朝ドラ脚本家を「暗黒のヒモ時代」から支え続けた妻、不登校の子に向き合う「共通点」

結婚は「好きだから」だけでは難しい。なぜならそれは共に暮らす「生活」「現実」があるからだ。衣食住をどうするか、家事は、育児は、そして仕事は……。まったくの他人だった二人が「共に生きる」と決めて結婚してから「夫婦の形」をともに作っていくことになる。そして、才能に惚れた夫がほとんど稼げず、ヒモ状態になりながらセックスを求めてくるということだって……。 『それでも俺は、妻としたい』は、上記のような「実話」を、足立紳監督自らが描いた作品だ。原作の同名小説はフィクションもかなり入っているが、2025年上半期、テレビ大阪・BSテレ東で放送され、話題になったテレビドラマはフィクション部分は除き、このたび5月30日から公開の劇場版『それでも俺は、妻としたい』として映画にもなることになった。 しかし映画で風間俊介さんが演じる主人公の豪太は、再現ドラマの仕事がきても結局妻のチカ(MEGUMI)に丸投げしてしまったり、稼ぐことを自ら考えないなかなかのクズっぷりだ。足立紳監督と妻の晃子さんにインタビューをした第1回では「セックスレス」のテーマについて、第2回ではなぜ晃子さんは10年間もヒモ状態の夫を養ったのかといういことを入り口に、発達障害、不登校、義実家問題などを深掘りしている。第2回前編では、豪太を演じた風間さんも驚くようなヒモっぷりを語ってくれたおふたり。それでも離婚をしなかった理由を「才能というのかやっぱり彼を面白いと思っていた」と晃子さんは語っていた。 実際、NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本もつとめたわけだが、実はこのときもまあまあ大変だったらしい——。 朝ドラの脚本も逃げようとした ——才能が認められ、NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当されましたね。 晃子:あれは嬉しかったですよ。でも夫は断ろうとしたんです。忙しくなるのが嫌だと全力で逃げようとしたんですよ。だから私は「ちょっと待て」と。朝ドラを受けたら、映画も多分もっと撮れるようになるよと言って説得しました。 紳:朝ドラの仕事は、誰に聞いても大変だとおっしゃるので断る方向で考えていたんですけど、晃子さんが「朝ドラの仕事を受けたら、執筆中は絶対に怒らない」って言う。「だったらやる」って喜び勇んで受けたのですが、すぐに晃子さんに怒られた。 晃子:だって、忙しいアピールをしまくるんだもの。「大変だ、大変だ」と自分ばかりが大変なように言うけれど、私も仕事をしているし、不登校の子供も、受験生もいる。みんなそれぞれ頑張っているのに、自分ばかりが忙しいようなことを言うのはダメでしょ。 紳:当然、時間に追われて、それまで通りの家事や育児ができなくなったんです。でも晃子さんは「今まで通りに、やれ」と言う。 晃子:やってなかったじゃん。だから私がやることになった。でもそれは、朝ドラの仕事がめちゃくちゃ嬉しかったこともある。あと、「この仕事は絶対に流れない」という安心感もありがたかった。それに、朝ドラをやれば多くの人に認知されますし、絶対に映画の企画が通りやすくなると思ったんです。 そもそも、この人は人間としてびっくりすることが多いんですよね。働けない、働きたくないだけじゃない。もう家の中でも……たとえばいろんな靴下が冷蔵庫に入っているとか。 紳:なんかとりあえず片付けろ、みたいなことを言われると、もういいやと思って。ボンボンボンボンと拾って冷蔵庫が目の前とかにあると、もうそん中入れとけっていうところがあるんですよね。 不登校や発達障害 ——『それでも俺は、妻としたい』は、セックスレス、性的役割分担、義実家問題に加え、不登校や発達障害など、現代の多くの家族が抱える問題を描いています。チカが発達障害の息子に対する対応は、「あなたがそこにいて、私はうれしい」という気持ちが息子に伝わるし、とても素敵だなと思いました。 晃子:どうしていいかも、息子の気持ちもわからず、手当たり次第に本を読んでいました。正解がわからないから、息子のベストを探るしかない。だから、息子が健やかでいられるように、あらゆる向き合い方をしていました。当事者として、可能性を模索していたのです。 映画でもわかるとおり、夫の対応に当事者意識がない。自分が中心なんです。息子がキャパオーバーになり、パニックになっているのがわからない。接し方がわからないから、映画のように評価したり、叱ったりしちゃうんですよ。 紳:愛情はあるのに、どうしていいかわからない。良かれと思ってやったことが、裏目に出てしまうのです。 晃子:あのシーンのリアルさは、実話ということもあります。夫には、全く悪気がない。だから、こっちも注意のしようがない。お互いに子供を愛しているのにね。何があっても、子供には親が悩んでいる姿は見せられませんよ。 でもこの映画で描いているのは、私たちは親として開き直ったあたりなんです。いちいち気にしても、介入しても意味がないとわかったあたりです。 出会って30年、一番嬉しいのは… ——夫婦や家族の生々しい愛の物語ですね。 晃子:小説を多くの方に褒めていただき、映像化されたドラマは好評を博し、映画にもなりました。出会って30年、ようやくここまで来たんだという心境です。足立作品のファンである私もとてもうれしいですが、やはり一番うれしいのは、夫が無理しないで仕事をしていること。 これが私にとって、一番ストレスがないんですよね。楽しく撮影して、あと脚本もたくさんのアイディアを出して練り上げていく。恵まれた環境で、夫がいきいきしているところが、心から嬉しいんです。 紳:そうだったんだ。晃子さんは、あんまり喜びを出さないんですよね。今の話を、2人きりのときに言ってくれればいいのに。 晃子:面倒くさいな! 紳:僕は全然気づいていなかったんですけど。最近、娘が「ママはツンデレだから」っていうんですよ。でも、ツンデレって言われると、晃子さん、怒るでしょ? 晃子:ツンデレじゃないから。それにあなたは、いつも褒めるのが下手だと文句を言う。もういいじゃない! ◇セックスレスから夫婦の問題を浮き彫りにした“足立紳監督夫妻の実話”『劇場版 それでも俺は、妻としたい』は、5月30日から劇場公開される。ご夫妻と話して、晃子さんの底抜けの明るさと、紳さんの楽天家っぷり、そして深い愛に驚くことだらけだった。発達障害の息子にも、ヒモだった夫にも、「健やかで自分らしくいられること」を願う。そんな晃子さんの共通する思いが、「家族」を作っているのだろう。 足立紳(あだち・しん)1972(昭和47)年、鳥取県生れ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書きはじめる。松田優作賞受賞作「百円の恋」が2014(平成26)年に映画化され、話題を集める。同作にて、シナリオ作家協会 菊島隆三賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。2016年、NHKドラマ「佐知とマユ」が市川森一脚本賞受賞、2019(令和元)年、監督・脚本を手がけた「喜劇 愛妻物語」が東京国際映画祭最優秀脚本賞受賞。2023年にはNHK連続テレビ小説「ブギウギ」で脚本を担当。小説作品に、『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』『それでも俺は、妻としたい』『したいとか、したくないとかの話じゃない』『春よ来い、マジで来い』がある。 『劇場版 それでも俺は、妻としたい』5月30日(金)公開 風間俊介 MEGUMI 嶋田鉄太 吉本実憂 熊谷真実 近藤芳正 原作:足立紳『それでも俺は、妻としたい』(新潮文庫刊) 脚本・監督:足立紳 エンディングテーマ:どぶろっく「ずっとずっと、ありがとう。」(TEICHIKU ENTERTAINMENT) 配給:東映ビデオ 2025年/日本/129分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル ©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会 【前編】「恐るべきヒモっぷり」夫と2人の子供を養ってきた妻に聞く「なぜ離婚しなかったのか」

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