一軍も二軍も“ダントツ最下位”で危機的状況のヤクルト…それでも「明るい材料」はあると言える理由

 今年のプロ野球も開幕から約2カ月が経過し、徐々に上位チームと下位チームのゲーム差が広がってきている。その中でも目立っているのが、ヤクルトの苦境だ。開幕前から主力の故障者が相次ぎ、5月に勝ち越したカードは、9日から11日の巨人三連戦(2勝1敗)のみ。首位の阪神とは10.5ゲーム差、5位の中日とも5ゲーム差をつけられて、ダントツの最下位に沈んでいる。現在の勝率は.333(14勝28敗2分)で、これは昨季、歴史的な低迷と言われた西武のシーズン勝率.350(49勝91敗3分)を下回っている。(成績は5月29日終了時点)【西尾典文/野球ライター】  *** 【写真を見る】ズタボロヤクルトを救えるか? 活躍を期待される若手選手たち 新規参入チームよりも弱い「ヤクルト二軍」  さらに、二軍も酷い状況だ。イースタン・リーグの成績(5月29日終了時点)は、15勝31敗1分で勝率.326。昨年から同リーグに参入したオイシックスを下回る最下位に沈んでいる。ついでに比較すると、参入2年目でウエスタン・リーグ最下位のくふうハヤテは、勝率.354(17勝31敗0分)。新規参入球団よりヤクルトは勝てていない。 「つば九郎」がいないのも寂しい  他球団の編成担当者は、ヤクルトの二軍の現状について、以下のように分析している。 「ヤクルトは元々選手層が厚いチームではないので、二軍の試合を見ても他球団と比べて明らかに力が劣る年もあります。今シーズンは怪我人が多いこともあってか、例年以上に厳しい状況に見えますね。ソフトバンクや巨人であれば、確実に『三軍レベル』という選手も多いです。ルーキーや高卒で2年目、3年目の選手などであれば、まだ理解できますが、むしろ、入団時よりもパフォーマンスが落ちている選手も珍しくない。他球団から見て、ヤクルトとのトレードで補強しようと考えても、『交換要員』として魅力的な選手が二軍にはなかなか見当たらないですね……」  オイシックスとくふうハヤテは、NPBの球団でプレー経験がある選手が所属しているとはいえ、ほとんどがNPB未経験者である。施設をはじめ、球団のバックアップ体制も大きく劣っている。ファームは「勝利よりも育成が重要だ」といえども、新規参入球団の後塵を拝しているところに、危機的な状況が露わになっている。 人的補償で楽天に移籍した選手は活躍しているのに…  前出の編成担当者が指摘するように、確かに二軍でも成績を落としている選手が目立っている。2023年ドラフト2位の右腕、松本健吾は、昨年5月に一軍で初登板初完封をマークしたほか、二軍では4勝2敗、防御率2.49という成績を残したが、今年は1軍登板がなく、二軍でも0勝3敗、防御率6.23と大きく成績を悪化させた。  2022年のドラフト5位で、内野手の北村恵吾は、ルーキーイヤーに二軍で10本塁打を放ったものの、翌年は2本塁打に激減。今年もここまで1本塁打で、打率は.217と低迷している。  また、2018年ドラフト4位で外野手の浜田太貴は、一軍で103試合に出場して59安打、5本塁打を記録したが、今年は、二軍で打率1割台に沈んでいる。その一方で、FAで獲得した茂木栄五郎の人的補償で、楽天に移籍した内野手の小森航太郎(2021年ドラフト4位)が、一軍の戦力になっている。これも、ヤクルトファンにとっては辛い話だ。  ただ、そんなヤクルトにも明るい材料が全くないわけではない。“希望の星”として期待したい投手が、ドラフト1位ルーキーの中村優斗と育成ドラフト3位ルーキーの下川隼佑である。 「二軍にいる若手の中では明らかに飛びぬけている」  中村は1月の合同自主トレ中にコンディション不良を訴えてキャンプでは二軍スタートとなり、スロー調整を続けていたが、初実戦となった4月8日の西武との二軍戦では三者凡退と上々のデビューを飾り、ストレートは最速154キロをマークした。  その後も徐々にイニング数を伸ばし、5月25日のDeNAとの二軍戦ではプロ入り後最多となる96球を投げて、6回を2失点5奪三振としっかり試合を作っている。二軍では6試合に登板して勝ち星こそないものの、防御率2.25。1イニングあたりの被安打と与四球で表すWHIPも0.83と安定感は十分だ。  中村について、前出の編成担当者もこう話している。 「ヤクルトの二軍にいる若手の中では、ボールの力は明らかに飛びぬけていますね。コントロールに苦労することもなく、さすがドラフト1位という印象ですね。コンディション不良で出遅れていたので、慎重になっている部分もあると思いますが、この調子なら間違いなく、近いうちに一軍で投げることになるでしょう」  大学時代も投球術やフィールディングに課題を残しながら、スピードは常時150キロを超えて、制球が安定していただけに、一軍でもどんな投球を見せてくれるかが楽しみだ。 かつての「V字回復」を再び見ることはできるか  一方、下川は昨年オイシックスでプレーし、イースタン・リーグの最多奪三振のタイトルを獲得した。今年も開幕から安定した投球を続けて、5月1日には早くも支配下登録を勝ち取っている。アンダースローだが、ストレートは130キロ台中盤をマークすることもある。独立リーグとオイシックス時代に先発とリリーフの両方を経験してきた点も大きな強みだ。  野手では、3年目の沢井廉(2022年ドラフト3位)を挙げたい。ルーキーイヤーの2023年には18本塁打でイースタン・リーグのホームラン王を獲得。その年のオフに行われたフェニックス・リーグで右膝の大怪我を負った影響で、昨年は成績を落とした。今年は二軍でチームトップとなる4本塁打を放ち、5月27日に一軍昇格を果たした。その日はノーヒットに終わったが、翌日からは2試合連続でヒットを放っている。貴重な若手の大砲候補である沢井。首脳陣は、今後も我慢して起用し続けてもらいたい。  思い返してみると、高津臣吾監督が就任した2020年も勝率.373(41勝69敗10分)で最下位に沈んだが、翌年からはリーグ連覇を達成するなど驚きの飛躍を遂げている。今のチーム状況を見ると、あのような「V字回復」は容易ではないが、低迷している時期だからこそ、思い切った手を打てるはずだ。燕軍団の巻き返しに期待したい。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部

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