高騰が止まらないマンション価格。今後、さらに上昇するのか? もう頭打ちなのか? それとも下落へと転じるのか……。不動産コンサルタントで、著書に『中古マンション これからの買い方・売り方』がある後藤一仁氏に、損をしないために知っておきたい、マンション価格の動向について教えてもらった。 12年連続で上昇している人件費 マンション価格は今後、まだ上がるのか? もう頭打ちなのか? 気になる人が多いでしょう。 このご時世、将来のことはなかなか読めないものですが、人件費の上昇、建築工事費の高騰、工期の延長、世界から見た日本の不動産の割安感など、マンション価格に影響をおよぼす要素のデータに注目すると、下がる要素はあまり見当たらないと思われます。 ここでは中古マンション価格の動向に影響を与える新築マンションの価格の動向に注目します。 新築マンションの価格は、たとえば、デベロッパーが土地をいくらで仕入れて(土地そのものの代金の他に各手数料などの購入にかかる経費も含みます)、その上に建物を建てるにはいくらかかるか(設計料、材料費などを含む施工料)、販売にかかるプロモーション費用(モデルルーム運営費・営業員人件費など)、デベロッパーの利益などを機械的に積み上げて、導き出した価格で算出されます。 日本は建築資材のほとんどを輸入に頼っていることもあり、現在の世界的な資材の値上がりや、円安の影響を受けて、日本の資材価格は上がっています。 また、建設工事にかかる人件費についてもやはり12年連続で上がっている状況です。国土交通省の「公共工事設計労務単価」(2024年3月)を見ると、人件費は全職種(2万3600円)で、前年3月比 +5.9%(2012年度比 +75.3%)」、主要12職種(2万2100円)では前年3月比 +6.3%(2012年度比 +75.7%)と上昇しています。 公共工事設計労務単価とは、官公庁などが公共工事費用を積算するときに用いる職人等技能者の労務単価(日額)のことです。 人件費については、もともと建設作業員の高齢化や少子化の影響で建設業の就業者数が減少しているところに2024年4月から始まった時間外労働の上限規制により、マンション建設現場ではさらなる人手不足が続いている状況が今後も改善される可能性は低く、これからも上がっていくことが予想されます。 人件費の上昇に加え、この時間外労働の規制によって建設業に従事する労働者の総労働時間も減少することになり、結果、建設にかかる工期も長くなっています。 工期が延びると人件費もそれだけ増えるので、このことも新築マンション価格を上昇させる原因になっています。 建築工事費の高騰と延びる工期 国土交通省が発表している2024年第3四半期までの「建設工事費デフレーター(建設にかかる費用の相場を示す指標のようなもの)」を確認してみると、マンションが含まれるRC造などの「非木造住宅」の指数は(木造住宅もですが)、2021年から上昇し続け、2024年に入ってもどんどん上昇しています。 また、マンション建設にかかる工期は前述のように現在、建設や電気設備工事関連の人手不足が影響して延びています(日本経済新聞の調査によると、首都圏の大規模物件の工期は10年で3割延びたとのこと)。 マンションは建物規模にもよりますが着工から完成まで数年はかかるので、現在の建設費用の上昇は数年後のマンション価格に反映されます。そのことから今後も工期の長期化は続く見通しのようです。 この建設工事費デフレーターに低下の兆候が現れない状況が続いていることや、工期も伸びる傾向が長期化する状況とあわせ、富裕層やインバウンド需要があるなか都心を中心にマンション用地不足が続き用地価格も上昇傾向にあることから、建設コスト面から見ると、今後も新築マンション価格が下がるということは考えにくい状況ではないかと思われます。 世界から見た日本の不動産価格 東京都心を中心としたマンション価格が高騰している要因を建築コスト上昇以外の側面から見てみると、一つには超低金利による購買力上昇があります。その他夫婦共働きで世帯収入が多いパワーカップルなどの実需層や相続税対策層、投資家層、日本人富裕層以外に、海外の富裕層が購入していることが挙げられます。 日本の不動産は、一部(防衛関係施設などの重要施設周囲など土地規制法に抵触するエリア)を除き、売買に対しての規制がほぼなく、外国人でも購入できます。 このことも外国人富裕層が日本の不動産を積極的に購入している要因の一つとなっています。外国から見ると、日本は外国人でも不動産を所有権で持てて、治安がよくて政治的なリスクも他の国に比べて低いことに加え、円安であることや相対的に割安感があることも購入意欲を上げています。 日本不動産研究所「第22回国際不動産価格賃料指数(2024年10月時点)」によれば、東京都港区の高級(ハイエンドクラス)マンション価格(1戸の専有面積当たりの分譲単価)を100とした場合の各都市との比較指数は、東京(港区)を100とした場合、北京が125.5で、上海158.3、香港258.7、台北156.1、シンガポール138.6、シドニー115.7、ニューヨーク140.8、ロンドン206.3と、東京は世界の主要都市と比べいかに割安であるかがわかります。 また、賃料での比較では、東京都港区の高級ハイエンドクラスマンション(1戸の専有面積当たりの賃料単価)を100とした場合の各都市との比較指数では、北京75.3、上海83.8、香港203.0、台北69.7、シンガポール163.1、シドニー134.3、ニューヨーク265.2、ロンドン264.6となっています。 北京、上海、台北は、不動産価格が東京より高いのに、賃料は低く、彼らから見ると、東京は、割安で買えるのに高く貸せる、いわゆる投資利回りが高い国として魅力的にうつるでしょう。 価格の「三極化」が激しくなっている メディアにてマンション価格高騰のニュースが取り上げられることが多いので、私のもとにも「今マンション価格が高騰していると聞いたから、売却を考えている。相談に乗ってほしい」といった連絡が多く入ります。 しかし、中古マンションは「東京23区」や「大阪市」の上昇に対して、それ以外の都市は、上がっているところもあるものの平均ではほぼ横ばいの状況で、すべてのマンションが上がっているわけではないのです。 上がっているところと、横ばいのところ、下がっているところもあるといった状況で、実際に価格査定をしてみると下落しているエリアも結構出てきています。 つまり、「価格が上昇しているエリア」「横ばいのエリア」「価格が下がっているエリア」の三極化が激しくなっているのです。購入を考えている方は、この動向を踏まえて、どのエリアに、どんな物件を買うかが重要になってくるといえます。 【もっと読む】直近5年で爆騰したタワマン「ベスト120」でわかった「値上がりするタワマンの5条件」