ストレッチにお手玉、塀の外での農作業…“拘禁刑”で変わる刑務所 「懲らしめ」から「立ち直り支援」へ “100年ぶりの大転換”【news23】

6月1日から、罪を犯した人に科される刑罰が変わります。これまでの「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、「拘禁刑」という新たな刑罰が導入されるのです。「懲らしめ」から「立ち直り支援」へ。大きく変わろうとしている刑務所の今を、取材しました。 【写真を見る】「拘禁刑」導入の背景にある「受刑者の再犯率の高さ」 「懲らしめ」を転換 懲役を廃止 6月から拘禁刑へ 東京・府中市にある「府中刑務所」。約1800人の受刑者を収容するこの刑務所では、6月から導入される拘禁刑を見越し、ある取り組みを始めています。 寝転んでストレッチをしたり、台に向かってお手玉を投げたり、パソコンでゲーム のようなものに取り組む受刑者も。これは「機能向上作業」と呼ばれるもので、高齢受刑者の体や脳の働きを高めるために行われています。 受刑者(86歳) 「事件はね、窃盗。3年2か月なんですね、刑は。」 この受刑者は86歳。盗みを繰り返し、2024年7月から服役していますが… 受刑者(86歳) 「休憩だよ」 腰痛で歩くことすらままならず、工場での作業が行えません。府中刑務所では65歳以上の受刑者の割合は約2割に上り、高齢受刑者の増加が大きな課題になっています。 そこで、出所後に再び罪を犯さず、自立した生活を送れるように、高齢受刑者にこうした作業をさせているのです。 作業療法士の職員 「自分の体が動かせて、自分で選択できるという能力を持って出所していかないことにはやはり更生できないんじゃないのかな」 「懲らしめ」でなくなる?100年ぶりに変わる刑罰 国は2022年、100年以上続いてきた「懲役刑」と「禁固刑」を廃止。「拘禁刑」と呼ばれる新たな刑罰を導入することにしました。 背景には、受刑者の再犯率の高さがあります。刑務所に入った受刑者の数はこの20年で約6割減少しましたが、出所後に再び罪を犯して刑務所に入った再入者の割合は50%前後で高止まりしています。 再犯を防ぐなどの目的で「拘禁刑」が導入されることになったのです。一体何が変わるのでしょうか。 これまでの「懲役刑」は文字通り、罪を犯した人を「懲らしめる」という意味合いが強く、裁縫などの刑務作業を受刑者に義務づけていました。「拘禁刑」ではその義務がなくなります。 受刑者は、入所時の面接などを踏まえて、年齢や依存症の有無などに応じて24のグループに分けられ、特性に合わせた作業をしたり指導を受けたりします。 例えば、高齢受刑者は身体機能を向上させるプログラムを受けたり、薬物依存症の受刑者は治療を重視したりします。受刑者それぞれの出所後の生活に必要な技能や知識の習得が重視されることになったのです。 今回が9回目の服役だという、先ほどの86歳の高齢受刑者は… 受刑者(86歳) 「腰さえ治れば まだまだできると思うので、もう一度ね、人間らしい生き方をして、惜しまれる人材になって私は死にたいと思う」 受刑者が“塀の外”へ「自分で考えて行動」 拘禁刑の導入を見越した取り組みは他の刑務所でも。ジャガイモの作付けに汗を流すのは窃盗で服役中の50代の受刑者A。刑務所に入るのは6回目です。 受刑者Aが普段生活しているのは塀に囲まれた帯広刑務所。そこから500mほど離れたこの畑は、周囲に塀はなく、簡易なフェンスを挟んだすぐ隣は一般の道路です。 受刑者A(50代) 「こんな犯罪者、そんな人間が塀の外で仕事をさせてもらっているということが、本当はあり得ないんじゃないかと思っています」 これも拘禁刑の24グループの一つ、「開放的処遇」という取り組みです。一般社会に近い環境で農作業を行うことで、受刑者に出所後の姿をイメージしてもらうのです。 塀の外での作業のため、脱走対策も徹底しています。 刑務官 「彼らに一応、GPSを装着してもらって位置情報がわかるように対策をしています」 受刑者の選定にも、生活態度や性格など厳しい基準を設けて脱走のリスクを抑えています。 刑務官 「今日の野菜担任制を初めていきましょうか」 受刑者Aが参加しているのは「野菜担任制」と呼ばれるプログラム。受刑者同士でグループを作り、1年間の目標や育てる農作物を決め、栽培・収穫から製品化まで行います。 この日はそれぞれの受刑者が考えた1年間のプランを発表する日。 受刑者A(50代) 「西洋かぼちゃ、次が枝豆です。去年はね、あまり採れなかったというか、もう1度チャレンジしてみたい。もう1つは落花生です。とりあえず、この5種類だけは覚えてみたい」 発表が終わると、他の受刑者から質問が… チームメイトの受刑者 「取り組んでいくにあたってこういう問題が出てくるんじゃないかというのがたぶんあるかと思うんですけど」 受刑者A(50代) 「そこはおいおい勉強しながらやるしかない。この5種類の知識があるのかと言ったら、ほぼゼロに等しいので」 刑務官 「何となく植えて、何となく去年通りに、やっぱりうまくいかなかったら、これは学びにならない。今日に向けてもう少しある程度、下調べをした上で選定というところにいってほしかった」 厳しい指摘に悔しさをにじませる受刑者A。 受刑者A(50代) 「完全な知識不足というのがまず1つなんで、自分で考えながら、やっていけるような、そんな感じで野菜を育てないなとは思っているので、言われてやるんだったら、誰でもできるので」 求められるのは、塀の外の社会と同じ、自分で考えて行動することです。 芽生えた目標「再犯防止」への模索は続く 冬が終わり迎えた春。受刑者Aの姿は刑務所内の農場にありました。受刑者A自身が「育てる」と決めた落花生やかぼちゃの苗には芽が… 受刑者A 「なるほど。こういう感じなんだね。パクッと割った硬いところが出てくるんだね。初めて見る」 農業を学びながら、スケジュールの管理も自分たちで行っています。言われたことだけをやっていた受刑者Aの姿はもうありません。 受刑者A 「始まったなっていうのが、野菜もよりいい形、大きさで育ってもらいたい」 出所後について聞くと… 受刑者A 「小さい畑でもいいから、自分でやってみようかな。もっともっと学ぶものってあると思うんです。農業は。それを自分の身にしたい」 農作業を通じて初めて出所後の目標ができたという受刑者A。 拘禁刑導入に向け変わり始めた刑務所をどう感じているのでしょうか? 受刑者A 「今までの刑務所の仕事と言ったら、言われたことをただ毎日やって、日々を過ごしてシャバに戻ればいいという気持ちの方が強かった。結局 自分も再犯でまた捕まって。こういう取り組みをやってくれているということは受刑者側からすると、すごくありがたい」 「懲らしめ」から「立ち直り支援」へ変化の最中にある刑務所。受刑者の再犯を防ぐ模索は続きます。 「拘禁刑」の期待と不安 求められる再犯率の「検証」 上村彩子キャスター: 良くも悪くも刑務所に見えないといいますか、リハビリ施設や職業訓練のようにも見えました。外に出たときの働き場所や受け入れ体制、そして社会的な受け皿をしっかりと設けて、再犯率を下げることが結局は私達の安心安全に繋がるのかなとは思います。 喜入友浩キャスター: そういう期待もありますよね。ただ現場には不安もあるようで、ある刑務官は「今までの考え方を180度転換させる必要がある。その変化に自分たちが耐えられるか不安だ」と話しています。 そんな中でも立ち直り支援に舵を切るわけですから、この「拘禁刑」で再犯率が本当に下がるのか、しっかりとした検証が必要だと思います。 上村キャスター: そして再犯率を下げることももちろん大切ですが、大切なのは被害者の方々の気持ちに寄り添うことです。そこを忘れてはいけないと思います。

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