最後の「洋上慰霊」へ神戸港きょう出発、「父が亡くなった場所を目に焼き付けたい」…遺族高齢化で継続困難に

 第2次世界大戦の戦地を戦没者遺族が訪ねる日本遺族会の「慰霊友好親善事業」が今年度で終わることになり、1日、最後の「洋上慰霊」に向かう船が神戸港を出発する。  戦争の悲惨さを後世に伝える役割を担ってきた事業だが、遺族の高齢化で継続が難しくなった。参加者は、海に眠る家族に思いをはせ、平和への祈りをささげる。(浜田喜将)  「父が亡くなったであろう場所をしっかりと目に焼き付けておきたい」。洋上慰霊に初めて参加する滋賀県東近江市の今堀治夫さん(84)は、力を込める。  父の虎治郎さんは1944年6月、31歳で召集され、海軍の舞鶴海兵団(京都府)で艦船の機関兵の訓練を受けた。同11月、南方行きが決まったとの便りがあった。  今堀さんは見送りのため、母のすてさんに連れられ、最後の寄港地である広島県呉市を訪れた。当時は3歳。岸壁近くに置いてあった材木に腰掛け、最後の家族水入らずの時間を過ごした記憶が、かすかに残る。  父の戦死の知らせが届いたのは45年1月。乗っていた輸送船が九州沖で米軍に攻撃され、沈没したという。  戦後は、すてさんが畑仕事で一家の暮らしを支えてくれた。その母も88年に亡くなった。結婚して2人の子どもと2人の孫に恵まれた今堀さんは、これまで仕事の都合で洋上慰霊に参加できなかったが、最後の開催と聞き、参加を決意した。  父との思い出はほとんどない。それでも、出征後に届いた手紙を読み返しては、父の無念に思いを巡らせる。手紙には、<達者にて軍務に精励しております><粉骨砕身がんばる覚悟であります>とつづられていた。  「沈む船の中で母や私を残してどんな思いだったのか。考えると胸が張り裂けそうになる」。船が九州沖を巡る2日、父に感謝の気持ちを伝えるつもりだ。 ◇  日本遺族会は91年から、慰霊友好親善事業を開始。陸上の激戦地訪問や洋上慰霊を実施してきた。2024年度まで計451回実施し、延べ1万6320人が参加した。  だが、遺族の高齢化に伴って参加者が減ってきたため、遺族会は今年度での事業終了を決定。今回、2011年、16年に続き3度目となる洋上慰霊を行った後、11月と来年3月にフィリピン訪問を実施し、30年余りにわたる事業の幕を閉じる。  厚生労働省によると、硫黄島と沖縄を含む海外で戦死した日本人約240万人のうち、現在も半数弱の約112万人の遺骨が見つかっていない。中でも、洋上で亡くなった約30万人については作業の難しさなどから収集が進まず、気持ちに区切りをつけられない遺族も少なくない。事業は、そうした人たちの心のよりどころになってきた。  パラオ沖で父親を亡くした島根県奥出雲町の石原道夫さん(86)もその1人だ。今堀さん同様、最後の洋上慰霊と聞いて参加を決めた。「私の中で戦争はまだ終わっていない。海で眠る父親の霊を迎えに行き、一緒に日本に帰りたい」と語る。  最後の洋上慰霊には42都府県から約220人が参加予定で、九州や台湾、フィリピンの沖合などを11日間かけて巡る。航海中、慰霊式典を開くほか、平和の大切さを語り継ぐ「語り部」の育成研修も行う。フィリピンでは停泊し、現地の子どもたちと交流する。  日本遺族会は「遺族にとって戦地訪問は心から追悼できる重要な機会。無事にやり遂げたい」としている。

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