江藤前農水相は「主婦の皆さま」の買い急ぎと過去に批判も…“異色の農家”が論破するコメ高騰の知られざる理由「猛暑で小粒化」「倒れた稲が雨に浸かる」

 コメ価格の高止りに庶民が苦しんでいる。農林水産省は5月26日、全国のスーパーで販売されたコメ5キロあたりの平均価格を発表した。それによると5月12日から18日までに販売された平均価格は前週より17円値上がりして4285円。2週連続で過去最高を更新し、ネット上には怒りの声が殺到している。(全3回の第1回)  *** 【写真】「日本と全然違う!」韓国のスーパーで実際に売られているコシヒカリの“お値段”とは? 日本人向けにお持ち帰りを呼びかける張り紙も  総務省も5月23日、4月の全国消費者物価指数を発表した。前年同月比で最も上昇率が高かったのは「穀類」で27・4%。特に「うるち米(コシヒカリを除く)」は何と98・6%と歴史的な高騰を示した。 江藤拓・前農水相  農水省の調査に戻ると、昨年5月6日から12日にかけての週は、コメ5キロが2108円で販売されていた。それが今年は4285円となったわけだから、2倍を超える高騰ということになる。  なぜ、コメがこんなに高くなってしまったのか。『親子で山さんぽ』(交通新聞社)の著者、木村和也氏は米どころとして知られる新潟県の出身だ。  東京農工大学の博士課程を中退すると、登山専門誌「山と溪谷」や、アウトドアや旅をテーマにした書籍で知られる出版社、山と溪谷社に入社した。  2010年にアウトドア企業の起業に携わり、生まれ育った新潟県南魚沼市にUターン。実家のコメ農家を継ぎ、フリーペーパー「山歩みち」の編集長も務めているという異色の“兼業農家”だ。  コメの生産現場を知り抜いている木村氏にコメ高騰の原因を質問すると、「今、コメ農家の“生産性”は非常に早い速度で、どんどん落ち込んでいます。これは新潟県だけの問題ではなく、全国で起きていることなのです」と言う。 猛暑や倒伏で収量が減少 「私がコメを作っている、全国でも有数のブランド米を生産する南魚沼市でも収穫量が減っている原因から説明しましょう。近年の気候変動で夏の日差しと気温が非常に厳しくなっています。稲にとってコメは種ですから、自分の命を次世代に渡す非常に大切なものです。暑さから種=コメを守ろうと籾殻を厚くするため、結果としてコメの粒は小さくなります。味は全く変わらないのですが、近年はJAの営農指導や販売店の意向で籾を玄米にする際、ふるいの網目を大きくしています。そのため猛暑で小さくなったコメはふるいにはねられ、くず米として処理されることが増える傾向にあります」  秋の稲刈りも気候変動の影響を受けている。この数年は刈取時期の雨、つまり秋雨が長期化する傾向にあるのだ。 「多くの農家はJAに納品する場合が多いのですが、その買い取り単価が安いので、コメ農家は収量を増やすことで収益を上げようとします。その一つに夏に散布する肥料(穂肥)を増やす方法があります。これには猛暑対策の意味もあるのですが、穂肥が多いほど草丈が伸び、同時に穂長も伸びるので、確かにコメの粒は増え、収量は上がります。一方で、草丈が伸びることで稲自体を支える茎は細くなり、茎の上部にあるコメ粒が多くなるわけですから、まさに格言の『実るほど頭を垂れる稲穂かな』と同じ状態になります。つまり細い茎では重い穂先を支えきれず、少しの風や雨の影響でも、稲穂は倒れてしまうのです。これを『倒伏』と呼びます」(同・木村氏) 秋の大雨でも被害  倒伏しても田面が充分に乾いていればコンバインで刈り取ることもできる。問題なのは先ほど触れた通り、秋雨前線の活発化で雨の日が増えている点だ。 「近年、刈り取りの時期と秋の大雨が重なることが増えています。倒伏した稲が雨水に浸かると大変です。コメは種ですから、水に浸かったまま放っておくと発芽します。芽が出ると食味が悪くなるだけでなく、商品にもなりません。コメの等級は1等米から3等米、そして規格外の4段階で評価されますが、よくて規格外、条件によっては買い取りすらしてくれません。ここでさらに放置を続けると最終的にはカビが生えて腐ってしまいます。倒伏した稲が水に浸かる被害が増えているのは、農村の人手不足も背景にあります。JAの買い取り価格が安いので離農者は増え、後継はいない。さらに新規就農者も限定的です。高齢夫婦の2人だけというコメ農家も少なくなく、近所に助けてくれる農家は少ない。結果、刈り取りの負担が零細農家に重くのしかかっているのです」(同・木村氏)  稲の成長を見極めながら刈り取りの日取りを決め、人手不足に悩まされながら刈り取りを進める。買い取り価格が安いので穂肥を打って収量を取ろうとし、結果、倒伏する稲は近年増えている。人手不足、機材不足で刈り取りの適切な時期を逃し、延ばし延ばしになるうちに、秋の長雨に捕まり、コメが台無しになってしまった──こうした悲劇は珍しくないという。 江藤前農水相の間違った説明  コメの粒が小さくなったことや、倒伏が増えていることが収穫量の減少を招いている。そのためコメの品不足が起き、コメ価格の高騰を招いている──と木村氏は指摘する。  ところが江藤拓・前農水相は3月7日の大臣会見でコメ不足を否定。《生産量は18万トン余計に作っている。在庫も合わせると100万トン以上の余裕がある》と豪語した(註:農水省の公式サイトより)。コメは足りないどころか余っているというのだ。  コメは足りているのだから、コメ高騰は消費者に責任があるとの論理になる。江藤前農水相は特に《ご家庭を守ってらっしゃる主婦の皆様》が不安に駆られ、買うコメの量を増やしている。そのためコメの価格が上昇し、品不足になっていると指摘した。  これでは消費者に対する事実無根の“誹謗中傷”と批判されても仕方ないだろう。第2回【小泉農水相と元テレ朝・玉川徹氏が「農家の大規模化」で意気投合も…コメ作りを知り抜く異色農家は「どんなに働いても生活苦な“小作人”が復活するだけ」】では、コメ農家の大規模化が問題の解決にならないことをお伝えする──。 【木村和也 プロフィール】 1971年、新潟県生まれ。東京農工大学大学院工学研究科博士課程中退。山と溪谷社勤務を経て、2010年株式会社フィールド&マウンテン創業に参画。現在、同社発行の山登りのフリーペーパー『山歩みち』の編集をしながら稲作農家を営む兼業編集者として活動。 デイリー新潮編集部

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