を左右する時代になっています。 「AIウケ」の落とし穴 ただ、「AIウケ」だけを狙いすぎると、思わぬところでつまずく可能性もあります。というのも、最終的な採用判断を下すのは、やはり人間だからです。 面接の形式には、大きく分けて「プレゼン型」と「キャッチボール型」があります。 プレゼン型は、質問に対してある程度まとまった長さで自分の考えを述べるスタイル。AI面接は多くの場合こちらの形式を採用しています。背景には、自然なやりとりを行うキャッチボール型の対話をAIで再現するのが、技術的にまだ難しいという事情があります。 そのため、就活生の中には、AI選考を突破するためにプレゼン型への対応力ばかり高め、「トークのテンプレート」を作りこむ人も少なくありません。 それ自体は悪いことではありませんが、問題はその先です。 現在の新卒採用において、最終面接までAIに任せることはほぼありません。たとえESや1次面接でAIを導入していても、最後の判断は必ず人間が担います。 特に最終面接を担当する役員や経営者は、えてして「対話」を重視する傾向にあり、彼らは内容の論理性よりも、「ちゃんと会話できるか」「一緒に働きたいと思うか」といった直観・感覚を重視しています。 用意された説明がどれだけ完成度の高いプレゼンでも、相手とキャッチボールをしようとする姿勢が見えなければ「コミュニケーションに不安がある」と判断されてしまいかねません。 AIに伝える話し方と、人と対話する姿勢、どちらも大切ですが、最後に問われるのは後者なのです。 だからこそ、テンプレを丸暗記しないこと。「こう聞かれたらこう答える」ではなく、自分の言葉で語れるように面接練習をしておきましょう。 また対話は、会話の「間」や「相槌」などノンバーバルな部分も大切です。一方的に話して終わり、ではなく、相手の反応を見ながらうなずいたり、アイコンタクトを積極的に取ったりする、自然なコミュニケーションを、今でこそ意識してみてください。 いくらAIが普及した時代とはいえ、採用の本質は「人」であることに変わりはないのです。 【出典】 ※1.厚生労働省『AI・メタバースのHR領域最前線調査報告書』 ※2.時事通信,https://sp.m.jiji.com/article/show/3478336 ※3.株式会社マイナビ『2024年9月度 中途採用・転職活動の定点調査』 安藤 健(あんどう けん) 株式会社人材研究所ディレクター。青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。2016年に人事・採用支援などを手掛ける人材研究所へ入社し、18年より現職。これまで数多くの組織人事コンサルティングプロジェクトや大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務に従事。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(共著/ソシム)、『誰でも履修履歴と学び方から強みが見つかる あたらしい「自己分析」の教科書』(日本実業出版社)、『これで採用はうまくいく ほしい人材を集める・見抜く・口説くための技術』(共著/秀和システム)。 デイリー新潮編集部