「先週から間を置かずに打ち解けた雰囲気で、率直な意見交換を行い、互いの理解をいっそう深めることができて非常に有意義だった」 5月29日夜、石破茂首相はドナルド・トランプ米大統領とおよそ30分間電話会談し、こう振り返った。両首脳は23日にも約45分間の電話会談をしており、今回はそれに続くものだ。 「23日には『カナダでのG7での対面会談を楽しみにしている』と石破首相が述べたのに対し、トランプ大統領から『そうだね。楽しみにしているよ』と返事があったことも明かしました。2回の会談から、2人の仲は良好であることがわかります」(政治担当記者) 首相就任直後、トランプ大統領との相性が心配されていた石破首相。かつて“ゴルフ外交”でトランプ大統領と良好な関係を築いた故・安倍晋三元首相と比べられるなど、石破首相の手腕は不安視されていた。だが、それは杞憂だったのかもしれない──。 「じつは石破首相とトランプ氏の間には、“ゴルフ外交”とは次元の違う強い絆があるんです」 このように断言するのは元都知事で国際政治学者の舛添要一氏だ。2人には宗教上の繋がりがあるという。 「2人を結び付けるものは、信仰です。トランプ氏はもともと、キリスト教プロテスタントの長老派(プレスビテリアン)。選挙で幅広い層の支持を得るために『特定の宗派はない』と誤魔化していますが、プレスビテリアンであることに変わりはありません。 そして、曾祖父の代からクリスチャンの家系である石破さんも、同じプレスビテリアンとして洗礼を受けています。石破さんは世田谷の千歳教会で聖書を教えたり、キリスト教に関する本を5冊くらい出版したこともある。そういう意味では、信仰心の厚いキリスト教徒と言っていいでしょう。石破さんは政治家としての生き様を決めるとき、神様に祈っているといいます。石破さんとトランプ氏の関係は、そういう意味で安倍さんの時より蜜月と言っていいでしょう」(以下「」内は舛添氏) 2人が信仰するプレスビテリアンとはどんな宗派なのか。大きな特色は「予定説」「召命」である。 「『予定説』とは、神様が救われる人と救われない人を生前から決めているという考え方です。そして信者は、自分は選ばれた人間だからどんな苦労も耐え抜いて成功する使命がある、と考える。このような使命を『召命』といいます。その教えが顕著にあらわれたのが、トランプ氏の暗殺未遂事件でした。トランプ氏は銃弾が耳をかすったものの死なずに済んだことに対し、『自分は神に選ばれた人間だから』と考えたわけです。 実際に事件後の演説では『私がこうして皆さんの前に立っているのは全能の神の恵みのおかげだ』とか、『神の摂理と恩寵によって、銃撃犯は目的を達成できず近付くこともなかった』と発言しています。トランプ氏からすると、神が自分を救ったのは、大統領にして仕事をさせるためだと考えるわけです」 銃撃後に流血しながらも素早く立ち上がり拳を突き上げ、民衆に力強さをアピールしたトランプ大統領。その後、米国内での評価はうなぎ上りとなった。さらに、わが国の石破首相もトランプ氏を「神から選ばれた大統領」とたたえた。2月7日、ホワイトハウスでおこなわれた日米首脳会談の冒頭で、石破首相は、銃撃直後の写真を引用し「歴史に残る1枚。『自分はこうして神様から選ばれた』と確信したに違いないと思った」と述べた。 「石破さんのこれらの発言はお追従でもなんでもなく、同じプレスビテリアンだからこそ出て来た言葉なんです。そして、石破さん自身も総理に選ばれたのは、神の思し召しだと考える。『召命』を我々2人に与えたんだと。2月の会談でトランプ氏は『選ばれたもの』同士が手を握ったと思ったでしょう。もちろん、記者会見の場でそんなことは口にしませんが、2人には通じるものがあったはずです」 日米両首脳が信仰を通じてお互いを理解しているならば、関税問題をはじめアメリカが少しは譲歩してくれそうなものだが、それと交渉は別物だという。 「関税問題では世界中を相手にしているわけで、日本だけを特別視できないでしょう。要するに、個人の信仰のレベルで2人は同じというだけなんです。ただ、同じ宗派だからといって、それが政策の面まで広がらないし、関税を止めるということにはまったく結びつかないと思います。それなら、同じキリスト教国であるEUだって、とっくに関税を止めているはずです。 強いて言えば、もし石破さんが仏教徒だったら考慮しなかった関税の緩和を、同じプレスビテリアンだから関税を少し緩和してやってもいいかと、その程度のことはあるかもしれませんね(笑)」 6月15日からカナダのカナナスキスで開催されるG7サミット。異国の地で再会する2人は落としどころを見つけられるのか。